第4話 繰り返される祝福
二回目、三回目、そして十回目。
俺は自分がループの中にいることを確信した。
最初は、あまりの幸福に脳が一時的にバグを起こしたのかと思ったし、あるいは合格圏に入ったこと自体が夢だったのかとも疑った。
だが、学校へ行くと、昨日と寸分違わぬ光景が待っている。
「湊!おめでとう!すごすぎるよ!」
陽葵は、昨日と同じタイミングで、同じ笑顔で駆け寄ってくる。
マフラーの巻き方も、頬の赤らめ方も、俺の手を握る力の強さも。
一ミリの狂いもなく再生されるその光景に、俺の背筋には氷水を流し込まれたような寒気が走った。
最初は、この現象を利用してやろうと思った。
時間が戻るなら、試験の傾向を完璧に把握できる。
もっと効率よく勉強できる。
そう思って、俺はさらに熱心に将来の展望を陽葵と語り、留学の準備を進めた。
だが、俺が前向きになればなるほど、世界は無慈悲に牙を剥く。
自分が模試の結果に喜び、将来の展望を陽葵と熱心に語るルートを通ると、必ずその夜の午前零時に時間は巻き戻るのだ。
あるループでは、実験のために全く違う行動を取ってみた。
他校の女子から告白された際、その想いを受け入れようとした瞬間があった。
この閉塞感から逃げられるなら、勉強以外の「変化」でもいい。
そう願ったが、夜の午前零時になると、視界は真っ白なノイズに包まれ、リセットが起きた。
(俺がステップアップしようとすると……俺が、何かを手に入れようとすると、ダメなのか?)
湊の心に、氷のような戦慄が走った。
この世界は、俺が「現状」から抜け出すことを、拒否しているかのようだった。
俺がこの町の外へ一歩でも踏み出そうとする意志、あるいは、誰かと新しい関係を築こうとする未来。
それらすべてを「異常」と見なして、世界がループを繰り返している。
「ねえ、湊?なんでそんなに震えてるの?寒い?」
何度目かの十二月六日、陽葵が俺の顔をのぞき込んでくる。
彼女の瞳には、俺を心配する純粋な慈愛だけが宿っている。
「……なんでもない。ちょっと、この寒さに慣れないだけだ」
俺の声は、自分でも驚くほど乾いていた。
おめでとう、という彼女の言葉を聞くのは、もう何度目だろうか。
その祝福が、今の俺には死刑宣告と同じ響きを持って聞こえ始めていた。




