エルドとレイマ
本日2話目
「おっと大人しくしてろよ、ガキ?」
「白髪に金の瞳なぁ、これはかなりの上玉だぞ」
「さっさと奴隷商人に売り飛ばそうぜ」
「…………。」
汚い身なりの3人組の男達が1人の少年を囲んでいた。簡単に言えばこの男達は少年を売ろうとしているのだ。
「にしてもこのガキ、なんも喋らねぇな。」
「まさか喋らねぇとかじゃねぇだろうな?」
「おいお前、なんか喋れよ」
「…………。」
少年は何も言葉を発さない。
ただその虚ろな金の瞳を伏せているだけだった。
「おい……ガキ!舐めてんのか!?」
「チッ、もう何でも良い!さっさと縛っちまうぞ」
男達は少年を慣れた手つきで縛り上げて行く。
少年は抵抗さえしなかった。
「ヘヘッ……これで暫くは楽出来るだろ」
「―――待てっ!!」
「「「!?」」」
だが少年が連れて行かれる事は無かった。
鉄の鎧に身を包み、藍色のマントを纏った青年――王国兵士だ。
「に……逃げろ!」
「逃がすか!」
「っうぐ……!?」
青年は俊敏な動きで男達の前へ回り込み――腰の剣の柄で腹部を一突きした。
「もしもし、こちらレイマ。子供の誘拐犯と思しき男3人を捕獲。援護を頼む」
青年はマントの内側から鎖を取り出して男達を縛り上げた。
そして―――
「大丈夫かい……っ、!?」
「…………。」
少年を縛っていた縄を解き、青年は少年に笑い掛けた。
少年は相変わらず無言―――だが、少し視線を上へ向けた。
その眼差しに青年は思わず息を呑んだ。
少年は口を開く。
「……なんで、邪魔した……!」
全てを諦めたような、それでいて強い力を宿したような――そんな瞳で、少年はそう言って青年を睨んだ。
「奴隷でも、何でも良い……屋根のあるちゃんとした生活が欲しかった……。
人間と魔族の戦争だか何だか知らねえが、俺達を巻き込むな。裕福な貴族ばかりが恵まれて……!」
「―――っ!」
青年は驚いた。少年の言葉にも驚いたが、何よりこんなまだ10歳にも満たないような少年に睨まれ怯えている自分に驚いていた。
「――君。君はいくつなのかな?」
「……お前に答える義理は……」
「じゃあ、名前は何て言うのかな?」
青年は怯えながらも精一杯の笑顔を作り、少年に問い掛けた。
「……チッ。
―――『エルド』。今年で確か9歳の筈だ」
「9歳……の、割には随分と大人びてるねぇ。」
「…………。」
「ねえ、エルド?
―――王国兵士にならない?」
「…………!」
「屋根があって、毎日ご飯が食べられて、柔らかいベッドで寝れる。そんな生活を僕は君に用意出来るんだ。その為には……王国兵士として、戦争に参加してくれないかな?」
「――――っ」
「勿論無理にとは言わないよ。
ただ、僕は……君と共に戦ってみたいな!」
少年は視線を下に落として考える素振りを見せた。
そして、少しの沈黙の後、
「……チッ……良いだろう」
「本当!?ありがとう!!
あ、僕は王国兵士のレイマ!宜しくね、エルド!」
こうして身寄りの無い少年『エルド』は王国兵士となった。
青年『レイマ』はいつの間にかエルドに対する怯えが消え、仲間にまで引き込んだ。
そしてこれが後に『人外』と呼ばれる少年、エルドとその恩師、レイマの出会いだった。