女々しくて4
僕たちは教室の中へ入った。
壁にかかった横断幕には「新入生歓迎ライブ!失神者続出!?~宴の夜~ 出演バンド、『ハイビーム一直線』『英雄~エロイカ~』その他多数」
頭わりぃなあ。思いっきり昼間じゃないか。
教室の前のほうにはちょっとした広間があり、アンプや楽器が設置されている。そして如何にもチャラチャラな感じな男どもが楽器をいじくって音を出している。
なんだか、僕ギターできるよ?見て見て?カッコいい?みたいな顔をしていて腹が立つ。こいつらナルシストばっかりだろ。中学のころはああだったから僕も人のこと言えないけどさぁ……。はたしてこいつらどれ程のもんか。だいたい、軽音部っていうやつらは、僕の独断と偏見による認識だと、「たいして面白くもない、テレビでしょっちゅう聞ける音楽」を、「演奏があんまりうまくないしょーもない奴ら」が演奏してしまうおかげで、「退屈な曲が、ただただヘタクソなライブ」という、超ステキ空間を作り出す、人間ではない鬼畜どもである。居るだけでちょっと迷惑。だけど、こわそうだから注意できない、という、いわば「お荷物部」。そう認識している。訂正はない。
ぼくは演奏も始まっていないのに、早くも帰りたくなった。
「まあ、とりあえず、最前列行こう」
と、ジンは僕を引っ張りながら、前に歩き出した。興奮している観客の同級生たちを、掻き分け掻き分け、最前列を目指す。僕はぶすっと付いていく。
僕らは、最前列のど真ん中を陣取った。
「へへ。楽しみだね」
と、ジンは笑いかけてくるが、僕は、
「ふわぁ……ほぉーだねぇー」
退屈すぎてあくびが出てしまった。てか、チューニング長げぇー。
「だよね!テルくんが楽しみにしてくれてて、オレうれしーよ!」
「おまえ、ホントおめでたいワンちゃんだなぁ。」
「ん?」
「なんもないっす。ほら、前みとけ前。」
そうこうしていると、
「はあーい!!みんな、まってたかぁー!ハイビーム一直線でーす」
チャラチャラ兄ちゃんが叫びだした。べつに待ってなんかねえよ。
「さっそく演奏はじめるぜっ!聞いてください『はいびーむ・ろけんろ』」
曲名だっさ!
1 2 3 4 ジャカジャカジャカジャカジャーン
なんだー?これは、なんだー?案外うまいじゃないか。
観客もノリノリだ。ノリノリだけど……だけど……
「なぁんか響いて来ねぇんだよなぁ」
僕が首をひねっていると、
「うーん」
隣では、ジンも首をひねっている。
そのまま二曲目、三曲目、と続いたが、彼らは上手いけど、あんまりパッとしなかった。
しいていえば、どの曲もどこかで聞いたような曲だった。
「次が最後の曲です。きいてくれぃ!『あの流れ星見上げる女の子の名前を僕たちはまだ知らない』」
おいおいおいおい!おかしいおかしい!なんだその曲名、長い長い!
こいつらは本当にもっとまともな曲名考え付かないのかなあ。
そしてラストの曲もたいしたことなく終わった。
「なあ、いまのよかった?」
と、ジンに聞いてみたところ、彼も苦笑いしながら
「あんましっ」
と恥ずかしそうに言った。
「でも、きっとと次は平気だよ」。
「そーかなあ」
僕は腕組みしながらジンを見上げた。彼は僕を見下ろしながら無言でうなずいた。
するといきなり、メンバー紹介もなく演奏が始まった。
キュイーーーーーィィィィン
ビヨヨヨヨヨヨーー ピロピロピロピロピロピロピロ
ジャラララ ジャラララ ジャララララ
激しいなあ。超絶速弾きだなあ。
でも、よく聞くと早いだけで、それぞれのメンバーの息が合ってない気がする。
そしてボーカル。歌がうまくねえー。はっきりいってギター以外目だってねえ。
一曲目が終わった。ここでやっとボーカルがしゃべりだした。
「どーも、みなさん。エロイカです。英雄と書いて、エロイカと読みます。」
そして、2、3分の間、ボーカルがメンバー紹介をしていく。
そのあとの曲は打って変わって急にポップな曲ばかり演奏していた。楽しみにしているジンには悪いけど、こいつらひびかねーわ。俺は帰宅部と格ゲー部を新設してそこに所属するわ。そう伝えようとした時のことだった。
「えーじゃあ、次がラストの曲です。きいてくださ、うわっなんだおまえら!ちょとちょと、ちょっと!おい!」
「どおけ、どけどけどけー!」
『英雄』のメンバーをなぎ倒しながら、異様な五人組が現れた。そしてそのまま先頭のピンクなトサカ頭の女子生徒が周りのメンバーを殴って気絶させていく。
異様な集団は、手に手に楽器を持ち、『英雄』のメンバーからシールドコードをひったくると、そのまま自分の楽器をアンプに接続し始めた。
「なんだ、何が始まるんだ?」
僕は思わずつぶやいていた。この異様な光景から目が離せない。異様な四人組の一人は覆面をしている。怪しすぎることこの上ない。
ざわざわ…
観客も困惑気味だ。いきなりジンが叫んだ。
「おい、テル君!やばいやばい、これゲリラライブだ!」
ゲリラでも何でもいい。僕はこの四人組にくぎ付けだった。
僕は真ん中のトサカの彼女が何故だか目がはなせなくなっていた。
会場のど真ん中にすらっと立つその彼女は、明らかにオーラが違っていた。
すると、そのトサカガールが叫びだした。
「この会場は、第二軽音部『ドグラ・マグラ』が占拠した!てめえらっ、聞いていきやがれー!hideのカバー!『D O D』!!!」
そう叫ぶなり、抱えたギターをかき鳴らしながら歌いだした。
それは、今までのバンドとは明らかに何かが違っていた。僕はあんなにつまらなく思っていたことも忘れて、わくわくしていた。