88.シーサルミの激戦
翌朝早く、叫び声でスカイ達は目を覚ました。
ドアから顔を出すと、玄関口で宿主と住民達が集まり、激しく口論している。
「どうしたの」
ロイが住民に触れて話しかける。
「助けてくれ! 外が大変だ!」
「なんだよ。落ち着いて話せよ」
「こんな……こんなでっかいのが、アモーレイクから湧いてきた」
今度は別の住民は息をきらし、両手を大きく広げてみせる。
「でっかいの? エビか?」
「そうじゃない。見たこともない、でっけえ蜂だ」
ロイの通訳を聞きながら、スカイは目を見開く。
「ヤバネだ」
スカイ達は住民について外へ飛びだした。
人間の死体が無造作に転がり、あちこちで叫び声があがっている。ヤバネスズメバチが飛び交い、生存者を追いかける。スカイは素早くあたりを見まわす。アモーレイクの湖面にはアッタケエビの死体がぷかぷか浮いている。そのはざまから、次々に蜂や蜂人が這いでてくる。スカイの肩にとまっていたジャッキーが、興奮して威嚇する。
「二千四十一……二千四十二…まだまだ湖から出てくるぞ!」
オリバーが素早くカウントする。
スカイは待機させていたトナカイに飛び乗り、弓を構えた。その緊張感が伝わり、トナカイはいきおいよく駆けだした。
「ラコロシュテ・プロロクテ・ピカ。リージス」
放った矢は轟音を立て、固まっている蜂を串刺しにする。スカイはトナカイを走らせながらリージスを繰りかえし、まとめて殺していく。蜂より知恵がある蜂人は、少し遠巻きにしながら、様子をうかがっている。オリバーもトナカイに乗り、すぐさまその蜂人にナイフを投げつける。
そんなオリバーに蜂人も気づき、軽々と身をかわす。それどころか湖に六本足を突っ込み、殺したアッタケエビの体をブンブン投げてくる。体重五十キロを超すエビが高速で飛んできて、兵士達はバタバタ倒れ、住民達は悲鳴をあげて逃げていく。オリバーはエビをよけながら、ゾエに教わったとおり、必死でナイフを投げつづける。蜂人は笑いながらナイフをかわし、挑発し、オリバーの前でくるくる回転してみせる。
「ど、どうして。どうしてここに蜂が」
ロイは地面にへたり込み、近くの植えこみに隠れる。そこへ、いきなりエビの死体が投げつけられる。
「あったかいから集まってきたんだろ!」
トナカイで駆けながら接近したオリバーが、ロイを怒鳴りつける。
「で、でも僕には無理だ」
「バカ! お前もやれ!」
オリバーがセカラウールまみれになったイーヨをロイに投げる。さらに、蜂人にはナイフを投げつける。ようやく、蜂人の額にヒットする。
「だ、だって。イーヨは寒いと割れちゃ……」
ロイは地面に落下する蜂人を見ながら、イーヨを抱きしめて震える。
「だから! ここは寒くないだろ!」
オリバーは襲ってきた二匹の蜂の毒針をよけ、ナイフを投げる。が、バランスを崩し、トナカイから落ちてしまった。そこに、一人の蜂人が猛スピードで接近する。
「あ、そうか」
ロイは我にかえった。それからセカラウールを猛然とはぎ取り、ストラップを肩にかけ、イーヨを弾きだす。オリバーを襲おうとしていた蜂人はビクンと体を震わせ、硬直したまま地面に落ちた。オリバーはそれを見て、ヌマグチから拡声器を引っぱり出すと、近くの住民に握らせた。
「おい。これを、あいつの楽器にあててくれ」
住民は訳が分からないまま、拡声器をイーヨにあてがう。
大音量の「アヌミラ人の踊り」が大気中を席巻した。飛びまわる蜂達はその音色につかまり、次々に降りおちていく。スカイは仰向けになったそれらを見て、弓を引いた。
「ラコロシュテ・プロロクテ・ピカ。ランダギア」
三十本の矢が飛びだし、仰向けの蜂達を次々に射殺する。スカイはランダギアを繰り返す。見ていた住民達も、鎌や槍を手に加勢する。劣勢になった蜂と蜂人は町の中心部から逃げだした。
「あと何匹」
スカイが弓を引きながら、オリバーに向かって叫ぶ。
「……六百五十二!」
オリバーは答えながら再びトナカイにまたがり、ナイフを投げる。
「オリバー、あいつら、山の方に逃げてくぞ」
スカイがビシッと指さす。
「ちょうどいい。スカイ、山に追い込もう。ロイはそこで弾きつづけろ。ジャッキーをデカくしてやれ」
「分かった」
ロイは駆けていく二人を目だけで見送る。
「ジャッキー、ロイとみんなを守れ。頼んだぞ」
スカイの声がけにジャッキーはピイイと鳴いて答える。ロイは拡声器をどかしてもらい、小さな音で「ドワーフの休日」をジャッキーの前で、高速で逆弾きする。ジャッキーはむくむくと大きくなり、空に飛翔した。突如、現れた巨鳥に住民達はまた悲鳴をあげる。ジャッキーは狙いをつけ、湖から這いだしてくる蜂達を、嘴で突き殺していく。スカイはそれを見届けると、正面の蜂の集団めがけて駆けていった。




