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第17話 変化と目標

「……それで、話って何かしら?」楓は少々不機嫌気味に質問してきた。何とか誤解を解いたものの、未だその視線は鋭く痛い。

「あぁ、お前だったらもしかしたら知ってるかもと思ってな。『無限機関インフィニティ・ドライブ』ってのは聞いたことあるか?」

 三田三郎は恐らくそれを知っている。何らかの思惑があって俺に隠し通そうとしていたのだ。そしてこの世界で生きていくためには、自分が持つこの未知なる力と向き合っていかなければならない。そのためには、『無限機関』に関する情報を集める必要があった。

 しかし、楓の返答は。

「『無限機関』……知らないわ。もしかしたらおじい……じゃなくて理事長なら知ってるかもしれないけど……」

「そうか、すまねぇな」それなら仕方ない。と、俺が次の手段を考えていると、

「で、それは一体何の事なの?」今度は楓が問うてくる。どうやら興味があるようだ。

「……まぁ、隠すほどの事でもないか。端的に言うと、エネルギーを操る魔法の一種らしいんだ。そして、俺が今まで肉体強化として使ってきたのは、実はその魔法だった。あと今朝、俺の戦いを見てたなら分かるかもしれないけど、あの時右足から炎が出てたろ?あれもその仕業なんだと」

「へぇ。って事は、あんたはその『無限機関』とかいう魔法を何故か覚えていて、でもその詳細は知らないって訳ね。でも、そもそもどうやってその魔法の名前を知ったの?」

「あー……よく分からん奴から名前と大雑把な説明だけ聞いたんだ」

「何よそれ、ハッキリしないわね」

 それを言われると困る。如何せんあっさりとした別れだった故に、不意を突かれたからな。色々と問い質す余裕がなかった。

「何だったら、今から図書館に行かない?もしかしたら蔵書の中に記述があるかもしれないし」

「良いのか?俺、まだ生徒じゃないのに」

「大丈夫よ、一般の人々にも開放してるから」

「そうか。じゃあ、一緒に探してくれると助かるな」

「……しょうがないなぁ。ま、乗りかかった舟だしね、手伝ってあげるわ」

 こうして、俺達は図書館へ向かう事になった。



「おぉ、かなり大きいな」

 前回楓に案内された時は外観だけだったが、こうやって内部に入ってみると改めてそのスケールを実感する。地上3階・地下2階のレンガ造りで、正面入り口付近は吹き抜けとなっている。

「探すなら古文書や魔導百科の辺りかしら……」そんな俺とは対照的に、楓はテキパキと動く。

 彼女に連れられて来たのは3階の一角、大型図書を収める区画だ。

「こういう時、パソコンか何かで蔵書を調べられると非常に楽なんだけどな」背表紙に書かれた文字の羅列とにらめっこしながら、思わずぼやいた。

「仕方ないでしょ?パソコンの発掘・調査はまだ行われていないし、もし再現できたとしても今度はインターネット回線の整備や安定した電気供給を確立しないといけないし」楓も苦笑する。そういや、こいつはいつ頃この世界に来たんだろうか。

「なぁ、前々から聞きたかったんだが……お前はいつ、転生したんだ?」

「そうね……4年くらい前だったわ」

「4年前……小学生か。今ほどひねくれてなくて可愛げがあったんだろうなぁ」

「ねぇ、また焼かれたいの?」俺の不用意な発言に怒ったようだ。

「すまんすまん。教えてくれて有難いな」

 4年前。俺がまだ道を踏み外す前に、こいつはこの世界に来たってことか。

「怖くなかったのか?そんな幼いのに」

「親切な家庭に拾われたのよ。あたしは、そこで育ったの」

 楓はあまり追及してほしくなさそうに、やや眉をひそめて事情を話す。しかし俺はこの部分に、強い違和感を覚えた。理事長は自分の事を楓の祖父と言い、また彼女をこの異世界に呼び寄せた人物でもある。ならば、なぜ彼自身が楓を保護しなかったのか。まだまだ謎の多い彼だが、少なくとも救世の異邦人の一人である彼女は、理事長にとっても重要なファクターであるはずだ。それなのに、なぜ他者の手に自分の孫娘を委ねた?その思惑は、一体何なんだ?

