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第27話 宿泊

「へぇ、こんなものもあるのか」

 再び通された生徒会室を改めて見渡す。扉を入ってすぐの部屋は俺が尋問を受けた場所で、そこ自体は小さな黒板と少々古ぼけた机があるだけの空間だ。しかし、そこに取り付けられた扉にはそれぞれ違った部屋が繋がっていた。

 まず左側の部屋は板張り……フローリングの8畳だ。豪華な調度品が並べられている一方で、真ん中には折り畳み可能な円形テーブルが置かれているのがシュールだ。反対の右側には扉が二つ、手前は調理場である。質素なものだが、軽食くらいなら作れるのかもしれない。そして三つ目は残る水回り、洗面所と浴室だ。洗面所にはトイレが付属しており所謂ユニットタイプである事が分かる。

「それにしてもよくこんな設備が揃ってるな。何故だ?」

「あー、それはね……」楓が苦笑いしながら答える。「あたしの数代前の会長が、いざという時の生徒の駆け込み場所として隣の空き教室ごと勝手に整備しちゃったのよ。で、一度作っちゃったものは簡単にどかせないから……」

「要するに撤去が面倒くさかったって話だな」はた迷惑、ここに極まれりといった感じだな。

「まぁ、そう言われちゃそうなんだけどね。でも後々の事情を聞いてみると、その人の気持ちも分からなくはないかもしれないわ」

 駆け込み場所って言ってたな、もしかしてそれが関係するのだろうか。俺はそんな事を疑問に思ったが、楓に聞く前に別の人物によって遮られた。

「二人だけで話してないで、ほら互いに自己紹介しようよ!」

 先程俺達の宿泊を勧めた女学生だ。その他のメンバーとユアも集まり、教室の椅子に座る。あれ、予備の椅子が一つしかないな。仕方ない、俺は立っておこう。

「それじゃ、親睦会を始めましょう。まずは挨拶からね」司会担当は楓のようだ。

 そのままそれぞれが自己紹介を行い、それにより楓以外のメンバー5人の名前を知った。

 一番背の低い黒髪の緩いツインテールの少女がクローネ・ギャレット。ゆったりした喋り方で、穏やかな印象がある2年生の書記だ。「よろしくね~」

 二番目に低い水色とピンクのショートヘアの少女がマリア・アイゼンナハト・ノーチラス。お嬢様口調でちょっと高飛車な雰囲気の2年生の会計担当である。「殿方を招き入れるのは久方ぶりですわね」

 上から二番目に背の高いのが白髪ボブカットで眼鏡をかけた女生徒、オーロラ・ディアス。3年生にして文化活動代表らしいが、いかにもかったるそうな口調で「ん、よろしく」と言われた後はどうも視線が合ってない。大丈夫なのか?

 最も背が高いのが茶髪ポニーテールで男前風な顔つきの女子、キリカ・クロスレイト。どうやら俺のヘッドハンティングを決めたのは彼女の一声が決め手らしく、イメージ通りに男勝りな性格のようだ。ちなみにこちらは運動活動代表の3年生であるようだ。「ヘッ、まさか本当に来ちまうなんてなぁ。まぁ、オレに勝てるかは知らねぇけどな」

 そして残りの一人が……あの少女だ。

「よーし、いよいよ出番だね!あたいは3年生で副会長のミルラ・アーヴェント!多分妹が世話になってるのかな?」

 妹というのはリーゼロッテのことである。へぇ、あいつに姉貴なんて居たのか。

「あれ、言ってなかった?おかしいなぁ、あの子の事だからあっさり話してたりすると思ったんだけど」

「普段忙しそうっすからね、あいつ」

 その後は俺達も自己紹介をし、次のプログラムは……と考えていたが。

「じゃ、解散!消灯まで各自好きなよーに!」

「………………えぇ」

 ミルラの号令で俺とユアを除く六人が一斉に立ち上がり、蜘蛛の子を散らすようにそれぞれ好き勝手に行動し始めた。楓とマリアは部屋の角に置かれた段ボール箱を持ってきて中身を長机上にぶちまけてるし、クローネはキッチンに行ったようだ。残りの三人は「もう一度見回りに行ってくる」と行って部屋の外に出ていって、やることがないのは俺達二人だけだ。

「何か手伝ったりした方が良い気がするな」ユアはどうか知らないけど、俺は周りで作業をやってる人間が居ると手を貸したくなってしまう性である。ただ、楓達が行ってるのは各種書類の整理であり、素人の俺がやっても邪魔なだけだろう。かと言って色々とゴタゴタが残ってる以上、ほとぼり冷めるまでは下手に外に出られない。

