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その先に見える光

作者: Satch
掲載日:2012/07/12

コメディのほうが得意なので、うまくシリアスに書けているか自信はありません。。

独りぼっちになってしまった…。

心にぽっかりと開いた穴は、僕の気力を根こそぎ奪っていく。


たかしくん? 全然食べてないじゃない!」


声をかけてきたのは、この児童施設の先生で陽子先生という名前らしい。

らしいというのは、僕がこの施設に預けられたのが、ほんの数日前のことだから。


僕には両親と妹がいて、ごくありふれた家族だった。


家族で食事に出かけたその帰り道、居眠り運転のトラックが僕たちの乗った車にぶつかり、

その衝撃で僕は開いていた窓から投げ出されて助かった、と説明された。


でも両親は搬送された病院で息を引き取り、妹は即死だったと聞かされた。


いつ死んだかなんて関係ない、僕が独りになった事実は変わりようが無いのだから。


見たことも無い遠縁の親戚が集まって、誰が引き取るかを話し合っていたけど、

結局、施設に預けるということで、話がまとまったらしい。


僕にとっては、両親も妹もいないのでは、どこに行っても同じだから素直に受け入れた。


僕が預けられた施設には僕と同じように両親を無くしたり、育児ほうき?とかで預けられた子供が沢山いた。

彼らも僕と同じような境遇なのに、元気いっぱいに笑っている。


僕もあんな風に笑える日が来るのだろうか?


