【第3話 】 迷わずに、届いた歌
スタスタスタ……
ガシャン!
おれ:
「……ふぅ。
隣のママチャリに用があったのね⋯
こんな時間になにしとんねん!びびらせてやがって!
って、嫁の自転車のパンクを夜な夜な修理しとる
ただのえー旦那やないか!
朝と昼は仕事と子供の相手で時間が作れんからって、
夜中に自分の時間削ってまで……ッ」
セミP:
「……お前、ほんまよー喋るのぉ。」
おれ:
「孤独の反動や!
新人アイドルなら舞台上がる前緊張すんのと同じや!」
──集中。
『ドキドキしてるけど⋯大丈夫!
だってみんなが見ててくれるもんっ!』
セミP:
(メソッド⋯アクティング⋯。
ハハッ、こいつぁーいい。
ワシがその気にさせて背中を押してやらんとな!)
※メソッドアクティング:役になり切り、感情も本気で再現する演技法
「いけ! 頑張れ! ステミン〜ファイトッ!!」
「ジョッ ジョッ ジョッ──
上半身ぃーん♪
ファイファイファイッ!」
ピキピキッ
おれ:
「うぅーーーんしょっ⋯
上半身OKぇ。
あとは全身を慎重に出してぇっと⋯」
セミP:
「あっとすっこし! あっとすっこし!
ふぅわふぅわふぅわ♪」
おれ:
「んんんんんん〜⋯
んばぁーーー!
よし!全身出た!
ゆっくりと羽を伸ばして〜
羽は蚊でも蝿でも経験済みや!
この経験を活かして慎重にいくでぇー!
⋯ん?!
なんか光がうっすら見える⋯
俺を応援してるペンライトのようや⋯」
──フュィンッ……
フェニたん:
「それ、ただ隣でパンク修理してる
えー旦那のペンライトなんだけどね……。
せっかくその気になってるんだから黙っててあげるわ。
もう一息よ! がんばりなさいっ♡」
──2時間後。
歓声と修理音がセッションする中、
子供用自転車のハンドルから遂にアイドルが飛び立つ─
──。
おれ:
『土の中からついにデビューっ!
短い夏だけど、精いっぱい羽ばたいて歌います♪
新人セミドルのステミンですっ♡』
キラァンッ☆
セミᏢ:
「短い夏とか言わないでぇぇ!!
ずっと推すから!!
羽ばたけセミドル♡(ニカッ)」
おれ:
「……。
あんたファルコン大佐やろ!」
セミᏢ:
「振り向かずに飛べ!
お前の全力見せてみろ!」
フェニたん:
「フフッ、おめでとう♡
行ってらっしゃい♪」
──フォンッ……
おれ:
「そぉれ! エンジェルウィングゥー!」
ガンッ!
バチバチバチッ!
「やべぇ、蝿の感覚で飛んでもうたけど、飛行能力低ッ!
家の壁に激突してもうたわ。」
(さて、残された命も最長1ヶ月ほど。
いい嫁さん見つけないと!
地下でのイメトレの成果をいまこそ……)
すぅーーーっ はぁーーーっ
『ララララァー ラーラーララー ラーラーラーラー♪
ラーララーラ ラーララー ラーラーララァー♪』
セミ女子A:
「何この歌?! すごく切ないけどクセになる!
私、この人と結婚する!」
セミ女子B:
「キレイな声⋯私が結婚するのよ!」
セミ女子C:
「この声は渡さない!早いもの勝ちよ!」
おれ:
(ん? 何か俺の声に引き寄せられて女子達がきよったで。
人生でモテ期が数回来るってよー言われるけど、まさか今とか?
なんか複雑……。)
セミ女子達:
「ねぇアナタ、結婚しない?」
おれ:
(……。
んー みんないい足してるし、羽のツヤもいい……
けど、何か違うねんなぁー……)
「みんなごめんよ。 他の男を探してほしい。」
セミ女子達:
「なぁーんだ ざぁーんねん!