「………………」

「あのー、ちょっと……」ひたすら考え込んでいた俺に、楓が話しかけて来る。

「……あぁ。ちょっと考え事を……」

「もう。本来の目的を忘れたんじゃないでしょうね」

 そうだった、まだめぼしい本を見つけられていない。

「つったって、如何せんヒントが抽象に過ぎている以上探すのは難しいな」

「ふふふ、そんな時こそ」楓はポケットから、虫眼鏡を取り出す。何だそれは。

「『記述探知機センテンス・サーチャー』よ。これを通して本を覗くと、探している単語・文が存在するかどうかが一発で分かるの」

 つまり、今回は『無限機関』という言葉が入っているかどうかを判断できるって事か。

「いや、最初から出せよ」

「駄目駄目。魔法はあくまで自分に出来ない事を補助するための物なんだから、ちゃんと時間を掛ければ出来る事に対して安易に使っちゃいけません」

「……じゃあ何故、使おうとするんだ……」

「……ただし、場合による。ってことで」

 こいつ、自分に都合のいいように解釈してやがる!?



 3時間後。

「……はぁ。結局見つからなかったな」

「ごめん、力になれなくて」

「はは、いいよ。あまり気にすんな、元よりすんなり行くとは思ってなかったし」

 出来る事なら、あまり楓を長時間付き合わせるつもりは無かった。少なくとも夕方までには解放してやらなきゃと思った。

「しかし、ここまで手掛かりなしとはね……」楓も後半1時間は少々だれ気味で、俺が持ってきた本を確認するのも大変そうだった。最後の方はぐだっと机に突っ伏し、大欠伸をかます力の抜けっぷりを見せつけてくれたが、ホント今日は他の学生に出会わなくてよかったな。

 ぴんぽんぱんぽーん。チャイムが鳴り、閉館のアナウンスが流れた。

「皆様、本日も図書館を利用して頂きありがとうございました。間もなく閉館いたします。お忘れ物の無いように……」

「じゃあ、今机の上にある本を全部戻してから帰りますか。悪かったな、今日1日世話になりっぱなしで」

「大丈夫よ。改めて、これからよろしくね、藍野君」

「亜陰でいいよ」

「分かった。それじゃ、亜陰で」

 その後、俺達は本の片づけをして解散する事にした。時刻はもう5時である。

「じゃあな、楓」

「う、うん。こちらこそ、亜陰」あれ、なんでこいつ何で顔赤くなってんだろう。いや、そんなことはどうでもいいか。

 楓と分かれて、俺はどうしようか迷った。

「ユアは……今日は課外活動の日って聞いたな」

 律儀な事に、今日あれだけの事があったにもかかわらず出席するらしい。まぁ、あいつらしいと言えばそれまでかもしれんが。

「かといって、一人で帰るのもなぁ」

 この10日間で、俺の危機管理能力は僅かだがレベルアップしていた。また面倒事に巻き込まれるのは勘弁してほしい……そう思っていたのだが。

「……なぁ、そこに居るんだろうが」

 物陰に誰か隠れているのを察知し、問いかける。人数は恐らく2人か。

「やっぱりか。おっさん、それに……亜理素」

 現れたのは、以前マイさんの店を訪ねてきたツェギンの家来を名乗る男と、フードを被った小柄な少女・桜島亜理素だった。

「おいおい、おっさんは無いぜ。オレにはジョニー・ウェストという名前があるんだ」男が困った表情で訂正を求める。

「今朝の話は聞いたよ。殺したんだってね、ツェギンを」亜理素はそんな彼を無視して、話しかけてきた。

「……しょっ引くのか?」

「まさか。それどころか皆、君を英雄視してるよ」

「暴君が死んだからな。これでサバスの民は解放された」

 少なくとも二人は、俺をどうこうしようという訳ではないようだ。俺は警戒を解いて、会話を続ける。

「でも、ヤツが死んだらそこに住んでる人間はどうなるんだ?」

「散り散りになるだろうな」ジョニーが答える。「あの地に愛着が無い人間……例えば、奴隷として連れてこられた連中なら、もともと住んでいた環境へと帰るだろうし、この機会を利用して別の土地に移り住もうとする人間もいる」

「おっさん達はどうするんだ?」

「オレは、サバスに残って後処理をする。ツェギンに義理などないが、ヤツの親父さんには世話になったからな」

「ボクはレイファの街で雇い先を探すよ。せっかく解放されたんだから、もっと世界の色んなものに目を向けないとね。まずはそのための資金稼ぎさ」

 二人とも、既に次の目標を決めているのか。だったら、俺もその手伝いをさせてもらおうかな。

「おっさん、力仕事ぐらいなら俺でも手伝えそうだし、もし働き手が必要な時は手紙でも送ってくれ」

「おう、了解だ」

 直接的には俺が招いた結末だ、後始末はつけないとな。

「で、亜理素。良い雇い先を紹介してやろうか?」

「心当たりがあるみたいだね。しかもその場所は恐らく……」

「あぁ」ニヤリと俺は笑った。多分、あの3人なら望みはあるだろうからな。まずは、1人目を説得するためにしばし待ちますか。

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