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全滅まであと何日  作者: taki
第5章〜アイスノウ大陸編〜
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86.新技

 翌朝、ふぶきは落ち着いたので、スカイは外へ弓の練習へ出かけた。丘の斜面はトウヒの小さな林になっていたので、木の幹を的代わりにして射つづけた。寒くて手がかじかんだが、不思議と頭はさえた。ロイとオリバーはスカイのすぐわきで雪の上に座り、矢の行方を追った。


「すげえな、今度の技は。速すぎ」

 ロイが思わずつぶやく。

「なかなか難しいよ。ロイもイーヨの練習、したら」

 スカイは矢から目を離さず言う。

「バーカ、こんなところに楽器を出せるわけないだろ」

「どうして」

 スカイは弓を下ろす。

「あんまり寒いと木がひび割れるだろ。僕の大事なイーヨはこうしてある」

 そう言って、ロイはセカラウールでぐるぐる巻きにされたイーヨを見せる。

「えー。じゃあここではイーヨ、弾かないの」

「弾く必要もないだろ」

「どうして」

「だって、キリトナの肉屋が言ってたけど、この大陸、蜂がいないらしいぞ」

「あー……。そうか。虫って寒いとこにはいないもんな」

 スカイは納得する。が、オリバーは用心して顎に手を当てる。

「だが、蜂人はどうだろう。あいつら、半分は人間だろ」

「……言っちゃうと、ルークは確かに、冬は本当に家にこもりきりだった」

 スカイがためらいながら言い、弓をまた構える。オリバーは察して頷き、立ちあがる。

「そうか。寒いのが苦手なのは確かみたいだな。ロイ、ちょっとあっち、行ってよう。じゃあスカイ、またあとでな」


 ロイとオリバーがいなくなり、スカイは練習に没頭することにした。新技「リージス」の練習は、奇妙な体験の連続だった。技がキマらないときほど矢の動きを速く感じ、キマッたときほど遅く感じた。弓と「遊んで」いるときほど時間が経つのが早く、「勉強して」いるときほど時間が経つのが遅い、ルビテナ村での学校生活にリンクして、なんだか面白かった。


 当初は幹を貫通して少しだけ矢尻が飛び出す程度だった。だが、練習するほどにじりじりと飛び出した部分が長くなった。体の疲れ方も半端なかったが、それでもこの締め上げるような寒さが自分へ喝を入れた。


 練習はそれなりにはかどった。そのなかで、時間という概念を、自分という人間が支配しつつあるようにも感じられた。その薄気味悪さに、快感を覚えた。だが、自分がどんどん遠いところへ向かっていくような気がして、ワクワクするのと同時に、焦燥感も大きくなった。輪郭がつかめない怪物になっていくようで、怖くもあった。ロイもオリバーもいつも一緒にいるから寂しさはないはずなのに、この不安を理解してもらえるとは思えなかった。そういう意味で、スカイは孤独だった。


