第1話 番長と呼ばれた少年
夕日が、河川敷を赤く照らす。
「てめぇ、今日という今日はブッ潰してやるぜ!」
口を開いた奴は、先日突っかかってきた隣町の不良グループのリーダーと名乗った男だ。あの時は軽くのしてやったが、それが彼のプライドを傷つけてしまったらしい。今回は手下と思しき男子30名ほどを引き連れ、俺を本気で潰そうとしているようだ。
「いいぜ。……テメェにそれができたらなぁ!!」
俺はそう言って、息を強く吸った。今年は例年よりも寒い日が多く、4月というのに空気はまだ少し冷たい。息を吐き出し、軽い調子で手招きしてやる。さっさと来いよ、と。
「舐めやがって!お前ら、やっちまえ!!」
リーダーが号令を出し、まずはバットを持った手下5人が襲い掛かる。俺はサイドステップでそれを躱し、乱れた陣形の中で最も弱いと思われる一人の鳩尾を殴りつけた。腹を抱え呻き崩れる手下A(勝手に命名)の首根っこをつかみ、前へ突き出しながら嗤う。
「おいおい。下手に手を出せば、こいつに当たっちまうぜ」
「汚ねぇぞあいつ!平気で他人を盾にしやがるのか!」手下の一人が叫ぶが、どうでもいい。
「ああそうだよ。勝つためには、手段は選ばないんでなぁ!!」手下Aを土手に投げ捨て、隙をついてリーダーに急接近する。棘付きグローブやら木刀やら持った後方の手下どもが止めようとするが、もう遅い。
俺の拳は敵リーダーの顔面を強く殴り飛ばし、其のまま彼は地面に頭をぶつけた。
「で、お前らのお頭はご覧の有様だけど。続きやる?」俺は手下たちに、問いかけてやった。
「くそぉ!お、覚えてろよ!」
手下たちに担がれていく男二人を皮肉たっぷりの笑顔で見送ってやると、典型的捨て台詞で逃げ帰っていった。
「ふう、勝った勝った」腕を伸ばしてつぶやき、土手から舗装路に上がる。
「相変わらずめちゃくちゃな勝ち方だな、お前は」そう投げかけてきたのは俺の友人だ。
「……お前に言われても一ミリたりとも嬉しくねぇよ、景一」彼に預けていたカバンを返してもらい、俺は背を向ける。
「褒めてないのにそうとるのか?」景一は後ろからこんなことを言い出す。それに俺はいつもの文句。
「生憎、ひねくれてるんでね。俺は」
「ふ、そうだな。それじゃあまた明日な、阿陰」景一はそう言って、曲がり角へ消えたようだ。
「やれやれ……」ゆらゆら、ふらふら。のんびり河川敷を歩き、家を目指す。
それにしても、ふと思う。
「せっかく娑婆に出たってのに、ここ一年とんと面白い話がねぇや」