第十章 卒業式、そして……
決断 〜健吾十二〜
「健吾。明日は卒業式だけど、上京する前に言っておきたいことがあるの。お母さんね、お隣の綾瀬さんとね。再婚するかも知れないわ」
「えっ?」
それは普段と変わりなく、普通に夕飯を食べている時の、突然の告白だった。
二人は幼馴染みで、昔、付き合っていたことがあるのは亜里沙から聞いていたが、まさか再婚にまで進展するなんて、夢にも思わなかった。
「亡くなったあの人には申し訳ないと思っているし、健吾にも呆れられるかもしれないのは承知の上で、その可能性があると言っておくわ」
「そう」
俺は別に、母さんの再婚が死んだ父さんに対して、どうこうなんて思ってない。それで母さんが幸せになれるのなら、反対どころか大賛成だ。
「健吾は、どう思う?」
「どうって。良いんじゃないか。賛成するよ」
「本当に?」
「ああ」
「良かった〜。健吾が反対するなら、やめようと思っていたから」
心底安心したのか、深く息を吐いて胸を撫で下ろした。
「あの人は、とても優しい人だから、健吾とも上手くやっていけると思うの。健吾は絵里ちゃんと亜里沙ちゃんとも仲が良いようだから、そっちは大丈夫でしょう」
「ああ」
「あなたと絵里ちゃん。昔はあんなに仲が良かったのに、再会した頃は険悪な感じだったじゃない。だから再婚を考え始めた時、どうしようかと悩んだわ。でも、最近は私のお陰で良い関係みたいだし」
ん?母さんのお陰って。そうか。クリスマスと初詣のあれは、そういう思惑があったのか。
「これで絵里ちゃんと、亜里沙ちゃんとは、義理の兄妹になるのね」
三人の中では俺が一番早く生まれているから、必然的に二人の義理の兄になる。
「そうか。義理の兄か。ごちそうさま」
食べ終わるとすぐに、自分の部屋に入った。そしてベッドに横になり、天井を見上げた。
「俺と絵里が、義理の兄妹」
まだ確定してはいないし、確か血が繋がっていないのなら、結婚だって出来るという知識ぐらいは持っている。
ふと今日届いて、まだ読んでいない麻里からの手紙を思い出した。封を開けると、縁が赤いチェック柄の便箋が入っていた。
麻里からの手紙
―――Dear 健吾 三月三日
もうすぐ卒業式だね。もう何回、絵里とデートしたのかな。私は出来ないから不公平だよ。ライバル宣言なんて、しなきゃ良かったかな。ちょっと後悔。
私とは付き合い始めてからも健吾の部活が忙しくて、たくさんデートしたわけじゃないもの。でもまあ、それもこっちに来たら解消されるかな。大学なら高校よりは、部活があっても時間が取れるよね。一人暮らしだろうから押しかけて、泊まっちゃったりするからね。覚悟しておいてね。じゃあ、楽しみにしています。
追伸
健吾はいま、とても苦しいよね。なのに、苦しめるようなことを書いて、ごめんなさい。
でも、健吾とのことを、想い出にしたくはないよ。
私の願いを込めて、受験勉強中に覚えた四文字熟語を贈ります。
〜落花流水〜
いまも、お互いの気持ちが繋がっていますように。
俺は急いで辞典を調べた。
『落花流水』
一、落ちる花と流れる水。
二、落花に情があれば、流水にもまた情があってこれを載せ去るの意から。男に女を思う情があれば、女にもまた男を慕う情の生じること。相思相愛。
手紙から伝わってくる麻里の気持ちを考えたら、目の前が霞んできた。それがチェック柄の縁の、色褪せている部分を見つけると感極まった。
これは涙の跡だ。
これを書いている麻里の姿を想像したら、我慢できなかった。涙がボロボロと溢れてくる。
俺は涙を拭かず目を閉じて、真剣に考えた。
俺が絵里に対して感じているこの感情は、いずれ恋人になってもおかしくない好きなのかも知れない。しかし、麻里の方の好きは、それよりも深い。
