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第28話 湯けむり浴室と雑魚寝

年末年始はもうちょっとまともに投稿ペース上げられると思います。

 逃げられぬ選択の後、俺は何とか入浴する事が出来た。湯船の心地よい暖かさより、羞恥の熱さが体を温めているように思える。

「本当に良かったのか?別に断っても全く気にしないのに……」

「い、いえ……むしろ好都合というか……」

「好都合……?」

「……何でもありません」

 結局、俺はユアを選んだ。理由は大別して二つ。一つは消極的な理由で、殆どが初対面の人間と同じ湯釜に入るよりは、多少なりとも見知った中の彼女を選ぶ方が色々とリスクは少ないと思ったからだが、

「結局、ドタバタして色々話せなかったもんな」もう一つは、こうやって二人で話す機会を設けたかったのだ。きっかけは最悪だが、これだけはかろうじてミルラに感謝してもいいだろうな。

「そうですね……あっという間に色んなことが進んでいって」そう返答しながら、シャワーを浴びるユア。流石に両者全裸じゃどうしようもないので、バスタオルを使わせることにした。本来は持ち込んじゃいけないみたいだが、別にここは銭湯でもないんだし許してくれ。ちなみに俺も腰元に巻いてある。

「だな……」

 いかん、会話が思った以上に盛り上がらない。それもそのはず、互いに遠慮しているのだ。ううむ、やはり強引だったか……こうなったら、

「……すまなかった」俺から切り出すしかない。

「え……」

「もっと早くお前に事情を話すべきだったな。ったく、俺の悪い癖だ。自分一人じゃ何も出来ないことだって、なるべく巻き込ませたくないってだけで一人で抱え込んで……」

「……そのことは、もういいですから。何があったのか教えて下さい」

「あぁ、話すぞ」

 そこから先、俺はユアに対して全部を話した。あ、流石に盗聴とかはぼかしてます。

「……という訳で、俺は何とかエディを倒す事が出来た」

「あ……あの時の爆発音ってその時のだったんですね」

「ま、多分そうだな」

 それにしても、随分と色気のない会話である。若い男女がほぼ全裸で狭い密室に居るというのに、出て来る単語はキックだの爆発だのいくらか物騒だ。

「ところで、阿陰が話していたティトって方……彼女はどういう……」

「被害者だよ、エディのな。解決後に半ば無理矢理番号を交換させられた」

「番号って、『コール・ブレスレット』のですか?」

「あぁ、それだそれ」確かそんな名前だったな、あの通信機。そういや、ユアは持ってないんだっけか。

「はい。ちょっと値が張りますし……」

「俺のは実質タダで貰ったようなものだから、これの定価は知らない。でも、お前ならマイさんに頼めば買って貰えるはずだろ」

「私は扶養されてる立場ですし、あまりお母さんにねだるのも少し気が引けて……」

 家族に甘える事に慣れてないんだな、と思った。そういえばこいつは、我の強いタイプではなかった。

「小遣いとかあるんだろ?それを貯めてりゃ買えるさ」

「私、あまりお小遣い貰えないんです。若い頃から多くお金を使ったら金銭感覚が麻痺するって、お父さんが……」

「だったらバイトだ。なんなら一緒に探すぞ」

「バイトって、うちで阿陰がやってるのですよね。私もやるんですか?」

「いや、別の場所でやるんだよ。例えば……街中のカフェでウェイトレスをやるとかな」

 絶対似合うと思う。

「え、えぇっ!?それは……何というか、恥ずかしいです……」ユアは驚いて、何故か赤面した。その衝撃でバスタオルに包まれた彼女の肢体の、最も柔らかそうな部分が揺れる……お、落ち着け、俺!

「そ、そうか?でもな、何事もやってみなきゃ詳しく語れないだろ?」動揺を隠すようにしながら、そんな風に言ってみる。

「うーん、でもクラブもありますし……」

「毎日ある訳じゃないんだろ?早く帰れる日と休日の中で、無理せず少しずつ働きゃいいじゃねぇか。いくら家が金持ちだからって世の中の勉強もしねぇと碌な事にならねぇ」

 現実と違って履歴書もないんだし、まずはお試しって感じでいいだろ。

「……そう、かもしれないですね。分かりました、ちょっと相談してみます」シャワーで頭の泡を流し終えたユアの返事を聞いて、俺もひとまずは肩の荷が下りた気分だ。

「あぁ、頑張れよ」

 実際、今日みたいな事が起きないとも限らない。万が一を考えれば、連絡手段があるにこした事は無いからな。

 ここまでで終われば良い話だったのだが……脳味噌が温まると変なことまで思い出すようで。

「あぁ、そうだ。そういやさ、お前と初めて会った時って湖だか泉だかで沐浴してたよな」

「……!?」

「あれって何をやってたんだ?」純粋な興味がわいて、質問してみるが。

「……何でこのタイミングでそんな昔の事を思い出したんですか……?」あ、あれ?さっきまで少し上機嫌だったはずなのに何故急にそんな引きつった笑顔を……!?