「…欲しい子にあげてください」


「またそんなこと言って…」


たとえ子供たちに人気のある先生が相手でも、話をする気分ではなかった。


「後でお腹すいたって言っても、知らないからね!」


「…」


「…もう!」


陽子先生は、ぶつぶつ言いながら、あきらめてどこかに行ってしまった。


僕は、父さんと母さんと妹の由佳に、生かされたと思っている。

けど、だからと言って、普段どおりに振舞うことはまだ出来なかった。





それから数日が経ったある日、陽子先生は僕の部屋に10歳くらいの女の子を連れてきた。


「隆くん、ちょっといい?」


「…はい」


「隆くん、今日からルームメイトになる、かなでちゃんです」


「…え?」


子供たちは2人で1部屋になっているが、13歳の僕は1人部屋だった。


「いいかしら?」


「…はい」


「それと先生も付きっきりって訳にはいかないから、面倒見てくれると助かるんだけどな?」


「…え? 僕が?」


「それと先生も付きっきりって訳にはいかないから、面倒見てくれると助かるんだけどな?」


「…」


「それと先生も…」


「わ…かりました」


「とりあえず先生は用事があるから、お願いね」


陽子先生は有無を言わせずどこかに行ってしまった。


「…」


「…」


2人とも身動きせず、気まずい雰囲気が漂う。

堪りかねた僕は、かなでちゃんを手招きする。


かなでちゃんは一瞬だけ躊躇したが、すぐに僕のそばに来た。


「ここ…座っていいよ」


狭い部屋ではないが、僕は自分の隣を指差す。

今度はかなでちゃんは躊躇せずすぐに横に座った。


見るとうさぎのぬいぐるみを抱きしめている。


「それ、かわいいね」


とうさぎのぬいぐるみを指差すと、かなでちゃんは、小さくうなずいた。


「えっと…僕は、たかしって言うんだ、よろしくね」


かなでちゃんは、小さくうなずいた。


「えっと…歳は幾つ?」


するとかなでちゃんは、両手を開いてこちらに見せた。


「10歳?」


かなでちゃんは、小さくうなずいた。


10歳か…妹の由佳と同じ歳だ。

喧嘩をしたり、よく泣かせてたけど、僕は妹の由佳を可愛がっていた。


たぶん何が起こったか分からない内に、天国へと旅立ったと思う。

怖い思いをしなかっただけ、幸いだったのかもしれない。


ふとかなでちゃんを見ると、うさぎのぬいぐるみで黙々と遊んでいた。





少しすると陽子先生が用事を終えて戻ってきて、ドアの隙間から僕を手招きして呼んだ。


「かなでちゃん、ちょっとここで遊んでてね」


かなでちゃんは、ぬいぐるみで遊びながら小さくうなずいた。


「なんですか?」


「かなでちゃんと、何か話した?」


「はい、と言っても、一方的に僕が話しかけてるだけですけど」


「そう…あの子ね、その、しゃべれないらしいのよ」


「え…?」


「あ、病気とかじゃなくて、その…ご両親が交通事故で亡くなられてかららしいけど…」


彼女も独りぼっちか。


「病院で診てもらったら、心因性の失言症と診断されたわ」


「?」


「つまりね、過度のストレスで言葉が話せなくなったってことなのよ」


「ストレス…?」


「うん、理解できているか分からないけど、ご両親が亡くなったことが、あの子の心には重すぎたのね」


「…もう、話すことはできないんですか?」


「いいえ、何かきっかけがあれば、また話せるようになるそうなの」


「きっかけって?」


「それは先生にも分からないわ」


「そうですか…」


「ね、隆くんが、本格的にあの子の面倒見てくれないかしら?」


「僕が…?」


「そう、同じ歳の妹さんがいた隆くんだからお願いするの」


「…」


「つらいかも知れないけど、もちろん先生もフォローはするから、ね?」


「…わかりました」





陽子先生との話を終えて部屋に戻ると、かなでちゃんはぬいぐるみを抱えたまま眠っていた。

僕はかなでちゃんを抱えて自分のベッドに寝かせ、その横に添い寝するように横になる。


かなでちゃんの頭を撫でていると、不意に涙が溢れ出てきた。


かなでちゃんに妹の由佳の面影を見たのかも知れない。


「由…佳…」


僕は涙が止まらなかった、由佳がいなくなってこんなに寂しいと思ったことはない。

それが呼び水となり、両親や由佳との思い出が溢れ出てきて、止めることが出来なくなった。


「父さん…母さん…うわぁぁぁ」


僕は、あの事故以来初めて号泣した。


その時、僕の頭に何かが触れる、それはかなでちゃんの小さな手だった。

かなでちゃんはそのまま僕の頭を撫でて、ほんの少しだけ優しく微笑んだ。


僕は3つも年下の女の子の胸で号泣した。

その間かなでちゃんはずっと僕の頭を撫でてくれた。





夕食の時間になり、僕はかなでちゃんと手を繋いで食堂に向かう。


「あら! 随分仲良くなったのね!」


陽子先生は目を丸くして驚いている。


「…はい」


「先生も隆くんに、女の子を口説くテクニックがあるとは思わなかったわ!」


