第37話 にゃんタレス
自宅で猫を抱いていたら、思いつきました
ギルドマスターの部屋を後にしたカズマはふと大変な事に気付く。
「あ、金がない」
持っていた金はすべて【スレイプニルの宿】に置いてきている。
「サラは持ってるか?」
ダメ元で聞いてみるが
「ううん、持ってないよ」
「だよなぁ~」
金がないと宿にも泊まれない。
よってクエストを受ける……が、
「まずはサラの冒険者登録だな」
そう、サラはまだ冒険者登録をしていないはず。
クエストを一人で受けるより二人で受けたほうが楽なのだ。
カズマはそう自分に言い聞かせ、サラと狐耳の受付嬢がいるカウンターへと向かった。
「あの、冒険者登録を……」
「ひゃいっ!! 冒険者登録でしゅね!!」
言い終わる前に受付嬢がものすごい勢いで喋り出した。しかも噛み噛みだ。
「うぅぅ……」
顔を真っ赤にさせる受付嬢。頭の狐耳が力なく倒れている。
「……あの、冒険者登録をしたいんですが」
こういうのはスルーしておくに限る。下手に刺激すると逆効果なのだ。
「はい……どうぞこちらの必要事項を書いてください……」
すごい落ちこんでるけど大丈夫だろうか、なんだかすごくいたたまれない気持ちになる。
「サラは文字書けるのか?」
「むっ! それぐらい書けるもん!!」
鉛筆を引ったくり書き始めるサラ。ここにいても仕方がないので離れた椅子に座り待機する。
待っている間にギルド内をぐるりと見渡す。
(ミルドの冒険者ギルドよりでかいな)
上は吹き抜けになっており二階ではギルド職員と思わしき人達がせわしなく動き回っており、その中にはちらほらと冒険者が見える。
天井ではシーリングファンがクルクルと回っていて、なんとなく喫茶店の様だが喧騒が鳴り響いているのでいやおうにも冒険者ギルドであることを実感させられる。
そんな風に中を眺めていると、カウンターの奥から先ほどの狐耳受付嬢の悲鳴が聞こえてきた、それに続いてガラスが割れるような音。
「あ~そういえばサラも魔力測定不能だったな」
おそらくカズマと同じように、魔力測定の水晶が割れたのだろう。
あれはかなり高価だと言っていた。
(受付嬢……乙)
カズマは心の中で合掌した。
✴︎✴︎✴︎
「うう……怒鳴られた……」
「よしよし……泣くなって」
隣で泣いているサラを慰める。
聞くとどうやらあの後他の受付嬢の人に怒られたらしい、しかもすごい剣幕で。
女の子に怒鳴るのはどうかと思ったカズマだが、もう過ぎたことだ。
泣いているサラを伴いクエストが貼られているボードへと向かった。
◎にゃんタレス討伐
●最近村の近くに居座っている。村の安全の為にこれを討伐してほしい。
指定ランク:C
報酬金:銀貨50枚
「これなんか良さそうだな」
にゃんタレスが何なのかは知らないが流石Cランク。報酬が高い。
「うーん……にゃんタレス……どっかで聞いたなぁ」
となりでうーん、と唸っているサラを連れて紙をカウンターへと持っていく。
「はい、にゃんタレス討伐ですね。場所は正門を出て東に30分ほど向かったところです」
先ほどとは別の受付嬢が二コリ、と営業スマイルをする。
「むっ……」
サラが嫌そうな顔で受付嬢を睨み唸る。
あっ、コラ、噛もうとしない。
「何か質問はございますか?」
変わらず営業スマイルで語りかけてくる受付嬢。さすがプロ、睨まれたくらいなんともないようだ。
「ああ、このにゃんタレスっていうのは━━━━」
「私知ってるから大丈夫なんだよっ!!」
言い終わる前にサラがカズマの腕を引っ張っていく。
「おい、なんだよっ」
「むぅぅぅぅぅぅぅ」
引っ張られること五分、カズマ達は正門から少し離れたところにいた。
「おいサラ、いきなり引っ張るなよ」
「知らないもん!!」
さっきからずっとこの調子だ。知らないの一点張り。
仕方なくカズマは諦めクエスト地点へと向かう。
「あっ……」
一瞬悲しそうな顔をするサラだがカズマの横を並んで歩く。
「…………サラ、お前にゃんタレスが何なのか知ってるのか?」
一旦立ち止り、先ほどサラが言っていたことの真偽を確かめる。
途端ビクッとかたが跳ねるサラ。怪しい……
「……知ってるのか?」
「し、知ってるもん!」
「ほんとに?」
「……知ってるもん」
これは知らない、もしくは忘れた反応だ。
はあ、とため息をつきカズマは無言でクエストへと歩みを進めた。
しばらく歩いているとカズマの視界を何かが遮る。
「ん……?」
「どうしたの? カズマ」
「いや、そこになにかが……」
疑問に思い近づく。そこには…………
「……猫?」
「猫だね」
そこには何の変哲もない真っ白な猫。そのクリクリとした丸い瞳がなんとも可愛らしい。
「でもなんでこんなとこに……」
努めて冷静をよそおっていたカズマだが
「みー、みー」
子猫が泣いた瞬間……
「可愛いじゃねぇかコンクショウ!!」
子猫を抱きあげ顔をうずめ始めた。
「うりゃうりゃ~~」
「みー! みー!」
ジタバタともがく子猫だが、カズマの馬鹿げたステータスには勝てない。やがて諦めたのかぐったりと動かなくなった。
「よしよーし、そうだなぁ~、お前の名前は玉三郎だ!」
顔がこれ以上ないくらいデレデレなカズマ。しかもオスかメスかも分かっていないのにこのネーミング……あまりにもヒドイ。それ以前にネーミングセンスが壊滅的だ。
「うーん、何か大切なことを忘れているような……」
サラはそんなカズマをそっちのけで何か思い出そうと頭を悩ませいる。
「…………あっ!!」
思い出したらしい
「カズマ!急いで離れて!!」
「はあ? 何を言って……うお!?」
突如カズマの腕の中にいた子猫が光り出す。
「な、なんだ!?」
子猫を放り投げ距離をとるカズマ。
光が収まる……そこには……
「キシャアアアアアアアアア!!」
鋭い犬歯を生やしたドでかい猫?がいた
✴︎✴︎✴︎
鋭い犬歯に、ありえないほどに横に切り裂かれた口。先ほどの愛らしい子猫とはかけ離れた5,6m程
の魔物がそこにいた
「うおおおおお、玉三郎ぅぅぅぅぅぅ!!!」
カズマがorzの体勢で嘆いている。
「カズマ!はやく倒さないと!!」
「やめろォ! あれは玉三郎なんだぁ!!」
肩に置いた手を振りほどくカズマ。これじゃ何の役にも立たない。
「む……仕方ない。目を覚まさせるんだよ!!」
サラはカズマを放置して両腕を突き出す。
それを見たカズマは慌てて止めに入る
「おまっ……何して━━━━」
「『神の雷槍』!!」
サラの手に雷が纏った槍が握られる。
「えいっ!」
それをにゃんタレスめがけて投擲。突然のことで一人と一匹が唖然とする中、槍は猫に直撃
ズドォォァァァァァァァァァン!!!
そして爆散した。
「「…………」」
パラパラと土煙が降り注ぐ中、二人に間に沈黙が流れる。
が、やがて
「玉三郎ォォォォォォォォォォォ!!!」
一人の男の悲痛な叫びが草原に鳴り響いた。
文字数少し増やしました。
※「堕天使と少年の異世界最強伝説」はじめました!




