女々しくて-1
「はいじゃあ、提出は来週月曜日なんでー、まあ早めに終わった人はチャチャッと持って来ちゃってくださいな」
そういいながら文サンが配った長方形の紙が前から順番に一枚ずつ回されてくる。
はあ……
ため息をついた僕を怪訝な顔をして見ながら文サンが言った。
「じゃあ、みなさん。これで帰りの会はおしまいなのでそれぞれ仲のいい友達を誘って部活動見学に行ってきてください。」
文サンっていうのは、担任の先生で、一年の数学を担当している。四十がらみ。高そうなスーツとネクタイが似合う優男だ。なかなかにダンディでユーモアもあるから、生徒から人気が高い。
文サンは、とんとんと机の上でプリントをそろえると、そそくさと出て行ってしまった。
何をあんなに急ぐのだろう。
周りでは残された生徒たちが何の部活に入ろうか、興奮気味に大声で話し合っている。
僕にはあんなに急ぐ理由も、興奮させてくれるようなものはないんだ。
(あれを失った今、部活なんか何やっても面白くないだろうなあ)
僕は窓の外を眺めながらぼんやり考えた。青空には一本、まっすぐに飛行機雲が引かれていた。
そのままカップラーメンが出来上がるくらいの時間、たっぷりのんびり飛行機を眺めた。
未だに周りでは男子も女子も帰ろうともせずにどこに部活見学に行くのか相談している。
(くっだらねえ。むしゃくしゃする。)
理由はわからないが、とにかくむしゃくしゃする。こういったむしゃくしゃを感じるとき、僕はまっすぐ家に帰らず、ゲーセンかヒトカラで時間をつぶすのが常だった。
決めた、今日もゲーセンに行こう。そして鉄拳でもやろう。
もらった紙をいきなりクシャクシャとカバンに詰めながら僕は席を立ち、教室を後にしようとした、そのとき
「なあ、テルも部活見学一緒に行くだろ?」
出入り口の近くにいた友人たちの男女数人のグループに声をかけられた。
「わり、今日おれちっと用事あるんだわ」
「はあーテルまじかよぉ」
「しょうがねえだろー。また今度な」
すると、グループの女子が声をかけてきた。
「えー輝くん来ないのぉ?」
「わりー、後で必ず埋め合わせするから。」
「おめえ男と女で扱い違すぎるんじゃねー?」
「んなことねーって。じゃあなあ」
僕はそそくさとその場を立ち去り廊下に出た。
女の子はいまだに苦手だ。
こんなにむしゃくしゃするのも女の子が苦手なのも、あれが原因だ。出来ることならタイムスリップしたい。そして、あのトラウマをきれいさっぱり払いたい。そんなことは無理だけど。無理に決まっているけども。
廊下ではしゃぐ生徒達の間を縫うように僕は廊下をずんずんずんずん進んで昇降口を目指した。
廊下には僕の影が長く長く伸びていた。