第25話 vsヒュドラ
イラスト頂きましたので後書きに貼りました。
では第25話、どうぞ
「くそっ!!いきなりかよ!?」
なんの前触れもなくブレスを撃ってきたので動きが少し鈍る。
ブレスが脇を掠る。
「あつっ!?」
脇を見るとコートが破け、皮膚が赤くなっていた。
龍神である一馬に僅かながらダメージを与えたということは、このヒュドラが撃つブレスは脅威的な攻撃力を秘めているということになる。
「これはまた面倒くさいやつだな…」
一馬はヒュドラから距離を取り、体制を整える。
(『龍化』してさっさと終わらせるのもいいが、それをすると多分ここ潰れるよなぁ)
そう、今の一馬は『人化』状態なのだ。
本来の姿は龍であり、『人化』している状態は『龍化』している時と比べ格段にパワーダウンしている。
『人化』している時に災害にも似た魔法を放てる一馬が、『龍化』すればどうなるか。
軽くダンジョンを吹き飛ばすことも容易い。
だがここはダンジョンの地下、いや、正確に言えば恐らく最下層だろう。ここを吹き飛ばしてしまったら落盤してしまう。
よって『龍化』は出来ない。
「グルアァァァァァ!!!」
そんなことを考えていると、再びヒュドラがブレスを放ってくる。
「チッ」
一馬は咄嗟に魔力障壁を張る。
これで大丈夫だろう、と思っていると驚くべきことが起きる。
ピキピキピキ…と一馬の魔力障壁にヒビが入ってきたのだ。
いくら咄嗟に作ったものでもそう簡単に壊れるようなものではない。
一馬は急いでその場を離れる。
パキンッ!
障壁が割れ、ブレスが壁にぶつかる。
「おいおい、どんだけ威力高いんだよ…」
冷や汗が流れる。
だがやられっ放しではつまらない。一馬は氷属性の神代魔法を使う。
本来、魔法というものには詠唱が必要だ。
だが一馬には、スキル《高速演算》があるので、必要な詠唱を省略し魔法を行使することができる。
一馬は意識を集中させる。
一馬の体から大量の魔力が溢れる。
「神代魔法……『氷結の海!!』」
一馬の居る場所以外が瞬時に氷の世界へと変わる。
氷の神代魔法の一つ、『コキュートス』だ。
この魔法は神代魔法に相応しい威力も兼ね備えているが、万能ではない。
それは大量の魔力を消費する以外に、氷の世界へと変化させるため気温が一気に下がる。
術者にも魔力消費以外に負担が掛かるのだ。
だが一馬は負担を感じさせないような足取りで氷漬けになったヒュドラのもとにいく。
「倒せたか…?」
ヒュドラはブレスを撃とうとしたのか4つの首が口を開いた状態で固まっていた。
「よし」
一馬は踵を返し、扉の方に歩いていく。
その時、
パキッ……
後ろから何か割れる音が。
「嘘だろ……」
パキパキパキッ…………ガシャン!
恐る恐る後ろを振り返る。
そこには氷漬けだった筈のヒュドラが中から氷を割って動いていた。
神代魔法はその名の通り神に等しい魔法であり、本来喰らったら即死する魔法だ。なのに、まだ死んでいないヒュドラを見て一馬の動きが止まる。
だがすぐに正気に戻ると
「まずい!」
一馬は即座に氷漬けになったままのヒュドラの首を殴り壊す。
(残り3つ…!)
更に首を叩き壊す。
だが驚くことにヒュドラの首が再生し始める。しかも再生速度が途轍もなく早く、1秒足らずで再生した。
「再生かよ…」
一馬は腕に魔力を纏わせ、まだ動けないヒュドラに手刀を繰り出す。
だがすぐに再生してしまうため、倒せる気配がしない。
そのまま無視して行くか…と急いで扉の方に走っていくが
バチッ!!
「んなっ!?」
扉に触れると何かに弾かれる。
なんども試すが同じ結果に終わる。どうやらヒュドラを無視する、という事は出来ないらしい。
(あいつすぐに再生するからな…)
ありったけ魔法を撃ち込んでもすぐに再生するだろう。
(どうすれば…)
その時一馬はふと昔読んだ神話を思い出す。
その神話にはヒュドラの無数の首の中に一つだけ本体がある、という事が書かれていた。
他にも首を切り落としたあとに傷口をたいまつで燃やし、再生するのを阻止したとか……
だが、ここは異世界。地球でいうヒュドラと今目の前にいるヒュドラが同じものとは言えない。
(だが試してみる価値はありそうだな…)
まずは本物がどれかを探さなければならない。
一馬はそう考え、火魔法を発動した。




