騎士団
「紅色……。お前、騎士団?なのか?」
「ほう、我々の事も耳に入っていたのかね。レイマあたりから聞いたのか……。ふふふ」
「……なんかお前、気に食わねぇな」
「おや。それは悲しいね」
突然現れたその男にエルドは警戒していた。
紅色のマントを身に着け、長身で少し癖のあるブロンドの髪に翠色の瞳。男の年齢はガイムと同じくらいだろうか。
「……で、俺に何の用だ?」
「おや、我々の事を知っているのなら私の用事も勘付いていると思ったのだがね」
「引き抜き、か?」
「ふふふ……人聞きが悪いじゃないか。私は『勧誘』をしに来ただけさ」
エルドは訝しげな視線を男に送る。
「どちらにせよ同じだろう。言っておくが俺は王国兵士団だから騎士団には入らない」
「ふっ、まだ正式に兵士にはなっていないのだろう?あくまでも……正式入団テスト中って事だ。つまり君はまだフリー……、まだ遅くないのだよ。今まで『勧誘』してきた者達も同じ時期に騎士団へ入ってくれたよ」
「……王国兵士団も騎士団も、人間を守る為の部隊だろ。何故わざわざこんなことをする」
「…………ふふふ。なるほどな。
少年、よく聞け。王国兵士団は攻撃隊、騎士団は防衛隊。少年は知っているか?……6年後、『勇者召喚』が行われる事を」
「勇者……?」
「この世界の創造主、ディンガナシー様のお告げだ。6年後、ありったけの魔力を使って異界からの勇者召喚を行えとな。
勇者が魔王を叩く――。ありがたい戦力だ。
……ふふふ。分かるか?少年」
『勇者召喚』、『創造主ディンガナシー』。
聞き覚えのない単語にエルドは首を傾げた。
「……なるほど、な。よく分からんが王国兵士団は用なしって事か」
「話が早くて助かるな。やはり噂は本当のようだな」
「俺の噂がどんなものかは知らないが。
――どちらにせよ俺は兵士を目指す」
「……ほう?6年後用無しと言われ国外追放されても良いのかね?」
「そんなの知るか。そもそもその話が本当だとして、王国兵士団は本当に用無しとなるのか?国王がそう言ったのか?」
「…………。」
「それに……俺が兵士を目指すのは、レイマと共に戦いたいだけだ。」
「レイマ……か。奴も……9年前お前と同じ様な事を言っていたな」
「……レイマも引き抜こうとしてたのか」
「ふふ……。9年前『勧誘』しただけさ。
奴は確か……『ガイムと供に戦いたい』だとか言ってたな」
「……ガイムと……?」
「まあ今はどうでも良い。
――今日は帰るとしよう。気が変わったらいつでも騎士団へ来ると良い……また来るぞ、少年」
「二度と来るなクソ野郎が」
そして男は去っていった。
エルドはひとり考え込む。
「(……レイマとガイムって……、一体どんな関係なんだ?)」
エルドはまだ知らない事ばかりだった。
この国の王の顔も知らなければ、魔族との戦争の事も詳しくは分からない。全て貴族の井戸端話から立ち聞きしたものばかりだ。
だが、これだけは知っていた。
貴族の井戸端話を立ち聞きした時の事。
「『忌みられし東洋人の末裔がこの地区で暮らしている。早く生け捕りにしなければ――』
…………か。」
東洋人と言えば、レイマ。東洋人が忌み嫌われているのならば、何故彼は王国兵士団に入れたのだろう?そして、あの地区に住んでいた東洋人の末裔がもしレイマとその家族だったとしたら――。
「――――分からん……。」
エルドは知らない事ばかりだった。