「ヒト」の知恵
「こうやってだな、剣の先端はなるべく上に向けて構えるんだ」
エルドは次の日から早速ガイムから剣術を教わっていた。
「おし、今教えた事を踏まえて俺に襲いかかってこい、俺は反撃はしないから」
「……ん」
スッと、エルドは目を細めて剣を構えた。
そして――
ガキンッ!!
「――――っ、ちょ!?うわわっ」
「…………。」
ガイムは慌てて剣を構え直して防御した。
エルドの攻撃が余りにも――速すぎて。
「え、エルド……お前……」
「凄い、エルド!ねえ隊長、これならすぐに正式入団出来るんじゃない?」
「いや可笑しいだろ!?この数時間でこの速さとか可笑しいだろ!?」
「何でも良い……ガイム、もっと教えろ」
「レイマ……変わってくれ……」
エルドは一言で言えば『天才』であった。
彼はもう剣術を己の物としていた。
「……じゃあ、僕が指導変わろうか?」
「おお!そうしてくれ!」
「でも僕が教えるのは剣術じゃなくて――、『飛行術』かな」
「……いや流石にそれは早くないか?」
「大丈夫大丈夫!エルドなら出来る!」
「…………。」
「まだガキなのに……大丈夫かぁ?」
相変わらずエルドは無口であった。
「じゃあエルド、『飛行術』について教えるよ。
まずはこのブーツを履いて……、靴底に何か付いているの分かる?」
「……なんだ、これ」
エルドが徐ろに渡されたブーツの靴底を覗き込むと、空色の石が埋め込まれていた。
その石は淡く光っていた。
「これはね……『魔法石』って言って、魔族が死んだ時に吐き出す石のひとつなんだ。」
「魔族……!?」
「エルドは昔から続いてる人間と魔族との戦争はよく分かるでしょ?そして僕達王国兵士団と騎士団乃存在意義も。
僕等人間が奴等に勝つ為には、奴等さえも最大限利用しなくてはならないんだ。」
「魔族が死んだ時にこいつを吐き出す――って事は、これは魔族の魔力が込められているのか?」
「詳しくは分かってないけど今はそう考えられているんだ。そして、この魔法石には『風』の魔力が込められていて……っと!」
「――――っ!?」
レイマはそこまで言葉を続けると、突然大きくジャンプした。
だがエルドが驚いたのは――、レイマがそのまま宙に留まっていたからだ。
「魔法石は身体の一部に接触してれば思い通りに魔法を扱えるんだ!だから王国兵士団はブーツにこれを装着して空中戦も可能にした。王国兵士団に入る為にはこの『飛行術』が必要なんだよ」
「……なるほど」
「王国兵士団は『防衛隊』ではなくて『攻撃隊』だからね……。その分覚える事が多くて……
……って、えぇ!?」
「こんな感じか?」
レイマが顔を上げると、そこにはブーツを履いて宙に浮かぶエルドの姿があった。
普通は飛行術をすぐに身に付けられる筈がないのだ。
そう、『普通』は。