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第35話 迫られる男

すいません、投稿したつもりが出来てなかったようで……。

 午後のバイトが終わった。こうやって体を動かしている間は何も考えなくて済むが、いざ労働から解放された時には疲労感に襲われたりする。

「先にひとっ風呂浴びるか……」

 今日はマイさんが市場で買ってきたエビを使った料理を作ってくれるそうな。エビは俺の好物の一つなので、凄く楽しみである。

 着替えをもって、浴室に来た。最近は温度が物足りないときには『無限機関』で調整してから入るようになっている。以前にも述べたような気がするが、俺は熱い湯に浸かるのが大好きなんでな。

 すっぽんぽんになった俺は掛け湯をして湯船に入った。

「かぁーっ、極楽極楽」

 年々オッサン度が上昇している気がするが、それはそれとして気持ちいい。酷使した筋肉に暖かさが染み入る。

「………………」と、ここまでゆるゆるだった脳味噌が突然働き始めた。何を考えようとしているのかと言えば、先日ティトに言われた『俺が狙われている』という意味だ。

 正直に言って、俺は今の関係性があれば『無限機関』など必要ないと思っていた。確かにあれは強力で、頼もしい力なのかもしれないが、それを俺が持つ事に何の意味があるのだろう。

 しかし、深夜にユアと話をして分かった。俺は、今を守るためにこの力が必要なんだと気が付いた。悲しい事に、『無限機関』を使わなければ俺はこの世界では非力だ。いくら肉体的に強くたって、それを上回る力が襲い掛かればたちまち窮地に追い込まれる。自分だけで精いっぱいな奴に、他者を守れるはずがない。

(だから、俺は『無限機関』を……いや、俺の居場所を手放したくないのか。何と身勝手な話だ事)

 何だろう、贅沢が過ぎるような気がした。



 体を拭いて着替えを済ませた後、その身で食卓につく。

「今日はエビフライにしてみたわ。さぁ、召し上がれ」

 確かに、俺の知るエビフライと見た目はそっくりだ。

「では、いただきます!」

 サクッ、歯触りよくカラりと揚がった衣に包まれたエビが美味い。付け合わせのキャベツも、ドレッシングのおかげで本来の甘みが更に引き立つ。

「あぁ、美味しいなぁ」

 人は食事を摂っている時には意外と語彙力が減るようだ。そもそも口数すら少なくなる。だから、テレビのグルメコメンテーターはその実料理を真に味わって食べていないように思えてしまう。脳の回転が伝えようとする一点に集中してしまっては実に勿体ないと思うのだが、どうだろうか?

 それにしても、流石に風呂場にまでユアはついて来なかったな。いや、ついて来られても困るが。やはり生徒会室のアレが原因だろうか。まぁそれ以前に付き合ってもいない異性と裸の付き合いをするという状況が実にイレギュラーである訳ですが。

 彼女は昼間のバイト中にヘルプとして入ったりもしていた。そう言えば依然言ったウェイトレスのバイトはどうするんだろうか。気になって聞いてみようと思ったが、そこまで詮索する権利はないと思った。俺はあいつの兄でも弟でも、ましてや恋人でもないんだ、そんな事に気を使ってられるか。ただ気になるのは、今朝から妙に献身的な態度をとる彼女から、どことなく焦りのようなものが見られる事だ。こんな事で負担を強いてしまっては申し訳ないと思うものの、古くよりデリカシーに欠ける事で悪名高い俺が下手に首を突っ込むのは逆効果な気がしてしょうがない。

「美味しいですね、阿陰!私も精進しなくちゃ……将来の為に」気負うのはいいが、何故俺を見るんだおまい。やめてくれ、その期待は。



 喰った喰った、と満足したのも早々に、腹ごなしも兼ねてストレッチを行った。充実した一日とはまさにこの事か。午前の練習中にシフさんに言われて気が付いたが、どうもオーバーワーク気味だったようで、しばらく夜はストレッチのみにしたほうがいいらしい。自分の事は自分が良く知ってるなんて言われる事もあるが、このように知らない事も沢山存在するものであったりする訳だ。ともあれ、それが済んだ以上は歯磨きを終え寝るだけだと思っていたが、どうも今日は違うらしい。そう気づいたのは、昨日と打って変わってすんなり眠りにつけた直後の事だった。