でも仕方ないわね。じゃね!」
ブィーーーンッ
おれ:
(はぁ……使命を果たさないといけないのに
おれは何をしてんだか。
高望みし過ぎかな?!)
隣の木から激しい歌が聞こえる。
ズンチャッ ズンチャッ♪
???:
「今日もワシが主役やぁぁぁ♪ 単独ライブ開始じゃああ♪」
『ワシーの名前は 蝉嶋ぁ♪ YO YO!
say meー♪ セミィー♪
本気出したら真剣セミィー♪』
セミ女子達:
「キモっ 何あの雑音、イライラするからどっかいこー!」
ブィーーーンッ
おれ:
「say meって⋯俺は好きやぞ、蝉嶋。」
アレから俺は歌い続けた。
女の子たちは頻繁に来てくれるけど、
何故か心が踊らず、遂に100匹目の求婚も断ってしまった。
(残り僅かな命でおれは何を求めてるんや⋯
ふぅ⋯少し気分を変えてみるか。)
『ラーラーラーラァアンッ♪』
ライヴ版的に多少遊びを入れて歌っていると
どこからともなく、歌が聞こえ、俺に近付いてきた。
『フンフフンフーフーフフン♪』
???:
「とても素敵な歌ね♪
そのくせのある語尾の伸ばし方、ライヴバージョンね♡
私も歌がすごく好きなのよ♪」
おれ:
「この感じは……。君、名前は?」
蝉山:
「私は蝉山よ。……アナタが噂のステミンね♪
メスだからあまり歌えないけど、アナタとなら、歌える気がするの。
私と⋯結婚⋯してくれる?」
おれ:
「な、、なんだこの……
バラバラだった1つの歌が、再び合わさり完成したような感覚は!」
蝉山:
「答え⋯聞かせてくれる?♡」
おれ:
「おれでよければ⋯YES♡
蝉山さん、ここは危険がいっぱいや。
ちょっとついてきて?」
蝉山:
「ん♡ なになに?
勿論よ。ついていくわ♪」
ヴゥィ〜ン パタパタ
ヴィーーーン パタパタパタ
おれ:
「ここや。
ここなら、安全かつ⋯俺達の未来にも繋がる⋯はず。」
蝉山:
「神秘的なところね⋯ここは?」
おれ:
「ここは、夫婦楠っていって、二人の愛を実らせてくれる神聖な場所なんや。
ここの高いところなら安全にセッションできるかなって思ってね。」
蝉山:
「フフッ♡ ステミンを選んで⋯いえ、アナタでよかったわ♡
さぁ、奏でましょう♪」
『ラララララ ラーララァ〜♪』
『フフフ〜ン♪』
──1時間後。
蝉山:
「そろそろ⋯お別れのとき⋯ね。
楽しかったわ♡
私はこれから卵を産みに行く。
アナタは?
モテるし、次の奥さんを見つけにいくの?」
おれ:
「ありがとうな、蝉山さん。最高のハーモニーやった。
次の⋯奥さんね。
もう体力も残り少ないし、世界を見て回ろうかなって思ってる。」
蝉山:
「フフッ♡ 半分は嘘ね。アナタ気付いてる?
嘘つくとき、お腹が3回揺れるのよ?
アナタに体力があることは私はわかってる。
でも⋯ありがとう♡
私は卵を産むともう体も限界になっちゃうから、残りわずかな命⋯
でも、アナタとの子を残せて幸せだったわ♡
またどこかで逢いましょう♪
じゃーねっ♡」
ブィーーーンッ
おれ:
「おれもやで。 君を⋯愛してる♪」
ブィーーーンッ
おれ:
「蝉山さん⋯(涙)」
子供:
「うわぁー 蝉におしっこかけられた!」
おれ:
「え?もしかして、たまにかけられるオシッコって⋯涙⋯やったんか!?」
──フュィンッ……
フェニたん:
「いーえ、オシッコよ♪
樹液は【栄養1割・水9割】なのよ。
余分なものは捨てないと負担がかかるからね。
蝉山さんとのセッション、グッときたわ♡
あんた、人間より虫付き合いの方がうまいってどういうことなの?
