そして私は始まりの心臓を齧った
「か、勝った?倒したよね?ひゃっはー!倒せたー!」
私はぴょんぴょん跳ねながら喜んだ。世紀末的なとても女が出すようなものじゃない声をあげつつ。
私は入江紗世。どこにでもいる普通の女子高校生。
普通と違うのはちょっとばかりゲームが好きなことぐらいだ。
そして今は大人気VRMMO、どらおん(正式名称は忘れた)をやっている。ちなみにソロ。
別に普段コミュ障じゃない私が何故ソロでやっているのか。
答えは簡単。相手の表情がわからないからどの程度話せばいいか全くわからないからである。
昔と比べれば進化したゲーム事業。しかし、いまだに表情を表すことは出来ていない。
そしていつも顔色を窺う、といっていい程相手を見ながら話している私にとってこれは大問題だ。
だって相手が私の発言でどう思うかとか予測すらできないのだ。そうして話せず・・・
今に至る。え?リアル友達呼べ?ゲーム好きなのは知られてるけどここまで廃人ってバレたら
リアルでもぼっち確定になってしまうじゃないか。
「うーん。ここまで長かった・・・。」
リアルだったら思わずほろりと涙していたかもしれないほど私は感激していた。
野良PTも組めず、ただ一人でやっていた私にはこの第三ダンジョン最奥ボスを倒すのは骨が折れた。
なんど死んで街に戻らされてまた戦いにいく事を繰り返したか・・・。
もうこのボスが出てから数日経っている。wikiには攻略どころか効率いい倒し方まで乗っているというのに私はレアアイテム落としの作業所か倒すのすら今初めてだった。
ああ、本当長かった。泣きそうだ。
「さてさて、何持ってやがりますかって・・・おおおおおおおお!」
思わず雄叫びをあげてしまう。ドロップアイテム欄できらりと赤く光るレアアイテム名。
確率0.0001%とかよくわからない確率をはじき出しているレアアイテム。
「おおおおおおおおおおおおおおおお!」
PCN:サヨ。孤高の女子ソロプレイヤー。意外と有名な彼女は今、顔に表せない感激を全身で表していて正直ちょっと危ない人状態だった。
***
ドラゴンハーツファンタジーオンライン(通称DHO。どらおんではない)。
今話題のVRMMOである。ちなみにPT推奨。
ドラゴンハーツファンタジーというシリーズのオンライン版である。
ドラゴンハーツファンタジーは6作ほどでているアクションRPGで、
ドラゴンの心臓がキーアイテムなのを除けばシステムはばらばらなゲームだった。
しかしこのDHOはその6個の評価が高い所を取り入れている。
一作目のやたらと多いアバターアイテム
二作目のドラゴンの心臓を食べて色々恩恵を受けるシステム
三作目のNPCと仲良くなって色々恩恵を受けるシステム
四作目のやたら設定の濃い世界観
五作目の(何故か同性同士でもできる)結婚システム
そして六作目の多種多様な職業
それらに加えたいくつかのシステムを入れればDHOになる。
歴代シリーズ愛好家は勿論、新規プレイヤーも大量にゲットし、今世間ではこのシリーズが大人気である。公開3か月にして今最も盛り上がっているVRMMOだろう。
***
「ついに私の時代がきた!これで勝つる!」
きゃいきゃい私は言っているがその発言が誰かに聞こえることはない。
ボス部屋は他のダンジョンの部分と違ってシングル専用、つまりPTさえ組んでいなかったらこの場所には私以外誰も入ってくるわけない。まあそのせいで苦労もしているが。
そんな私の手にはドロップしたレアアイテム、第三最奥ボスリアースドラゴンの心臓がある。
ドクドクと動く心臓は最初は気持ち悪かったが今は頬ずりしたくなるほど愛おしい。
「ああ、食べてしまおうかなーどうしようかなー。」
ドラゴンによって異なるが、どの心臓もかなりメリットのある効果を持っている。
二作目では食べたプレイヤーの基本能力を上げる心臓を持ったドラゴンもいたし、
何故かアバターアイテムを取得したり、スキルを取得したり・・・なんにせよ良い効果がある。
そしてこれは最奥ボスの心臓。
各階のボスや中ボスなんかとは格の違う素晴らしい効果を持っているに違いない。
何故かいまだ効果はわかっていないが、絶対いいものだ!と、私の第六感が囁いている。
「いただきまーす。」
大事に手に持ったそれに、私は齧り付いた。
・・・正直ここは使用とかで一瞬にして欲しかった。