 ベッドが揺れている。いや、俺がそうなのか。いや、妙な感触が腰のあたりに来ているような……。

「誰だ、騒がしいな……」

 目を見開くと、何故か見覚えのある顔がそこに居た。その人物は……。

「ユア?」

「あ、違います」

 俺の質問に、ユアにそっくりな少女は首を振った。じゃあお前は誰だ。それにしても妙にエロい服装だな。特にトップスなんてほとんどブラと変わんないんじゃないのか、その恰好。

「私は、ユア・リヴィエラ・エルシアと契約した土地神・リヴィエラです。貴方とは初めましてですよね、アイン・アイノ様」

「……そうだ、よろしく。というよりその童貞の妄想丸出しみたいな恰好をやめてくれ、俺が今まで出会ってきた女の中であんたは間違いなく『痴女』カテゴリに分類されるぞ」

「なんだ、ユアちゃんに対してあんなに狼狽えていたのに、私にはマグロですか」

 いや、正直危なかった。顔がそっくりと言ったが、体型まで似ているのはどういう事なのか。目のやりどころに困る衣装と合わせて破壊力抜群だ。俺が紳士だからどうにか耐えられたんだぞ、もう少し感謝しなさい。

「EDかホモの間違いでは?」

「……誰か、チェーンソーを持ってきてくれ。一撃必殺しちゃる」言っていいことと悪いことがあるという事実をその身に刻み込んでくれようか!

「冗談です。やはり、私の見込み通りの人でしたね。これならユアちゃんを任せられます」

「幾ら契約者だからって、そういう所まで決めるもんなのか?」それって、普通は親がやったりするものだと思うが。

「土地神の力を受け継ぐという事は、責任重大です。もし邪悪な人間に力が渡れば、その力は悪い方向へ向かってしまうでしょう」

「ツェギンがそうだったようにか。だが、俺が邪悪でないと何故分かる?褒められた生き方はしちゃいないが」そう、俺の人生は決して真っ当な人間が歩むべきそれとは大きく乖離していた。

 しかし、リヴィエラはそんな事は知っていたと言わんばかりに答えた。

「大切なのは、どう生きたかじゃありません。どう生きていくかです。貴方は病的なまでに自分を追い詰め過ぎている部分はありますが、それは常に責任と覚悟をもって生きているからではないですか?」

「……さぁ?少なくとも、俺の人生一回分じゃ、この身が犯した罪はすすぎきれないと思うが」

「そういう点が、自分を追い詰めている証ですよ。でも、これほど誠実な方だからこそユアちゃんも惚れたんでしょうね」

 リヴィエラの言うように俺が誠実かどうかはさておき、少なくとも彼女に認められているという事は分かった……ん?一つ気になる部分がある。

「ユアが、俺に惚れてるだと?」まさかぁ、昨日のだってあくまで事故じゃないか。あいつも、寝ぼけてたって結論が出たし。

「むしろ惚れる要素しかないと思いますけど……」

「そうか?はた迷惑な野郎が住み着いてきたって感じだと思ってるけど」

「……はぁ。貴方の最大の難点は、その鈍感さだと思いますね。ユアちゃんも苦労しそう……」

「……よく分からんが、けなされてるような気がするな」

 何となくだが、これ以上は続けても意味が無いように感じた。どうしても知りたいなら、本人に聞けばいいだろうし。それよりも、だ。

「……ここで会ったのも他生の縁だ。少しくらい、こっちの質問に答えてくれるか?」

 一度、真剣に向き合う。リヴィエラもそれを受けて、真顔になった。

「いいでしょう、ですが時間はあまり残っていませんから一回だけですよ?」

「それでいい。じゃあ質問」息を吸って、吐いて。俺は次の言葉を口にした。「元の世界へ戻るには、どうしたらいい?」

「………………少し残酷な話になるかもしれませんが、それでもいいですか?」

「構わん」

「それでは、言いますよ」

 彼女は、少し複雑そうに語り始めた。

お詫びも兼ねて今日続き書きます

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