忌み子
「僕は、『忌み子』なんだ」
「……?…………??」
首を傾げたエルドに、今度はガイムが語りかける。
「レイマに流れてる東洋人の血はな……かつてこの世界を魔王の危機から救ってくれた異界の勇者のものなんだ」
「勇者……?いや待て、かつて世界を救った異界の勇者って。あの男も6年後同じ事をやるって……」
「勇者は魔王を殺す事が出来なかった。だがその代わりに聖剣を使って魔王を封印したんだ。世界に平和が訪れた」
「なら……何故今、魔王がいるんだ」
「そこだ。実は勇者召喚の際、勇者だけでなく召喚された女がいたんだ。それが……かつて『聖女』と呼ばれた、とても美しく醜い『大罪者』」
「は?聖女がなんで大罪者なんだよ」
「……それが、僕が忌み子と呼ばれる理由。
勇者は聖女と結ばれ……誰もが彼らを祝福したんだけど……」
「聖女は勇者の聖剣を使って魔王を復活させた」
…………。
3人の間に静寂が訪れる。
「……何故?」
「言い伝えでは魔王の配下の『堕天使』に唆されたらしいな。魔王を復活させれば永遠の命と裕福な暮らしを与えるって」
「それだけで……」
「そして魔王は復活、聖剣を聖女に奪われた勇者は太刀打ち出来ず……。やがて勇者は死に、残ったのは勇者と大罪者の子孫のみ」
「その子孫は、勇者と大罪者の持ち合わせた黒眼黒髪の特徴を持っていた。目立つし……忌まわしいよね。だから東の大陸で集落を創って暮らしていた。だから僕等は『東洋人』と呼ばれるんだよ」
「……なるほど」
「でも最近になって、また魔王が暴れ出したじゃない?だから人々の怒りの矛先は東洋人に向けられたりしてね……。集落も攻められて、僕は家族と共に逃げて来たんだけど」
「途中で騎士団の奴等と鉢合わせたらしくてな。レイマは騎士団に捕まっちまって……レイマ以外の家族は逃げられた様だが」
「それで、僕が騎士団に処刑されそうになった時に隊長が駆けつけて助けてくれたんだ。だから僕もエルドと同じ感じ。初めは修行と安定した兵士としての暮らし……、そしてそれから2年後に正式入団したんだ」
エルドは黙ってそれを聞いた。
そして少し俯いて考える素振りを見せた。
「レイマを捕らえておきながら、使えると分かったら騎士団に勧誘か。
……なぁ。俺は今の調子だといつ正式入団出来るんだ?」
「さぁな……それは全部の部隊長が相談して、最終的には国王が決める事だからなぁ。」
「俺絶対、兵士団入る。そんで魔族と戦う」
「ど、どうしたのエルド?急に……」
「なんか……やる気が湧いてきた。特訓してくる」
「ちょっ、エルド!?」
エルドは顔を上げ、そう言うと直ぐ様駆け出して行った。レイマがそれを見て追いかけて行くのを、ガイムは少し笑いながら見つめていた。