まぁいいわ。使命は果たしたでしょうけど、世界を見てらっしゃい。」
──フォンッ……
おれ:
「やっぱりオシッコかよ!
でも、樹液の残りカスって知ると、かかってもダメージ低いから得した気分♪
さて、他の皆は〜⋯
あっ 蝉嶋ボロボロやんけ!」
蝉嶋:
「へっ お前か。
歌に熱くなりすぎて体力が尽きてもうたわ。
わしのセンスがわからんおなごばっかりで、誰も寄り付かんかったわ。
でも、わしの生きた証⋯お前のマナコに焼つけたらんかいッ!」
ブイィーーーーンッ!
道路にボテッ
おれ:
「蝉嶋っ!? お前、何してんねん!
人間に踏まれるぞ!」
蝉嶋:
「もう……えぇんや……。」
……。
──。
死ーン。
営業マン:
「はい、お世話になりますぅ〜。
あと10分ほどでぇ──」
スタスタスタ
おれ:
「蝉嶋⋯そんなところで死んでどうするつもりや……」
営業マン:
「いやいや、武藤社長のおかげですよぉー」
(ん? 蝉が死んどる⋯きもっ)
スタスタスタ⋯
蝉嶋:
(チラッ)
『ミ”ィーーーーーーーーーーーッ!!!!』
営業マン:
「うおっ びびったぁー(ドキドキ)」
蝉嶋:
「……聞いたか今の?
取引先の社長と電話中やのにマジでビビってやんの……」
おれ:
「お前⋯最初からその声量だせてたら、女の子きて子孫残せたで⋯。
どこにチカラつかっとんねん。」
蝉嶋:
……死ーン。(燃え尽きて死亡)
おれはそれから、壁にぶち当たりながらも世界を飛び回った。
ときには人間に捕まりそうになったり、エレベーターから脱出できなくなったりもした。
オスが子孫を残せずに散っていく姿もたくさん見てきた。
それでも全員が最後まで全力で歌っていた。
逃げてばかりの人生だったけど、本気で⋯
全力で生きることの尊さを知った。
──そして
おれ:
「もうあかん。さすがに体力が限界や……」
バタバタ⋯フラフラ⋯バチバチ⋯
おれ:
「あっ?! 蝉山さん!」
蝉山:
「ジ・・・ジジジ」
おれ:
「そうか⋯こんなにもボロボロになって⋯
無事に産んでくれたんやな。
ここは⋯
夫婦楠⋯
⋯。
もう、しゃべらんでええよ。
一緒に、逝こう⋯。」
蝉山:
「⋯♡」
こうして二人は夫婦楠の幹で生涯を終えた。
⋯ジジ⋯ジ・END
──フュィンッ……
フェニたん:
「⋯ッ もうバカッ!⋯蝉で泣かせないでよね!
あんたと蝉嶋の差が激し過ぎて感情がめちゃくちゃよ!」
おれ:
「長いようで短かかったなぁー⋯。
でも、幸せってのが何なのか、少しつかめた気がするよ。
それにしても⋯
say me!セミィー!なんかクセにならん?」
フェニたん:
「そこっ!?
むぁ確かに言いたくはなるけどぉ⋯
まぁそれはそうと、逃げるだけしかできなかったあんたが、
次は耐えるチカラも手に入れたわね。
もう今のあんたは空っぽじゃないわ。
着実に1つ1つ成長してるのよ。
今なら人として⋯」
おれ:
「えっ!?」
フェニたん:
「虫転生ぃ~~~~~スロットぉ♡」
おれ:
「虫っていうてもぉ〜てるやぁ〜〜〜んっ」
意識が遠ざかる⋯
⋯。
──。
プチッ ぷにゅっ⋯
⋯何やこの部屋は?
【第3章 蝉編 完】




