第二片
あなたがモアブの家へ帰って行った後、わたしたちはユダのベツレヘムを目指して歩きました。
道すがら、市場で食べ物や驢馬など、旅に必要な物を整えました。
あのひとと一緒に、やれあっちの方が安いだの、こっちの方が質が良いだの、あれこれ話しながら市場を見てまわりました。
今思い出しても、胸がわくわくします。
知らない町の市場を歩くのは少し怖かったけれど、あのひとと一緒なら、なにかとんでもないことをしているような愉快さがありました。
市場は大変な賑わいで、気を抜けば、すぐに人馬の波に呑み込まれてしまいそうでした。
行き交う人や驢馬にまごつくわたしを見て、あのひとは、
「はぐれてはいけませんから、どうぞ私の腕を取りなさい」
と、ご自分の腕を差し出しました。
わたしはすっかり嬉しくなって、あのひとの細い腕に寄り添いました。
おそばを離れまいと、ぎゅっとしがみついたものですから、あのひとは
「大きな子どもをもった気分です」
と、わたしを見上げて困ったように笑いました。
鋭い日差しの下でも、あのひとの腕の温かさが心に沁みました。
それ以来、ベツレヘムへの道筋で市場に寄る時は、いつもあのひとの腕に縋りついて歩きました。
「ここはそんなに混んでいないのだから、そんな風にしなくともはぐれたりしませんよ」
と笑いながら言われても、かぶりを振って腕を離さなかったほどです。
モアブの家を、父母や兄弟たちを、すこしも恋しく思わなかったと言えば嘘になります。
それでも、あのひとのおそばを離れることを思えば、肩に食い込む荷の重さや足の裏の豆が潰れる痛みなんて、なんでも無いことのように感じました。
荒野を行く時、日差しが強くなれば、わたしがあのひとの陰になりました。
水や食べ物が乏しくなれば、自分の分をあのひとに差し上げました。
あのひとの分の荷を背負い、驢馬の口縄を引いて歩きました。
それでも、たのしかった。
あのひとと二人っきりで話したり食べたりできるのが幸せだった。
オルパ、どうか気を悪くしないでください。あなたを邪険に思っていたわけではないのです。
ただ、あのひとと一緒にいられるのが、ほんとうに嬉しかった。
毎夜、天幕の下で眠る前、あのひとの寝顔を眺めるのが密かな楽しみでした。
安らかで、いつもの慈愛と威厳に満ちたお顔とは打って変わって、まるでいとけない子どものような顔をするのです。
このお顔を、わたしがずっと、死ぬまでお守りしようと思いました。