正月に麻里の部屋で読んだ手紙を思い出す。あの時、麻里のことを、とても愛おしいと感じた。これは多分、愛情というものなのだろう。
「俺は馬鹿だ」
麻里を悲しませてはいけない。この結論に至るまで、時間が掛かりすぎた。
断られる絵里の気持ちを考えると辛かったが、今の俺より、絵里の方が何倍も辛いに違いない。ハッキリしなかった俺が悪いのだから、殴られたって憎まれたって構わない。
それでも麻里の笑顔が見たいと、心の奥底から思った。
卒業式当日は良く晴れて、卒業式日和となった。雪は積もっているが、さほどではない。
今日は、ほとんどの高校で卒業式が行わる。姫百合もだ。
俺の方は午前十時から始まり、つつがなく式は進行していった。男子校だから、可憐な女の子のすすり泣く声なんてものはないが、一年間お世話になった校舎に感謝した。
教室に戻り、担任から簡単な別れの言葉を頂戴して、俺の高校生活は終了した。友達と最後の別れを惜しんだ後、教室から陽一と出てきた。
「健吾。お前には感謝しているよ。ウィンターカップに出られたし、姫百合の学祭にも行けたしな。向こうでも、バスケの試合以外で会おうぜ」
「そうだな」
陽一は一般入試で進学が決まった。それも優樹が進学すると聞いていた筑井だった。二人とは大学リーグで、敵として相まみえることになりそうだ。それにしても陽一の奴、頭も良かったんだな。そして、絵里とのことは決着が付いたらしい。好きな人を諦めることは出来ない、と言われたそうだ。
「なあ健吾。綾瀬さんを頼むよ」
背中を一発叩かれると、陽一は顔の前で卒業証書が入った筒を立てた。
「何だよそれ」
「知っているぞ。お前が綾瀬さんを悲しませていることは。おっと、綾瀬さんを責めるなよ。俺が無理矢理に聞き出したんだ。東京にいる彼女のことも聞いた。聞いた上で、彼女のこともあるけど、やっぱり綾瀬さんを選んで欲しいんだ。俺には、どうすることも出来ないって思い知らされたから、お前に頼むしかないんだ」
「あのな」
「頼んだからな。じゃあな、また会おうぜ」
「お、おい」
靴を履き替えると、陽一は走って行ってしまった。
「すまん。陽一」
これから絵里に、俺の気持ちを伝えるんだ。陽一の願いには答えられない。
意を決して姫百合学園の校門前に行くと、卒業生が在校生に見送られていた。
卒業生は百合の花を一輪ずつ持って昇降口から出てきて、在校生が作った道を泣きながら通ってくる。知っている娘から声を掛けられてはハンカチで涙を拭う卒業生、そして別れを惜しむ在校生が、たくさんいた。
―――いた。絵里と星埜さんだ。
隣にいた星埜さんが絵里の肩を叩いて、こちらを指差した。絵里が振り向いて、大きく手を振る。友人と最後の言葉を交わしてから、二人とも走ってきた。
「健吾君。卒業おめでとう」
「おめでとう」
「ありがとう。絵里と星埜さんも、卒業おめでとう」
「「ありがとう」」
二人とも泣いたようで、目が赤かった。
「じゃあ私、行くね。さよなら絵里、また会いましょう」
「うん。またいつか会いましょう」
「速水君、絵里のことお願いね。じゃあね〜」
星埜さんが向かう先には車が停まっていて、運転席から男が出てきた。
「まさか、彼氏か」
「そうみたい」
車で迎えに来ると言うことは、十八歳以上ってことだよな。周りをよく見ると、そんな感じの車が数台、見受けられた。
「星埜さんて、木本のことが好きだったんじゃないのか?」
「それが分からないの。聞いても違うって言うし。考えても仕方ないわ。行きましょう」
「そうだな」
俺たちは家に着くまでの間、再会してからのことを話しては笑った。一年という短い期間の中にあった、数少ない接点を懐かしく振り返った。