「い、いや、単純に興味が……」

「きょ、興味って!まさか私を選んだのって、そういう……」

「違う違う!そういうつもりじゃなくてだな、いやお前の事が嫌いって訳でもなく……あーどう説明すべきか分かんねェ!!」

 予想外の地雷を踏んだ事に思わず叫び、扉の奥から「うるさい!」と文句が飛んできた。申し訳ございません。

「いいから、ちゃんと聞かせて下さい!何で私にそんな……きゃあっ!?」

「っ、危ない!!」

 突然転んだユアを抱きとめるため、急いで湯船から上がる。

「……あ、あれ?痛くない……」

「大丈夫か?ったく、一体何が……あぁ、洗面器を踏んづけたんだな。取り敢えず怪我が無くてよかった……ん?」

 ギリギリで間に合ったおかげで彼女は無事だったが、その体勢がまずかった。バスタブに前から倒れ込むユアを正面から受け止めたので、ちょうど真正面から抱き合うような形になる。おまけに結び目が緩かったせいか、彼女のバスタオルがずり落ちてしまい、俺の胸の下あたりに不思議な感触が……。

「えええっ!?」

「わわっ、悪い!離れるから……っ!?」彼女を元の位置に戻しつつ、そこで更なる脅威を目の当たりにする。

 完全に一糸纏わぬ姿のユアがそこにいた。今まで布切れに覆われていた豊満な体つきが解放され、その威力をいかんなく発揮している。何と言ってもこれまで見る事の叶わなかった下半身の艶めかしさといったら……。あれ?そういや俺も腰の周りがスースーしてるような……。

「あ、阿陰!バスタオルが……!いやああああっ!」

「う、うわああああっ!?」

 オーマイガーッ!!ここに来て俺の最終安全ラインたる布の防壁がその職務を放棄し、本体を差し置いて水に揺蕩う緊急事態!一方、守護対象のはずだった最終兵器・アンダーキャノンはターゲットを確認したのかゆっくりと仰角をとっていやがるッ!急いで戻さねば……!

 そんな事を考えている内に、俺は右の頬をバチンとぶたれましたとさ。

 結論:狭い場所での混浴は危険。



「あはははははははは」モミジのタトゥーを顔面の右側に刻まれた俺の顔を見るや否や、ミルラは腹を抱えて大爆笑。

「笑い事じゃねぇよ……!」

 もう、お婿に行けません。

「す、すみません……。動転してしまって……」

「気にすんなよ、元はと言えばこのちゃらんぽらん女が悪いんだから」

 申し訳なさそうな表情のユアをフォローする。

「幾らなんでもちゃらんぽらんはないでしょ、アイン君たら!」

「楓もすまなかった。確かに色々騒ぎ過ぎたな」

「ま、まぁ気にしないわ。大事にはならなかったみたいだし」で、お前は何でそんなに顔が赤いんだよ。思いきり笑い飛ばしてよ。

「無視!?いきなり酷いっ!」

 取り敢えず、俺のビジュアルのおかげで笑い話に出来た。いや、そういった感あるけどこれ普通に大問題だからね?下手すりゃお縄だからね?

「そ、そうだ。結局布団はどうなったんだ」

「それがね……」またミルラが怪しい笑みを浮かべる。本人的には困ってるような演技のつもりなのだろうが、その実明らかに俺をハメようとしている雰囲気しか感じねぇ!

「布団が一セット足りねぇんだよなぁ。運が悪い事に」キリカも棒読みで演技バレバレだし。

「残念」オーロラも大概だし。くそっ、グルかこいつらは!

「……今度こそ、俺は抜けさせてもらうぞ。椅子でも並べて寝っ転がる」

「それはダメだねぇ。行儀が良くないなぁ」とクローネ。

 言い分自体は真っ当だが、お前らは行儀よりも先に羞恥心と秩序を守りなさいっ。

「じゃあ、せめて布団を選ばせてくれ。後は俺にいい考えがある」



「一、二、三、四、五、六、七。本当に足らないんだな……」

 板張りの床に布団という絶望的なミスマッチに目を奪われることなく、俺はその総数を数えた。

「ねっ、言ったでしょ?」

「楓、押し入れで寝かせてくれ」

「ドラ◯もんかあんたは」

「また無視!?」

 勝手に涙目になってる副会長様は放っておいて、俺はそれぞれの布団の隙間を詰める。

「よし、これで出来た」

「……何が変わったのかしら?見た所、大きな違いが無いように思いますが……」マリアがキョトンとした顔で疑問を口にする。

「こうやって隙間を詰めておけば、隣の敷布団にも体が乗るだろ?一つの布団に二人が入ると、他の六人より一人当たりの面積は狭くなる。だけどこんな風にすれば全員が少し狭い思いをするだけで済む」

