【第1話】 通じない戦術
カリカリ…カリカリ…
プリッ。
んー…何や明るいのはわかるけど、何も見えない…。
けど、木の上ってのはわかる。
そして、次に何をするべきかも本能でわかる…。
くねくね⋯それっ!
ひゅーーーーーんっ
ポテッ。
早く、土に潜らなくては…
…あれ?
硬くて潜れない!
──1分経過。
やばい…
体が乾いてきた…
気が遠のく…
だめだ……(死亡)
━━。
あれ? ここは?!
カリカリ…カリカリ…
卵?
え? もう死んだ?
──フュィンッ……
フェニたん:
「そうよ、あんたこれでもう5回目なのよ。」
おれ:
「5回? あんまり記憶がないんやけど…」
フェニたん:
「そうね、今みたいに数分で死んじゃってるから無理もないわ。
よく聞きなさい、あんたはセミよ!
生まれた瞬間から運次第で半分近く死んじゃうわ。
どう動くかではなく“生まれる環境”次第…
“環境ガチャ死” といっても過言ではないわ。」
「仕方ないわね。次は私が少しだけ手助けしてあげる。
まずは――なんとか土に潜ることだけ を考えなさい。」
──フォンッ……
おれ:
「セミ…か。
生れた瞬間から運命が決まってるとか…なかなか辛いな。
でもやるしかないし、逃げたらダメやな。」
(とりあえず卵は木の枝の中やし安全。
中に栄養もあるし、暫くはここで体作りやな……。)
──約40日後。
カリカリ…カリカリ
プリッ。
ふぅ〜。卵の中が地味に長かった…
よっこらせっと。
…うんうん。
下にはコンクリートの臭いと土の臭い…。
さっきは運悪くコンクリートの上に落ちちゃったんか…。
フェニたんを信じよう。
くねくねくね…
アイ キャン フライッ!
ピョンッ
ひゅーーーーーんっ!
その時、フェニたんのはからいで突風が吹き、
落下位置がずれる。
ブワァワァ〜ッ
ポテッ。
おっ、これは間違いなく土の上!
土がこんなに恋しいのは、最高級の泥団子作って以来やで!
━━その瞬間。
どこからともなく、叫ぶような大声が脳内に響く。
……ジジジッ
???:
「潜れんセミは、ただの酒のツマミや!
乾きたくないやつは今すぐ潜れ!」
おれ:
「なんや! 脳内に直接バカでかい声が!?」
???:
「CME-55(掘削機)になったつもりで掘ったらんかい!
言葉通り “死ぬ気” で掘れぃ!」
おれ:
「とにかく急がないと!」
どっこいせ! ほいせ!
ふぅ〜……とりあえずある程度潜れた。(約10cm)
???:
「……そこまでや、ヒヨッコ。
その程度でも“生きる意思”は認めたる。
フェニックス殿より正式要請を受けてな。
“セミ科・生存率向上任務”──その任務遂行のため、特別教官として着任した。
──フュィンッ……
フェニたん:
「紹介するわ。
《地中戦術部隊SR(Special Recon)》最強の男──
マーカス大尉よ。」
マーカス大尉:
「要請、確かに受領した。フェニックス殿。
この戦場は死にたければ10秒で死ねる世界や!
死ぬか耐えるか、選べ!」
おれ:
「生きまっ……」
マーカス大尉:
「耐えるや!
ヨシッ! まずは己を知ることからや。
正直に言うぞ――お前は弱い!」
【蝉の幼虫のステータス】
5段階評価(1が最低)
力 1
スピード 1
体力 2
防御力 1
知能 2
「戦いも守りも逃げもできんと思え!
エネミーは以下の通りや!
ムカデ、もぐら、アリ、ハサミムシ、クモ。
見つかったらそこで――
ミッション・フェイルド(作戦失敗)!
ようするに “死” や。」
おれ:
「え?
おれの唯一の “逃げ” が通じない?!」
フェニたん:
「まさにその通りよ。
あんたの得意な逃げる行為は一切通用しないわ。
ま、マーカス大尉の言うことを聞いていれば大丈夫よ♡
それじゃ私は“転生オリエンテーリング”があるから行くわね!
ハエの時、逃げる以外を選んだあんたならきっとやれるわ。頑張りなさいッ!」
──フォンッ……
おれ:
(フェニたんって、ようわからんイベント好きよな……)
おれ:
「マーカス大尉!
何もできないヒヨッコはどうすればいいでありますか?」
マーカス大尉:
「お前らに残された生き方は、ひとぉーつ!
コンシールメント(隠れる) のみや。
息も足音も殺せ!
誰にも悟られずに、ただひたすら生き抜け。
最後に、ニンフの基本だけ教えてやる。
心して聞け!」
構え! 吸え! 休め!
構え! 吸え! 脱げ!
「これを5〜6年続けろ!
その先に“最高のステージ”が待っとる!
それでは健闘を祈るッ!」
ジジッ…
おれ:
「ただ隠れるだけ?!
しかも5〜6年もステルス生活…
ダンボールがあってもキツイでこれ…。」
よし、とりあえず腹が減ったな。
根っこがあっちにあるのは、蝉のセンサー的なものでわかる。
チューチューしにいこかな。
おっ、あったあった。
どれどれ…
カキンッ!
「硬ッ!」
根が太すぎるか…少しだけ移動しよう……
次こそ!
構えてぇ……
グサッ。
そして吸う!
チューチュー…。
おっ?!
スポーツドリンクの漢方版みたい。
ほんで薄っ!
二日酔いに効きそうな味やわ。
いったん休む…。
──。
構え!
吸え!
休め!
……なんやこれ……
おれは起きてんのか寝てんのか、ようわからん状態やな……
ゲームで寝落ち前の感じやわ……。
──フュィンッ……
フェニたん:
「虫にはね、基本的には“睡眠”という概念はないのよ。
“休止”というのが正しいわね。
レスト(rest)
トルポー(torpor:低代謝状態)
ディアポーズ(diapause:季節性の休眠)
これが睡眠の代わりって感じね。」
──
「──っていうか、起きなさい!!」
ビクッ。
フェニたん:
「ゲーム寝落ち状態でもう2週間ほど経つわよ!
そろそろ何か感じる頃じゃない?」
おれ:
「ほぇ〜もうそんなに経ったん?
んーたしかに身体がパンパンになってきたな…」
ピキピキッ。
きたかっ!
封印されしイニシエの力が……
今、開放されるぅ!!
━━続く━━