それは今後も続けようと思えば出来たが、俺には出来なかった。
「絵里。ちょっと、ここに寄っていこう」
「うん」
連れて入ったそこは、幼い頃によく遊んだ公園だった。インターハイ予選の準決勝で負けた日、絵里に励まされた場所だ。小さい頃は広く感じられた公園だが、いま見れば大して広くない。何もかもが子供のサイズで出来ているから、ブランコや滑り台などの遊具の横に立つと、ガリバーになった気分だった。
「小さいね」
絵里はブランコに座って、小さく揺らした。
子供たちがいない公園は雪が音を吸い込み、シンと静まりかえっていた。普通に話しているのに、声が大きく感じられる。
「絵里」
「なあに?」
俺は、隣のブランコに座って話し始めた。真剣な表情をしていたからか絵里も気が付いたようで、黙って聞いてくれた。
「絵里と再会して、いつのまにか惹かれていって、麻里という彼女がいるのに好きになっていった。そして、麻里にばれてこういう状況になったけど、いつまでも、このままじゃいけないと思いつつ、今日まで結論を延ばしてきた」
一息吐くと、白い息が大きく広がった。
「だけど、今日で決着するよ。俺は、麻里を選ぶことにする。だから、絵里と付き合うことは出来ない。ごめん」
絵里は、いまの言葉をかみしめているのか、何も言わず目を伏せて俯いた。
「私のこと、嫌いになったの?」
顔を上げた絵里の瞳は、涙でいっぱいだった。さっき、たくさん流しただろうに。
「どこが……いけないのかな。直すから、教えて」
立ち上がり俺の前に来て、心の底から絞り出すように言った。そう言われても、ないのだから何も言えない。
「何で黙っているの。何か言ってよ。お願い」
俺の膝の上に顔を伏せて、泣き崩れた。
絵里がこんなに感情を出すなんて、思いもしなかった。自分の言った言葉の重みが、鉄の塊を乗せられたように、胸にのしかかる。
「ねえ」
足を揺さぶる絵里を見ていたら、奥底に沈めたはずの気持ちが顔を出した。
「絵里のこと、好きだよ」
「だったら」
「でもダメだ。好きだけど、ダメなんだ。麻里の方がもっと好きだから。いや、好きと言うよりも、愛しているんだ。そんな麻里を悲しませるわけにはいかない」
「愛している。そこに、私が入り込む隙間はないのね」
「ああ」
「そうなんだ」
絵里は宙を見つめてそう言うと、しばらく黙った。
何分経ったのだろうか、いつの間にか涙は止まっていた。
絵里は小さく呟いた。
「分かったわ」
「ごめん。俺を恨んでもいいから。なんなら殴ってもいい」
「そんなこと、しないわ」
怒るでもなく、笑うでもなく、表情を変えずに言った。それが一層、哀しみを表していた。
「ねえ。今日で、さよならだけど、最後にお願いがあるの」
「うん」
「成就はしなかったけれど、好きになった人との想い出に」
そう言って、目の前で瞳を閉じた。
「い、いや、それは」
「お願い。一度だけだから。想い出をください」
俺は戸惑った。
麻里の顔が脳裏に浮かんだが、断ることが出来なかった。
「分かった」
俺は顔を近づけて、そっと唇を重ねた。
「んっ」
絵里から吐息が漏れる。
ほんの数秒間が、長く感じられた。
ゆっくりと離れると絵里の目から最後に、一筋の涙が頬を伝った。
「ありがとう」
そう言ってもう一度瞳を閉じて、すぐに開けた。
「さようなら、健吾君」
「さようなら、絵里」
公園で別れて家に帰ると、すぐに部屋に閉じこもりベッドに伏せった。
絵里とは大学で会うことがあるかも知れないし、将来的に義兄妹になるかも知れないけど、出来るだけ早く気持ちを切り替えようと思いながら。
新しい関係 〜麻里七〜
短大の入学式も無事に終わり、新しい生活がスタートした。
