此処で引くわけにはいかぬ。
──ガガガッ
錠のついた社の、木でできた扉が鈍い音をたてたかと思うとほんの少し空いた隙間から人間の手がぬっとでてきた。
斑はとっさに身体を低くし賽銭箱の影に身を潜めた。
死角になる位置。
すぐには見つからないだろう。
だが所詮悪あがきにしかすぎない。見つかるのは時間の問題だ。
ここで斑は逃げることもできる。それが今打てる最良の手だろう。
しかし今逃げれば斑はここには二度とこれなくなる。
一度野良猫が住み着いていると目をつけられた場所はマークされる。
しかも誰もよりつかないような小さな古い神社なんて撤去されてもおかしくない。
斑に逃げるという選択肢はなかった。
何より、それを斑のプライドが許さない。
隙間から出てきた手には5㎝くらいの細い棒が指でつままれており、それを錠の鍵穴に射し込んだかと思うとゆっくりとした慎重な動作で錠の構造を探るように動き始めた。
白い手だ。
太陽の光を浴びたことがないのかと思わせるほどに。
その白い手には包帯が巻かれており、うっすらと白い包帯が赤に染まっていた。
夜の闇に浮かび上がるその白い手が、まるでこの世のものではない異様で異質なものに思え、斑は身震いした。
──カチャッ