「なるほどなぁ。でもよ、枕はどうしようもねぇんじゃねぇのか?」キリカに突っ込まれるが、それも織り込み済みだ。

「あぁ、それは大丈夫だ。俺はこいつを使うから」俺が学生カバンから取り出したのは、ノートの束。これに浴室から持ってきたバスタオルを巻きつけ、即席の枕にする。

「ちょっと硬いけど、俺はそっちの方が好きだからな」

 俺は連結した布団の右端に即席枕を載せ、そのまま布団を被る。

「じゃ、後は皆で決めてくれ。おやすみ」

『雑!』

「ZZZ……」

『しかも寝るの早いし!』

 疲れからか瞼を閉じ、黒塗りの闇に突入してしまう。というのは冗談で、こうも騒がれては眠りにつけないので騒動が落ち着くまで寝たふりをしておこう。



「………………」

 おや、部屋が何時の間にか真っ暗だ。誰かが火を消したらしい。それにしても不便なものだ、電気が通っていれば一々火を付けたり消さなくても明かりが確保できるというのに。

「本当に寝ちゃったか」

 先程あれ程の事をしでかしたのだから、俺の近くで寝ようとするのは居ないだろう。これも俺の狙いだったワケだが、予想外の事態が起きる。

「……それにしても、腰に何かくっ付いてるな……」

 布団の内側で不埒者が俺にくっついてきているらしい。邪魔なので振り払おうと布団を引っぺがすと……。

「お前かよ……」

 はっしと縋るようにひっついてるのは楓だった。もはや呆れてものも言えない。花の生徒会長がこんな馬の骨と同衾している場面を知られたら大問題になるぞ……。

「ただでさえ俺の命は危ないのに」

 何がどうしてこうなったのか、ここ最近の俺の下駄箱はちょっと不吉なレターで一杯である。女々しいんだよ、やってることが。

 しょうがない。俺は楓をなるべく起こさないように引きはがして布団に寝かせた後、何事もなかったかのように寝る事にした。



 まどろみを抜けて広がった光景は、どこかの城内だ。何だこれは?

「陛下、お休みなさいませ」あ、誰だこの芋野郎。分かり易い帽子を被って、兵士のコスプレか?まぁいいや、それっぽく返答しちゃえ。

「おう……じゃなかった、あぁ。お前達もしっかり体を休めるんだぞ」

 そう言って、俺は玉座を立った。玉座というからには、俺は王様か何かなのだろうな。で、何処に行けばいいのだろうと思っていると、何故か体が次の目的地を向いて進軍し始めた。

「………………」

 立ち止まったのは、やたら豪勢な装飾の扉だ。それを開けると……。

『陛下ぁ~』

「……えぇ……」

 女、女、女のオンパレードだ。しかもあれだあれ、皆妙に薄着だな。スゲェスッケスケだぜ!

「お疲れ様でした、早速癒しますね~」

「いや、寝かせてよ!」何で自然な流れで抱き付いてくるの!?何なのコレ、どういう意味なの!?

「こらこら、あまり陛下を困らせるんじゃありません」おお、助け船か!?「まずはじらすことから始めましょう」やめぇい!!

 阿鼻叫喚、酒池肉林、四面楚歌。モンスターハ◯スに迷い込んだ風来人もびっくりの危機が目の前に迫っていた。分かり易く言うと、何で俺を脱がそうとする!?

「やめなさい、あなた達」そんな状況で、誰かの声が響き渡る。いや、この声聞いたことがある!

『カエデ様!』もう疑問すら口を出なくなったぞ……!

「王は本日も激務の疲れがとれておりませぬ。これほどの人数を相手にするには体力がもたないでしょう」

「お、おう!だから早く寝かせてくれ!」良かった、救世主はここに居たんだ。

「なので、今日は代表して私が王に抱かれることにしましょう!」なので、じゃねーよ!楓、お前どうしちまったんだこの野郎っ!

 ツッコミで精神がすり減りつつある俺の元に、楓がやって来た。な、何をする気だ!?

「……がしっ」

「はぁ!?」待って、何でお前まで俺をホールドしてくるの!?

 体勢の崩れた俺は後ろのベッドに楓もろとも倒れ込み、そして……。

「阿陰……今日だけはあたしを……」

「目を覚ませーっ!!」



「はっ!!」

 目を見開いたら、自分が先程まで見ていた教室の壁が入ってきた。

「夢か、さっきのは……」

 こっち来てからやべー夢しか見てねぇな、俺。腕時計を見ると、今は午前5時50分。三度寝はしたくない時間だった。

「んん……」隣では、まだ楓が寝ているようだ。ったく、こいつは能天気で良いな。

「さて、着替えを済ませるか。それと朝飯の準備だ」

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