健吾は部活で忙しいし、私は講義で忙しくて、まだゆっくりと会っていない。短大が、こんなに忙しいなんて思わなかったわ。
会いたいから電話を掛けようにも、おばさんに聞いたら電話は引かないで携帯電話を買うと言っていたらしい。実は私も携帯を買ったのだが、番号を知らないのだから、こちらから掛けることは出来ない。
仕方ないので健吾からの連絡を待ち続けていたら、もうゴールデンウィークになろうとしていた。
「もうっ、いつまで待たせるのかしら。絵里とは、どうなったのかな」
と気に病んでいたら、持っていた携帯が鳴った。開いて見ると、アドレス帳に入っていない番号からだった。出ようか迷ったが、しつこく鳴り続けるので応答ボタンを押した。
「誰ですか?」
警戒しつつ出たら、最も電話を待っていた人からだった。
「麻里か?健吾だけど」
「健吾?連絡するの遅いよ。四月が終わっちゃうよ」
「ごめん。いろいろと忙しくて」
私からは見えないが、平謝りをしているに違いない。
「いいわ。許してあげる。その変わり、どこかに連れて行ってよ」
「う〜ん。映画で良いか?」
「うん。健吾と一緒なら、何でも良いよ」
「じゃあ、みどりの日に渋谷の映画館の前で待ち合わせしよう」
「うん。楽しみにしているから」
携帯を切ると、すぐに登録した。
「デートなんて久しぶりだな。何を着ていこうかな」
その日の晩は、手持ちの服を全部引っ張り出して、深夜まで鏡とにらめっこをしていた。
結局、手持ちの服では納得いかず、一昨日買ってきた新品の服でドレスアップし、待ち合わせ場所に急いだ。髪型もシャギーを入れて変えたし、すぐに気が付いてくれるかな?
渋谷は相変わらずの人混みで、どこもかしこも人でいっぱいだった。
駅からすぐの映画館に着くと、健吾の呼ぶ声がした。
「麻里」
小さく手を振って、早足で近付いた。
「髪型変えたんだな。似合っているよ」
「ホント?嬉しい」
やった。気が付いてくれた。友達からも似合っていると言われたが、健吾から言われるのが一番嬉しい。
「何を観るの?」
「そうだな。あれでいいか」
健吾が指差した宣伝用のポスターは意外にも、いま話題の恋愛映画だった。
「いいよ」
私は観たいと思っていたからいいけど、健吾は大丈夫かしら。また寝たりしないかな。
私の予想は案の定、当たっていた。
「さっきは、ごめん。部活がきつくて、身体が疲れ切っていたんだ」
「もうっ。思ったとおりだったわ」
罰として、私の大好きなスパゲッティーのお店で、健吾のおごりで腹ごしらえをした。
その後、公園のベンチに座り、一休みした。
「それにしても、よく食べるね。前よりも量が増えたんじゃない?」
健吾は普通、三人から四人で分けて食べる大皿を、一人で平らげてしまった。
「そうか?ちょっと食べ過ぎたかな」
健吾は、お腹を抑えて笑った。
こうやって好きな人とベンチに座っていると、胸が暖かくなる。目の前の噴水の流れを眺めながら、ゆったりとする時間は、とても幸せな気分になれた。
「そうだ麻里、アドレス教えてくれないか?」
「うん」
健吾は携帯を開き、慣れない指使いでメールアドレスを登録した。
そして、周りの人達の忙しなさとは対照的に、くだらない話をしていると健吾が突然切り出した。気になっていたとはいえ今日は、この話はないだろうと思っていた。
「俺。絵里には、キッパリと付き合えないって言った」
「ホント?じゃあ」
私を選んでくれたんだ、と言おうとしたら手を上げて遮られた。
「ちょっと待って。俺の話を聞いて欲しいんだ」
「う、うん」
「絵里とは別れてきたけど。麻里とも、いったん別れようと思うんだ」
え?い、いま、何て言ったの?別れるって言ったの?絵里と別れてきたのに、なぜ私とも別れる必要があるの?
