表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

第十四片



 婚姻の日の朝は、静かに明けました。


 婚礼衣装は刺繍と飾りでずっしりと重く、私の身体を押さえつけます。


 あのひとは最後の仕上げに、わたしの髪を整え、衣を正してくれました。


 その手つきは、いつもと変わらず、穏やかでした。


 まるで、実の娘を嫁がせるような優しさで、


「さあ、もう時間です。皆が待っていますよ」


 と、あのひとが声をかけた時、わたしは心を決めました。



「ナオミ様」



 そう呼びかけた声は、自分のものとは思えないほど掠れていました。


 わたしは初めて、「お義母様」ではなく、名前で呼んだのです。


 言葉が詰まって、先に進めません。


 あのひとは黙って、わたしの肩に手を置いてくれました。


 その手の温もりを感じながら、わたしは静かに身を屈めて、あのひとの唇に程近いところに、そっとくちづけました。


 音のない時が流れました。


 あのひとは、驚くでもなく、憎むでもなく、ただ、じっとわたしを見つめていました。


 その瞳に映るわたしの姿は、どんなふうに映っていたのでしょうか。


 きっと、あのひとには全てお見通しなのです。


 わたしの想いも、覚悟も。


 それでも、責めることも、諭すことも、拒むこともせず、ただ、静かに受け止めてくれていました。



 長い沈黙の後、あのひとは、


「娘よ、行きなさい」


 と告げました。


その声には、いつもの慈愛が満ちていました。



 わたしは黙って深く礼をして、部屋を出て行きました。


 もう迷うことはありません。


 この道の先で、わたしは誰かの妻となり、あのひとの杖となる。


 すべて神の御心に沿うことです。


 振り返ると、清らかな朝の光の中で、あのひとが微笑んでいました。


 その微笑みは、どこか寂しげで、でも確かな愛情に満ちていて、まるで祝福のようでした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