真実の紐解き
すごく短いです。
少年がうずくまっていた。
彼の大きな瞳に、涙はない。黒曜石色の艶やかな髪は砂埃に塗れている。
そこらじゅう、見渡す限りに焦土が広がっていた。大地に呼応するかの如く、空さえ鈍色で。
鮮やかな色彩など一つも見当たらない。
炭と化した木々に田畑、干上がった川。
少年は下唇を噛み締めた。一筋の血が顎を伝って地面に滲む。
「――ごめん」
誰に言ったとも知れない言の葉を、枯れた風がさらう。
と、少年の下で紅葉のような小さい手が動いた。彼は慌てて上体を起こした。
そこにいた生後間もない赤ん坊は、無垢な笑い声を上げて少年に手を伸ばす。
「……鈴子……お前を殺すくらいなら、こうする方がまだ良い……」
ここで初めて、少年の双眸から涙が溢れた。
麻布にくるまれた赤ん坊を抱きしめ、彼は泣いた。
声を押し殺して、泣いた。
三日前、国境にある一つの集落が息を止めた。
集落の者達は全員殺されていたため、真実は闇に消えた。
『死人に口なし。他国が攻めてきた形跡は非ず』
一帯を治めている殿様は、そう言ったという。
近隣に住む人々は噂し合った。
『あの集落には、忌まわしい風習があったんだよ』
『へえ』
『六年に一度……赤子を山神様に献上するのさ』
『なんだそりゃあ! どうして、そんな惨いことするんか』
『聞いた話じゃ、あの集落が今まで戦や不作の被害に遭わないですんだのは、そうして山神様のご機嫌を取ってたかららしい』
『……可哀相に』
『きっと、バチが当たったんだ。赤ん坊達の無念と、その親の妄執が集落を消したんだよ』
『そうだねぇ』
誰も知らない。
幼い妹のために集落を焼き、逃げ惑う人々を一人残らず殺した少年を。
贄となる定めにあった幼子を。
二人が辿った行く先を。
そして。
集落にあった、忌まわしき風習の全貌を。
――真実はまだ、何一つ紐とかれていない。