「……料理を手伝うか。ユア、お前はどうする?」

「そうですね……私はお風呂場を掃除しようと思います」

「了解」

 そう言って、俺は調理場へと移動した。



「あれぇ?アイノ君たら、何のようかなぁ?」

「一人で準備するのは大変だろ、何か任せてくれ」

「んーと、じゃあスパゲッティ茹でてくれる?クロはぁ、パン焼くから」

「あ、ついでだしソースも作っていいか?勿論今ある分だけでやるけど」

「まぁ、いいよ~。頼むね~」

 許可を貰ったので、まずは寸胴鍋に水をたっぷり入れる。次いで火にかけようとするが、薪はあるものの火種になりそうなものがない。

「あ、忘れてた。ちょっと楓ちゃん呼んでくるから、待ってて……」

「いいよ、これくらい自分でどうにかする」

 俺はかまどの薪に触れたまま、手から炎を出した。引火した薪が、灼炎を灯し煌々と燃える。

「ありゃ、あっさりやっちゃった」

「あいつの手を煩わせるのも何だしな。このくらいなら自分でできるようにならんと」

「いやはや、噂通りだねぇ」

「噂通り?」

「キミって相当目を付けられてるよ、色んな人々にねぇ。だって複数の属性を自在に操れるなんて、かなりのレアなんじゃない?」

 俺はそんなこと知らんが、どうも『無限機関』はその性質上、傍から見ればそのように見えるらしい。

「そういうもんかね。俺としては、最低でも『自在に』って部分だけは異論を唱えたいけどな」

 現状使えるのは力学・熱・電気・波・化学エネルギーだが、正直どれもこれも使いこなせてるとは言い難い。百歩譲って力学的エネルギーはまだマシだとしても、他は今一つ応用できていない。化学エネルギーに至っては応急処置レベルの治療にしか活かせず、どうにも持て余している感が強い。

 もっと言えば、唯一変換すらままならないエネルギーが存在する。光エネルギーである。

 一度だけ挑戦してみたことがあったが、全く効果が無かった。ほんのちょっと光ったくらいじゃ何の役にも立ちやしないだろう。第一光源が欲しいなら熱や電気でも代替できるし、他の用途も思いつかない。

「もっと勉強しなきゃならんことが一杯だな。お前もそうなんだろ」

「そうだね~。おっとっと、水が沸騰してるよ」

「おぉ、ホントだ。それじゃ塩と乾麺突っ込んで茹でるか。その間にソース作っとこう」

 スパゲッティを投入した後、隣のコンロ|(と表現していいのだろうか)に深めのフライパンを載せる。ソースは……トマトベースにしようか。俺は油をひいたフライパンに缶詰トマトを開け、切ったニンジンと玉ねぎを入れる。肉はなかったので、代わりに大豆で代用しようか。

「っと、麺が茹であがったな」俺は鍋から麺を取り出し、残った熱湯にザルごと豆を入れた。程よい塩分でふっくらと茹でたら、フライパンに投入する。いい具合に煮詰まったら、各種調味料で味付けすれば即席ソースの出来上がりだ。後は皿を取り出し、盛り付ける。

「こっちも出来たよ~」クローネがパンを持ってきた。へぇ、バゲットとはまたおしゃれだな。

「じゃ、持っていくか」

 俺達は出来上がった料理を板張りの部屋に持っていった。ちょうど見回りに行ったメンバーも帰ってきて、タイミングはばっちりだ。どうせなら出来立てを食べてもらいたいからな。



『それじゃあ、いただきます!』

 自分以外女というある種異質な空間で、俺は自分の作った飯を食うという奇妙な体験をすることになった。む、まだまだ味付けが大雑把だな。普段使ってる調味料と勝手が違うから仕方のない部分はあるが、精進が足りないのは事実だろう。

「いやいや、男でこれは凄いよ!」何故か楓が興奮している。

「そうか?この程度なら大したことないって」

 それに、俺としてはクローネの作ったパンの方が美味しいと思うのだ。小麦の味を生かしつつ、食感豊かなブレッドは元の世界でもあまり味わえない。

「そんな褒めないでよ~……惚れちゃうじゃない」明らかに冗談めかしながら、クローネがほんのり顔を赤くする。

 食事中の話題は、もっぱら俺に関するトピックであった。しかしそこは生徒会、基本的には真面目な問答が占める。

「噂には聞いてたが、何種類もの魔法が使えるんだって?」真っ先に食べ終わったキリカが聞いてくる。

「そういうことになるな」

「淡々と答えちゃってるけど、炎担当が楓ちゃんだけじゃなくなるのは便利だねぇ」クローネはのほほんと俺を評価する。おいこら、人をチャッカ◯ンか何かみたいに言うなっ。

「ところで、お風呂はどうしますの?普段宿泊する時は3人づつ分けて入るのだけど……」マリアに言われて、確かに悩む。楓から聞かされたが、浴槽に入れるは三人同時が限界らしい。生徒会メンバーだけなら三人づつ二回に分けて入ればいいし、女子だけなら1回増えるだけなのだが。よく見ると、視線が俺に向いている。

「……俺だけ別で入るよ。後は七人で三回入れば良いんじゃないか?」俺は最初に入るのか、それとも最後にするかを悩んでいた。うーん、いっそ湯船には浸からないで浴びるだけでもいいかな。

 しかし、想定外の答えが飛び出した。

「そんなの勿体ないよ!ボッチ風呂だなんて!」ミルラが滅茶苦茶言い出しよった。何言うとんじゃ己は。

「誰がボッチだ!第一しょうがねぇだろ、こん中で俺と混浴したいなんて酔狂な奴なんぞ居る訳ないし!」

「……それは貴方の意見でしかない」ここまで殆ど喋らなかったオーロラが顔を上げずにぽつりとつぶやいた。いや、意味わかんねぇし!

「この年代の男子が女体に興味を持つように、女子は男体に興味がある。しかし、実物を見られるのは一部の限られた人間でしかない」

「おぞましいなそれは!」恐ろしすぎてガクガク震える俺。

「そして、この場に居る七人には幸か不幸かそういった人物ではない。つまり……」

 考えたくもなかった。何時の間にか俺は、知らず知らずに地蜘蛛の巣を踏んでしまったような気分になった。後は食われるだけなのだろうか。

 その後、あまりに不毛な言い争いの後、最終的に『俺自身に選んでもらう』という妥協案が通った。さて、俺は誰を選ぼうか……。

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