陽子先生のいつもの軽口には付き合っていられない。


「そんなんじゃないです」


「隆くん? 先生のことも口説いてみな…」


「遠慮します」


「断るの早いな!」


ほどなくして、子供たちが全員揃うと、陽子先生はかなでちゃんを紹介した。

かなでちゃんは椅子から立ちあがると、ちょこんとお辞儀をしてまた椅子に座った。


「では、いただきます」


『いただきまーす』


子供たちは元気に食べ始めるが、僕はいつものように食欲が無い。


「ほら! 隆くんが食べないから、かなでちゃんも食べてないじゃない!」


隣に座るかなでちゃんは心配そうに僕の顔を見上げていた。


「大丈夫だよ、ほら!」


と言って、ご飯とおかずを頬張った。

するとかなでちゃんも、安心したようにご飯とおかずを頬張った。


久しぶりに自分の分を完食したが、食事後しばらくして吐いてしまった。





かなでちゃんのベッドがあした運び込まれる予定ということで、

今日は僕のベッドの横にかなでちゃんの布団が敷かれた。


かなでちゃんは、敷かれた布団には入らず、枕をもって僕のそばにやってきた。

それは言葉が話せなくても、何を言おうとしているか分かるが一応聞いてみる。


「一緒に寝る?」


かなでちゃんは、小さくうなずいた。


布団に入った後、かなでちゃんは僕の顔をじーっと見てたけど、

いつの間にか可愛い寝息を立てて眠っていた。


僕も久しぶりに人の温もりを感じて、程なくして眠りについた。




「…ちゃん」


人の声がして僕は目を覚ます。


「お兄ちゃん」


「由佳?」


そこに妹の由佳の姿が見えた。


「うん、そうだよ」


「どうして? おまえ死んだんじゃ?」


「お兄ちゃん、由佳ね寂しくないよ」


「え…?」


「パパもママもいるし、おじいちゃんも迎えにきてくれたから、寂しくないよ」

「お兄ちゃんは寂しかったんだよね? 由佳がそばにいたかったけど、一緒にいれなくてごめんね」


「由佳…」


涙が溢れて視界がぼやける。


「だからね、かなでちゃんを由佳と思って、可愛がってあげてね」


「なんでかなでちゃんのことを?」


「ごめんねお兄ちゃん、もう由佳行かなくちゃ」


「行くってどこへ?」


「おにいちゃん…またいつか遊ぼうね! 由佳こっちで待ってるから!」


由佳の体は半透明になっていた。


「さよなら、お兄ちゃん!」


由佳の体は光の粒となり、暗闇の中に消えていった。


「由佳!」


現実の世界で僕は目を覚ました。


隣を見ると、かなでちゃんは静かな寝息を立てて寝ている。


そうか、孤独と寂しさで押しつぶされている僕を見かねて、

由佳が導いてかなでちゃんを、僕のところに来させたんだな。


かなでちゃんの頭を撫でていると、かなでちゃんは目を覚ました。


「ごめんね、起こしちゃったか」


かなでちゃんは、首を振って応える。


「かなでちゃんは、ちゃんと僕が守るからね」


かなでちゃんはうなずくと、また目を閉じて寝息を立て始める。


「分かったのかな?」


僕は思わず笑ってしまう、あの事故以来初めての笑顔だった。





次の日から僕は、ご飯も吐かずに食べれるようになり、見違えるように元気になっていった。


かなでちゃんともだいぶ仲良くなり、兄妹かそれ以上のように接するようになっていた。

でも、かなでちゃんは、相変わらず言葉を話すことが出来ない。


たとえかなでちゃんに言葉が戻らなくても、僕が生涯守っていく。そう決めたのだから。


そんなある日、かなでちゃんの叔父さんにあたる人が、かなでちゃんを預かりたいと言ってきた。

仕事で海外にいたため、かなでちゃんが施設に預けられたことを、今まで知らなかったらしい。


「かなでちゃんは、会った事ある人?」


陽子先生と、その叔父さんが話をしているのを見ながら、尋ねてみたけど、

かなでちゃんは、首を振るだけだった。





「ほぅ、君がかなでちゃんかい?」


その叔父さんはかなでちゃんを値踏みするような目で見るので、かなでちゃんは怯えながらうなずく。


「私は君がまだ赤ちゃんの時に会っているのだよ?」


かなでちゃんは首を振るだけだった。

そりゃ赤ちゃんの時に会ったと言われても困るよな。


「今日から家の子になるんだよ?」


するとかなでちゃんはいやいやをするように激しく首を振る。


「こんな貧乏な生活ではなく、もっと裕福に暮らせるんだよ?」


それでもかなでちゃんはいやいやをするように激しく首を振る。


「いいから来るんだ!」


そういうやいなや、その叔父さんは、強引にかなでちゃんの手を掴んで連れて行こうとする。

かなでちゃんは必死に抵抗するが、10歳の女の子と大人では、当然敵う訳も無い。


どこかの家で育ててもらったほうが、かなでちゃんのためになると思い黙っていたけど。

必死に抵抗するかなでちゃんを見ていて、それではダメなんだと気付かされた。


「やめろ!」


