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御華詩Garden  作者: nakoso
3/7

スナオ/Monthly/スガオ


 いつだって寝覚めがいいのが自慢。

 日曜日のa.m.9:00――鳴る寸前に目覚まし時計を止めた。

 しゃかっ! とカーテン開けて取り込む午前の陽射し。ベッドでうめいて寝返り打った、その背を揺らす。

 キミは不機嫌に鼻を鳴らして、背中を丸めた。

 あと5分……

 抱えた掛け布団に埋めた、くぐもる声。

 八つ当たり気味に背中を叩いても反応なし。

 あきらめてキッチンへ。

 フライパンを左手に、右手には卵を2つ。

 かつかつとコンロの火を付けて、熱したフライパンに油を敷く。左右の手でそれぞれ割った卵は、フライパンに落ちるなり寄り添った。

 じゅわわわわ。

 弱火にしてフタを閉じる。

 冷蔵庫から取り出した牛乳をコップに注いで一気飲み。

 ぷはーっ。

 牛乳を戻したところでベーコンとご対面。

 おはよう。いるなら言えよ。ベーコンエッグにしてやったのに。

 冷蔵庫に放置して、フライパンのフタを開けばいい塩梅。水を注いだら、じゅわわじゅわわ。湯気ごとフタで閉じ込めた。

 さて。ここで取り出しますはヤマ○キの6枚スライスパン。残り2枚なり。

 にやり。

 黄身が白くなった目玉焼きを挟んで、いただきます。

 3口目で黄身が潰れて。

 4口目で指先の黄身を舐め取って。

 6口目でキミが起きた。

 膨張した頭を掻きながら、ギリギリ開いたまぶたで見たのはパン袋。ついさっきから燃えないゴミ。

 そんな目で見たって知らないよ。起きないキミが悪いんだ。

 ふてくされたキミはテレビを付けて社会情勢を見つめるけど、大してキョーミがないって、アクビが即証明。

 満腹感をみぞおちに見付けて、残ったパンをキミにお届け。

「食べる?」

 つまんだパンにかぶり付いたキミは犬に似てる。

 気紛れで寝癖の似合う、飼い慣らすには少しばかり手に余る犬。

 キミの頬についた黄身をキスで拭った。

「朝イチバン、モーニングクーイズ!」

「ねむ……」

「今日は何の日でしょう?」

「ねむ……」

「何の日でしょー?」

「ねむ…いたいいたい」

 頬を引っ張って横に伸びる顔。

 今日は2月、第3日曜日。

 寝惚けたまんまキミが言う。

「1年記念日?」

「それは先週」

「同棲半年記念日?」

「それも先週。しかも同じ日」

「んー?」

「忘れた?」

「忘れてないッス」

 キミは壁にかかったカレンダーを指差すと、またアクビした。アートだとか言ってキミの買ったカレンダー。アートが何なのかなんてわからないけど、今日の日付に入ってる赤い星はわかる。

「準備すっかあ」

 大口開けて背伸びするキミに頷いた。

 半分眠ったまんまのキミと並んで歯を磨く。

 青いハブラシと白いハブラシ。

 しゃこしゃこ。しゃくしゃく。

 2つの顔が映る鏡がスキ。

 キミがいつも、めいっぱい歯磨き粉を使ってくれるおかげで、チューブの残りを気にするようになった。

 チューブの絞り方が上手くなったよ。

 キミがトイレに入ってる間に着替える。ジーンズとパーカー。一緒に暮らし始めて半年経つけど、着替えてるとこを見られるのは気恥ずかしいから。

 パンツ一丁でウロウロするキミは笑うけどね。

 顔を洗ってから、キミとトイレ交代。

「ちょっと待った」

 キミが差し出したトイレットペーパーを受け取って、いざ引きこもり。

 なるほど。確かに半分しかない。

 でもそんなに使わないってば。

 活躍を次回に見送られたトイレットペーパーが不憫に思えて、こもってる間ずっと持っといてあげた。

 トイレから出たら、鏡の前で首を傾げてるキミがいた。

「どうしたの?」

「ヒゲって剃るべき?」

「いいんじゃない?」

「……それってどっち? 剃っていいの? 剃らなくていいの?」

「剃らなくてもいいんじゃない?」

「了解」

 そういって着替え始めたキミは、ひょっとしてずっと考えあぐねてた?

 呆れた。

 ジーンズにウィンドブレーカーを羽織ったキミと戸締りを確認して、外に出る。

 あっぱれ快晴、青い空。

 どこまでも抜けて広い蒼。

 手をつないで歩く道はぽっかぽか。

 遠回りして、公園に寄ってみよう。


 あ、キャッチボールしてる。

 最近見ない風景だな。

 キャッチボールしてた?

 サッカー少年だったんで。

 初耳。

 言ったじゃん。

 憶えてないよ。

 ……そっスか。

 髪、伸びたね。

 んー、そう?

 クセっ毛だからわかりにくいかも。

 髪、下ろした方がいいんじゃね?

 んー、そう?

 そっちのがスキ。

 じゃ、下ろそう。


 先月、土曜日の深夜。

 キミとケンカした。

 どっちが吹っかけたかなんて憶えてないし、何がきっかけだったかも忘れた。

 今までで一番でかいケンカだったね。

 キミは外に出る時に大きな音でドアを閉めて、ベッドに伏して泣く恋人を振り返りもしなかった。

 別れようと思った。

 キライだと思った。

 事故って死んでしまえと思った。

 ホントだよ。

 泣いて、泣いて、枕を投げて、泣いて、泣いて。

 キミの大切なパソコン、壊してやろうって決心した。

 目覚まし時計を右手に、パソコンの前まで行ったんだ。

 あの、写真を貼ったディスプレイを見て。

 あの、L判サイズに収まった2つの笑顔を見て。

 あの、2人暮らしをスタートした日の写真を見て。

 もしもキミが事故ったら。

 事故りはしなくても、このまま帰って来なかったら。

 そう考えたら、時計を投げ付けられなかったよ。

 写真の2人が笑うから。

 1人じゃこの部屋は広いから。

 キミをウソにしたくないから。

 ホントでいてほしいから。

 そしたらまた泣けて来た。

 泣いて、泣いて、ごめんねって言って、泣いて、泣いて。

 後ろから抱きしめてくれた時、いつ帰って来たのかわからなかった。

 そんなのどうでもよかった。

 ごめん、ってキミが言って。

 ごめんね、って言い返して。

 もうどこにも行ってほしくなくて、キミを押し倒した。

 気付けばもう朝で、そんな時間まで求め合う事に慣れてなかったキミは、照れて、笑って、

「外、歩こうか」

 お風呂に入って、湯冷めするといけないからと心配したキミがマフラーを巻いてくれた。

 その手が。

 めったに見せない気遣いが。

 うれしくてうれしくて、すぐに外を歩きたくなった。

 1月。午前の風はすっぴんの顔をさらっと撫でて、ボクはキミの手を握った。

 キミとならすっぴんでも大丈夫。

 でもやっぱり恥ずかしいから、月イチにしよう。

 毎月第3日曜日の午前中。

 すっぴんで散歩しよう。

 キミを大切に思えた朝だから。

 スガオでスナオに。

 これからもよろしくお願いします。


 今日は2月、第3日曜日。

 散歩がてら、歯磨き粉とトイレットペーパーを買った。

 歯磨き粉は2本。

 キミはこれからも、めいっぱい歯磨き粉を使うから。











恋人たちの恒例行事のお話。周りから見ればどうでもいい事でも、2人の間では大切だったりするのです。

ね?(何

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