 一方、ロイとオリバーはスカイの練習の邪魔をしないよう、村のまわりを見学することにした。オリバーはトナカイの放飼場(ほうしじょう)を見て、首を傾げた。

「また、減ってる」

「は?」

 ロイは眉を寄せる。

「ここに来たとき、確か千三百二十一頭だった。でも、今は千三百十九頭だ」

 囲いのなかをうろうろするトナカイ達を見て、オリバーは首を左、右と交互に傾けるが、そんなオリバーを見てロイも首を左、右へと傾ける。

「マジで変態だな、お前。見たまんまでカウントできちゃうのかよ」

 オリバーのカメラアイぶりにいまだ慣れないロイはため息をつく。

「うん。どうした。いたじゃないか、太ってて体格いいのが、二頭」

「知らねえよ。嫁にでもいったんじゃないの」

「実際、そうかもな。たぶん、どっちもメスだ」

 そこでロイがくしゃみした。またしても鼻水がバリンと凍りついたのを見て、さらにロイの着ているコートに目が止まって、オリバーが指をさす。

「ロイ。それ、ずいぶんでかい穴、空いてんな」

「えー。オリバーこそ」

 二人は互いのコートをしばらく見てから、スノードームに戻った。


「コート?」

 宿主の老婆は不思議そうにオリバーの持つコートを見る。それは過去に、ツェルビアのスピリトーゴ男爵にもらったものだ。

「ああ。ずいぶん穴だらけになってしまって。あんたらが着てるのみたいな立派なやつが欲しい。三人分、つくってもらうことはできないか」

 オリバーはそう頼み、コートを見せる。温度と湿度の高いジャングリラ大陸にいたせいで、コートはどれも虫食いだらけだ。

「仕立てるにしても、材料がないといけないね」

 老婆が突き放すように言うのに、オリバーは食いさがり、ヌマグチを開ける。

「これで作れないかな」

 ヌマグチからずるずると引き出したのは、セカラウールの余りだ。

「三人分だろ? これだけじゃ足んないよ」

 言われて、オリバーは腕を組んで思案する。

「あまっているトナカイの毛皮はないのか」

「んー、そうだねえ」もったいつけながら老婆は目を細める。「じゃあ、こうしようじゃないか。今夜の夕食はトナカイにする。うちの孫が指定する三頭を、あんたの友達が弓で仕留めてくれたら、予備の毛皮のコートをくれてやるよ」


 老婆の試すような口ぶりに、オリバーとロイは顔を見合わせる。それから互いに頷きあう。

「そういうことなら」

 ロイとオリバーが外に出ていったので、老婆は孫娘に目配せした。孫娘もロイ達の後を追った。


 ロイとオリバーは屋外でスカイを探した。あたりは何もない雪原なので、すぐに見つかった。練習場所を変えたらしく、丘の頂上に立ち、なにごとかつぶやきながら何度も弓を引いている。オリバーがいきさつを話すと、スカイは快諾した。

「木ばっかりだとつまんなくて、動物を射止めたかったんだ。ちょうどいいや」

「どれでも好きなものを狙っていいわけではないよ」

 冷ややかな調子で言ったのは老婆の孫娘だ。ロイの通訳を聞きながら、スカイは丘の上から放飼場を見おろす。

「あれと、あれと、あれだよ」

 娘は的確に個体を指をさしていく。ロイにはどれも同じに見えたが、目のいいスカイは正確に把握する。

「少し、年取ってる感じのやつだね」

「そうだよ。若い個体はだめ」

 娘が腰に手を当て、油断のない目つきでスカイを見る。スカイは弓の弦に矢をつがえ、目標の個体に照準を合わせる。ちょうどそのタイミングで、スカイ側から見て、三個体が縦に並んだ。


「ラコロシュテ・プロロクテ・ピカ。リージス」

 スカイが矢を放った。ロイはその真横で、かつて見たことがないほどの神速で矢が飛びぬけるのを見て、鳥肌が立った。しかも、その矢は速いだけじゃない。尋常ではないパワー、エネルギーを感じた。矢はトナカイの体を一頭、二頭、三頭とぶちぬいた。

「へえ。腕は確かなんだ」

 娘はそれだけ言い、倒れたトナカイのもとへ駆けていった。


 翌朝、老婆はトナカイの毛皮のコートを三着、スカイ達の前に差しだした。

「ほれ。約束のやつ」

「ありがとう。すっごくあったかいね」

 スカイは早速着てみて、その暖かさに感動する。老婆はその様子を無表情で見る。

「…望まれた者だけが辿りつける」

「え?」

 スカイはきょとんとする。

「いいや、別に。それで、ひとつ、あんたの腕を見こんで頼みがあるんだけど」

「何?」

 老婆は細い目を少し大きく開き、意味深に笑った。

「シーサルミ王国に、おつかいに行ってきてほしいのさ」

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