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そして私は今日もドラゴンの心臓を齧る  作者: ヨハン@小熊
ep1:そして私は始まりの心臓を齧る
3/50

食糧がないなら心臓を齧ればいいじゃない

気が付いたら知らない場所にいた。

周りを見渡せば、どことなく第一ダンジョンの雰囲気とよく似た感じの壁が見える。違いを言うならば、第一ダンジョンの白い遺跡と言う名前と正反対のよいな黒一色の空間という所だろうか。

「どこだろ、ここ。」

周りを見渡しても特にこれといった特徴はない小部屋だ。

丁度正面にある通路も、今の所何もいないようだ。

一先ず安全と考えてクイックメニューを呼び出してマップを確認する。

「なにこれ・・・アンノウン?未知のマップってこと?」

首をかしげてから、はっと気づく。

先程食べた、ドラゴンの心臓の効果は・・・

隠しダンジョンへ行けるってことなのでは!?

「ふ、ふふ。ふふふふ♪」

テンションが上がる。これ以上ない最高の気分だ。

今日は徹夜でこのダンジョンに潜ろう。あ、明日は土曜日か。

じゃあ誰かに呼ばれるまで潜ろう、異論は認めない。

スキップしたい気持ちを抑えてとりあえずこの場から歩いて離れる。

「さて、どうしましょう。」

そしていつもやっている大和撫子ロールをする。

さっきまで異常なテンションな上一人だったという環境でつい素が出ていたが、未知のエリアとはいえ、ここはボス部屋ではない場所、マルチエリア。ロールプレイはたとえ誰も見ていなくても大事だ。

「ぎ、ぎぎぎぎぃ!」

そうして歩いて、角を曲がった時、敵エネミーと遭遇した。

エネミーはボスやレアのドラゴン種とそれ以外のノーマルエネミーがいる。私の目の前にいるでかいトンボのような物は後者だ。

第一ダンジョンの大トンボの色違いのような感じだから、亜種かなんかだろうか?手抜きか、と思ったのは秘密だ。

「ふ・・・。」

しかし油断は禁物だ。初めてのダンジョン、初めての相手。

見た目が似ているからと言って似た攻撃手段、急所とは限らない。

大太刀を握り、小手調べの切り払いを試みる事にした。

鞘から抜いた私の愛刀は私の身長を超えたもので、柄にあるぎょろりと動く目のようなものと、刀身に刻まれた血管のような模様、禍々しい気配がそろって完璧に妖刀であった。私がドロップした太刀は大体こんな感じだから仕方ないといえば仕方ない。どらおんでは鍛冶屋という職業があり、今持っているこれよりも見た目も性能も上の武器を素材と金さえあれば作ってくれるのだが・・・話す勇気が出なかった。

NPCのショップの刀はエネミードロップに劣るから眼中にすらない。

とりあえず長いそれを構えて、一気に目標に振るう。

「ぜあ!」

結果、大トンボもどきは呆気なく地に沈んだ。

は?と思わず固まる私の前で普通に大トンボもどきは砕け散り、ドロップアイテム欄が出てくる。

「は?弱くない?」

仮に即死級の技を持っていたとして、なんのスキル使用なしの通常攻撃で一撃死とかどんな紙装甲と低HPだ。せめて高い機動力で避けるとかないと絶対経験値稼ぎのカモになる。まあ私のメイン職の侍はレベルキャップに到達しているから上がりようがないのだが。

せめてサブにも経験値が入ればサブに入れた聖騎士のレベルが上がるのに、と少々切ない気分になりながらドロップアイテムをインベントリにしまい込み、ついでにボス用にセットしていたスキルをいくつか入れ替えてその場を後にした。

今思えば、何故あの時メニューにいくつかボタンがないのに気付かなかったのか。気付いた所で、どうにもならなかっただろうが。


「んっんー、上るテレポーターしかないわね。」

あれからマッピングしなかったせいで道に迷ったり、よそ見して小指を通路の角にぶつけたり色々あったが、この階は一通り回れた。

しかし、上るテレポーターの証拠である青いテレポーターは見つかったが、降りるテレポーターの証拠である赤いテレポーターが見つからない。

そうすると自然とこの階が最下層になるわけだが、基本ダンジョンの最奥はボス部屋と決まっているから、最下層が普通のマップとかあり得ない。あり得ない、のだが。

「ないよ、ね。」

はぁ、と溜め息をついて少しがっくりする。

最下層の割にここにいるエネミーは全員通常攻撃で一撃死するし特に宝箱とかないし全くおいしくない。

今後に期待、と取りあえず上るテレポーターを起動させる。


もう、12階ほど上がっただろうか。

特に何もなかった。特筆するようなことは一切なかった。

第一ダンジョンの色違いのエネミーが沢山でたが全員雑魚だった。

本当作業ゲーをやっている気分になるぐらい何事もなかった。

下りる時は兎も角上るときにはボスと戦う必要がないというのもあるかもしれない。ちょっと一回降りてみようか、と思うぐらい何もなかった。

「うう、心なしかお腹空いてきた気すら・・・。」

ご飯を食べたのは2,3時間前だ。普段こんな風にお腹が空いたことはない。

少し中断してごはんを食べに行こうか、いや夜食べると太るし。

こんにゃくゼリーなら、大丈夫だよね?