「ん? なんだね君は? 部外者は引っ込んでなさい!」


「かなでちゃんの手を離せ!」


「君には関係ないと言っている! 引っ込んでいなさい!」


その時、ずっと願ってやまなかったことが現実に起こった。


「や! 離して!」


かなでちゃんはそう叫ぶと、叔父さんの手を振り払い、僕の下に走ってきて抱きついた。


「お兄ちゃんといる!」


かなでちゃんの体は小刻みに震えていた。


「大丈夫だよ」


僕は安心させるように、かなでちゃんの耳元で囁く。


「かなでは僕の家族です、あなたには渡さない!」


僕は臆することなくしっかりと叔父さんの目を見据えた。


「子供が何を言ってる! かなでを渡しなさい!」


「嫌です!」


「そんな権利は君にはないんだぞ?」


「権利なんて関係ありません、かなでは僕の家族です」


叔父さんが近づこうとしたとき、僕達と叔父さんの間に陽子先生が入る。


「親戚縁者だとしても、嫌がっている子供を引き渡す訳にはいきません!」


「何だと! 君はさっき引き渡すとそう言ったぞ?」


「子供のためを思えばこそです! それであの子が何不自由なく暮らせるのであれば、

こちらも安心して引き渡すことが出来ます、ですがあなたの先ほどからの態度を見ていると、

それが疑問になりました。それにあれだけ嫌がっているのですから、どうぞお引取りください!」


「くっ! こんな施設ひねりつぶすことなど、造作もないのだぞ?」


「やってごらんなさい! その時はあなたにも相応の罰が下るでしょう」


「おい女ぁ!」


叔父さんは急に態度が激変した。たぶんこれがこの人の本性なのだろう。


「私には三笠陽子という名前があります!」


「ふん! 後で後悔するぞ?」


「あなたがですか?」


「なんだと!」


「ちなみに私の父は、三笠耕造ですけど、ご存知かしら?」


「三笠? こうぞ……副総裁!」


「ご存知で何よりです、どうぞお引取りください!」


「くそ! 覚えとけよ!」


「あら覚えておいて良いのかしら?」


「くっ!」


かなでちゃんの叔父さんは顔を真っ赤にして帰っていった。


叔父さんの姿が見えなくなると、陽子先生はへなへなとその場に座り込む。


「陽子先生、大丈夫ですか?」


「…怖かった!」


「えぇ!?」


さっきのは全て演技だったのか?


「もしかして副総裁の娘って言うのは…?」


「もちろん嘘よ!」


なんて先生だ!


「だ、大丈夫なんですか?」


「ヤバかったかな?」


先生は可愛らしく舌を出す。


「そりゃ嘘だってバレたらヤバいでしょ」


「あ、いまちょっとチビっちゃったかも…」


「それを僕に報告されても困ります」





「お兄ちゃん!」


「んお? おはよう」


「起こしてって言っといたじゃん!」


「そうだっけ?」


「もう!」


僕は高校を卒業した後、就職して働いている。

3つ下のかなでは16歳になろうとしていた。


高校卒業まであの施設でお世話になった。

高校卒業後、独り暮らしを始めて、必死で働きかなでを迎えに行った。


「あ、そうだ、あのこと、報告しておいたからな」


「えー! じゃあ、私も報告してくる!」


「でも遅刻しないか?」


「学校よりこっちのが大事!」


しかし、あのかなでがここまで元気で可愛い女の子になるなんてな。

いやあのころから可愛かったけどね。





「お父さん、お母さん、由佳さん、私はお兄ちゃん…隆さんと結婚します!」

「生涯隆さんを守っていきますので、安心してください!」


仏壇の中の3人の写真が一瞬頷いたように見えました。


「そして私達2人を見守っていてください!」

「血は繋がってないけど、皆さんの家族になれて幸せです!」

「では遅刻…は確定だけど、学校に行ってまいります!」


これで本当の意味でお兄ちゃんと家族になれる!

それが嬉しくてたまらなかった。





「お兄ちゃん、じゃあ先行くよ!」


「なぁそろそろお兄ちゃんって呼ぶのやめにしないか? 結婚するんだし」


「んー? 気が向いたらね! だって急に名前で呼ぶとか、恥ずかしいし…」


「ん? 何?」


「何でもない! じゃあ行ってきます!」


「? 行ってらっしゃい、車に気をつけてな」


「はーい」


かなでが登校して行くのを見送って、僕は仏壇の前に座る。


「なぁ由佳? 子供が出来てそれが女の子だったら、由佳って付けようと思うけど、いいかな?」


写真の中で笑う由佳は、あの日のままだった。


『お兄ちゃん、ありがとう!』


不意に頭の中で由佳の声が聞こえた気がした。


だけど僕は知らなかった、いや、かなでさえも気付いていなかった。

かなでの中に新しい命が芽生えていることに。



~Fin~


最初に浮かんだ設定は、児童施設が舞台では無いのですが、

公開するにあたり、モラル的な観点から急遽変更したものです。


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