私の身体が、小刻みに震え出す。
「どうして?」
「こういう状況になったのは、麻里に対する裏切り行為だったわけで、一回精算したいんだ」
「そんな。私は怒っていないよ。別れるなんて言わないで」
訳が分からなくなった私は、健吾の腕を掴み、頭を振って取り乱した。対照的に健吾は、私の態度を見ても、なんら変わりないように見えた。
なんで、そんなに冷静な表情をしてられるの?
「ははは」
「なんで笑うの?酷いよ!」
「ごめんごめん。俺が遠回しに話したから、勘違いさせたみたいだな」
「っく。勘違い?」
私は、込み上げてきた嗚咽を抑えながら言った。
「ここ。どこだか覚えているか?」
「この公園?ここが、どうかしたの?」
私は周りを、ぐるりと見渡した。
「あっ!」
そうだ、忘れていた。この公園は、私が健吾に告白した公園だ。
「想い出したか?」
「う、うん」
「こっちに来て」
健吾に引っ張られた場所は、まさに告白の時に立っていた場所だった。
「あの時は、麻里の方から告白してくれたよな」
「うん」
「今度は、俺からするよ」
「え?」
「遠距離になって、麻里はたくさん手紙をくれたのに、俺は数えるほどしか送らなくて、ごめん。寂しい思いをさせていたのに気が付かなくて、ごめん。他の娘に心が揺れてしまって、ごめん。いまも勘違いとはいえ泣かせてしまって、ごめん。はは、ごめんばっかりだな」
苦笑した健吾は、一息吐いて続けた。
「こういう風に謝ることは、これからもあると思うけど、出来るだけないようにする。だから、ここからまた、やり直したいんだ」
「うん」
「俺は、麻里のことが大好きだ。この気持ちは愛だと思っている。付き合って欲しい」
私の瞳から大粒の涙が零れた。
「私も大好き。改めて、よろしくお願いします」
健吾の胸に飛び込んで、いまの言葉をリフレインしたら、また泣けてきた。
健吾ったら、愛しているだって。すっごく嬉しいよ。
「ねえ、健吾。もう一回言って」
上目遣いで言うと、健吾は赤くなった顔を背けた。
「ダメ。もう言わない」
「そんなこと言わないで、あと一回だけ」
「ダメだ」
ふふふ。耳まで真っ赤にして、可愛いんだから。
「それより麻里。これ」
健吾はコートの内ポケットから包みを出した。リボンが付いている。
「もしかして、クリスマスプレゼント?」
「うん。あの時は結局、交換できなかっただろ」
「そうだったよね。ゴメン。忘れていたわ。私からのは今度、渡すから」
「いつでも良いよ。はい」
「ありがとう。開けても良い?」
「ああ」
包みを受け取った私は、期待を込めて開いた。この包み紙には、見覚えがあるからだ。
「わあ」
健吾からのプレゼント。それは、ハート形のネックレスだった。まさか健吾から、アクセサリーを貰うとは思ってもいなかったので、嬉しいと同時に驚いた。
掌に乗せて、指でハートの形をなぞりながら、健吾がこれを買いに行っている様子を想像したら可笑しかった。
「こういうのを買うの初めてだったから、よく分からなくて。これで良かったかな?」
「うん。とっても嬉しいよ。ありがとう」
私は健吾に抱き付いて、ギュッと腕に力を込めた。
健吾も力を込めて、抱き返してくれる。
―――私をずっと、抱きしめておいてね。
顔を上げると、目の前に健吾の瞳があって、お互い吸い込まれるように唇を重ねた。
その後、駅で別れて帰りの電車に乗ると、健吾から早速メールが来た。
『俺は、麻里のことが大好きだ。愛している。付き合って欲しい。メールでならな』
すぐに返信する。
『ありがとう。大好きよ。私も愛しているよ。一生離さないでね』
こうして私と健吾は、恋人として再出発をした。