そう思って私は中断しようとしてメニューを開いて・・・固まった。

ログアウトボタンが、ない。コミュニケーション欄(フレンドやチーム、PTなどのコマンドがある欄だ。正直私には関係ない欄だ)も、ない。

「・・・は?は・・・はあ?」

・・・なるほど。これは夢か。夢なのか。

私が第三ダンジョンの最奥ドラゴンを倒したのも

そしてレアアイテムをドロップしたことも

こんなわけがわからないダンジョンにいるの

ぐぅぅー

「・・・お腹、すいたよう。」

ちょっと泣きたくなった。

そのまま座り込みたくなるが、気合いで歩く。


ついに最上階についた。特筆することはやはりあまりない。

もうなり始めてすらいるお腹の空き具合と喉の渇きようがもう我慢の限界を超え始めていた。本気でつらい。

「出口・・・出口だ!」

大太刀は使ってて疲れやすいので太刀に変えていた。勿論エネミードロップの禍々しいデザインである。

もうふらふらになっていた私は待ち焦がれていたその場所についたことにこれ以上なく喜んだ。

そして出口のゲートを潜り・・・リアルorzすることとなった。

ゲートを抜けた先は森でした。一面の森でした。

「なんでなのぉ・・・。」

そのままゲートの傍で三角座りしながら太刀でノノ字を書く。

ぐーっとなるお腹も相まってすごく切ない気持ちだ。

もう一歩も動きたくない。動かないったら動かない。

こんな食料も水もない所嫌だー。

「・・・は!」

そして極限状態の私の脳にぴぴっと電波が届いた。

曰く、『回復薬って飲み物じゃね?』と。

思い立ったら吉日。すぐさま手元に具現化させる。

小瓶に並々と入った液体。それは確かに飲み物だった。

エネルギードリンクのようにぐびっと飲み干す。

「っぷは。生き返る・・・。」

いまだにお腹は空いているがこれでしばらく持ちそうだ。

さあ、人里を目指してもう一頑張りだ。

私は決意を新たに、森へ足を踏み出した。

学習能力もなくマッピングをせずに。


「ここはどこ?私は誰?」

見事に道に・・・いや道といえる道すらない森に迷った。

ダンジョンから抜けた時は真上近くあった日はもう沈みかけ、森を赤く染めている。もうかれこれ4,5時間は迷っているんじゃないだろうか。

あれから何度か回復薬を飲んでやり過ごしていたが、もう限界だ。

水分じゃお腹は膨れない。食糧、食糧を求む。

もうちょっと目が死んでいる気がする。

ふらふら歩きながらたまに出会うエネミーを素早く切り殺す姿はちょっぴりホラーかも、と他人事みたいに思い出していた頃だった。

「がぁああああああ!」

赤い、鰐に翼を付けたようなエネミーが現れた。

まごうことなきドラゴン。レアエネミーだ。

エネミーは倒したら砕け散るから食べることは出来ない。

勿論ドラゴン種だってどうだ。だが奴らは落とす。食べられる物を。

食糧がないけどお腹が空いた。

じゃあドラゴンの心臓を食べればいいじゃない。

多分私はぎらりと血走った眼で見ていたのだろう。

心なしかエネミーが引いている気がする。

だがそんなことはどうでもいい。今私は女を捨ててでも目の前の獲物を確実に仕留め、食糧を得ることだけを考える。

「あ、ああああああ!」

太刀を居合で振り抜き、エネミーを斬りつける。

呆気なく一撃死したエネミーなんぞにはもう興味もない。

わくわくしながらドロップアイテム欄を待つ。

そしてエネミーの体は砕け散り、ドロップアイテム欄は現れ・・・

「ですよねー・・・。」

そのなかにレアアイテム、ドラゴンの心臓はなかった。

一応心臓はレアアイテムである。

そうほいほい出てくるものじゃないことは、わかっていたけれど。

「うー・・・ご飯ー。」


 弟君は太刀と言っていましたが、身長以上(=90㎝以上)なので正確には大太刀(野太刀)です。別に後から言われて気付いた訳ではないデスヨ。本当デスヨ。

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