「塩とロバと私 その2」
ぼーとしていた私に有子が話しかけてきた。
「聞いて。塩を運ぶロバの話を読んだの。」
「いまさら?!」
私は眼を丸くした。
「でもね、昔と今じゃ、話が違うみたいよ。」
「どこが?」
「昔のは、塩を川で転んで荷物運びが楽になったことに気がついたロバが、何度もやっているうちに、主人に綿を入れられて、川で溺れるんだけど。」
「今は?」
「今は、主人が塩ばかりじゃ、大変だからってわざわざ軽い綿にしてあげたのに、また転んで水を吸って、重くなった荷物を運ばなきゃならなかったって話になっているの。ロバは最後まで生きてる。教訓は、オイシイ出来事は何度も続かない。」
「なるほど。」
私は納得したのだが。
「それで、なんで急にその話を?」
「その話を国語の先生にしようと、デートに誘ったの。」
「いいじゃん。」
「でもね、算数の先生もついてきたの。」
私は首をひねった。
「…数学じゃないの?」
「小学校だから。」
「ああ、それで?」
「延々、1キロの綿が水を吸いこんだらどれだけ重くなるかの公式の説明を聞かされたわ。」
「…残念ね。」
「ホント。」
有子はため息をついた。