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第7話 色彩の欠落

 ループの回数は、もはや数えるのをやめた。


 数百回、あるいは数千回か。

 俺の意識は、繰り返される十二月六日の波に洗われ、徐々に角が取れて丸くなっていく石のようだった。


 教室の風景。

 以前は活気に満ちて見えた友人たちの談笑も、今や録音されたテープの再生にしか聞こえない。


 親友のタケシが「今日の部活、だりーな」と欠伸混じりに言う。

 俺はそれを、前回のループでも、その前のループでも、全く同じタイミングで聞いていた。


(お前、それを言うのは何万回目だ?)


 心の底で冷めた声が響く。


 かつては熱心に聞いていた英語の授業も、黒板を叩くチョークの音さえ、今の俺にとっては意味をなさない「雑音」に過ぎない。

 周囲の人間が、次第に意思を持たない「記号」に見え始めていた。

 親の説教も、テレビから流れるニュースも、すべては十二月六日という舞台を彩るための、安っぽい背景画でしかない。


 どんなに勉強して知識を詰め込んでも、午前零時になればすべては虚空に消える。

 どんなに誰かと深く語り合っても、次の日には「初対面」の顔で挨拶される。

 俺が積み上げた努力も、感情も、この世界には保存されない。


 俺の目に映る世界から、徐々に「奥行き」が消えていった。


 建物は書き割りのように平坦になり、人々の声には感情の起伏が感じられなくなる。

 世界はどんどん灰色の砂漠へと変わっていく。


 俺自身の心も、その砂漠に飲み込まれるように、感情という突起を失い、滑らかで、しかし救いようもなく冷たい「何か」へと変質していった。


「湊?――ねえ、湊ってば!」


 不意に、視界の端で鮮やかな色彩が爆発した。


 陽葵が、俺の顔の前に手をかざして振っている。

 彼女だけが、この灰色に染まった世界の中で、唯一「熱」を持ったまま存在していた。


「あ……陽葵か」


「もう。ずっと、ぼーっとして。模試の結果が良すぎて、魂が抜けちゃった?」


 彼女は、俺の反応に合わせて言葉を変える。


 俺が絶望していれば心配し、俺が笑えば心から喜ぶ。

 記号の中に紛れ込んだ、唯一の「生きた存在」。

 彼女の吐く白い息、マフラーの毛羽立ち、そして微かに漂うシャンプーの香り。

 それだけが、今の俺にとっての「現実」だった。


 俺は、無意識のうちに彼女の腕を掴んでいた。

 離せば、俺自身もこの灰色の背景に溶けて消えてしまうのではないかという、猛烈な恐怖に駆られたからだ。


「……湊?どうしたの、そんなに強く掴んで」


「……いや。なんでもない。……行こう、陽葵。いつもの坂道へ」


 俺は、彼女という「唯一の色彩」に、縋り付かずにはいられなかった。


 外の世界なんて、もう存在しないのではないか。

 留学も、将来も、ただの空想だったのではないか。


 俺は、自分を必要としてくれる陽葵の腕の中に、すべてを投げ出して逃げ込みたいという欲求を、もう抑えられなくなっていった。

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