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全滅まであと何日  作者: taki
第5章〜アイスノウ大陸編〜
83/91

83.国一番の時計技師

 翌朝はよく晴れ、スカイ達は時計台を再訪した。

 オリバーはあくびして、目をこすった。前の晩に少し書き物をして眠かった。が、気持ちは充実していた。最近いじっていなかった時計をいじれるのは、無上の喜びだった。

 オリバーは狭い部屋のなかにある、大きな歯車をひとつひとつ、チェックして見てまわった。時計そのものはまだ新しく、老朽化している様子はない。だが、ほこりがうっすらつもり、まずは清掃することにした。そこへ、町長が腕っぷしのいい男二人組を連れてきた。

「この二人が時計係だ」

 町長が紹介すると、オリバーは二人を睨みつけた。

「ちゃんとメンテナンスはしていたのか」

「三日に一回、俺達が巻きあげにきてたけど、ある日突然、動かなくなったんだ。メンテナンスって何だ」

「あのな。それすらやってなかったら、壊れて当然だ」

 オリバーは呆れて、まずは掃除するぞと、二人組に刷毛を手渡した。三人でその刷毛で丹念にほこりを取りのぞいたあと、あちこちネジの緩みも直した。それから、歯車の表面で固まった油を、木の棒で優しく、丁寧に削ぎ落とした。それから刷毛にホウマンアザラシの脂をつけ、慎重に塗った。

 オリバーのチェックがすべて終わり、時計係の二人が機械室の専用ハンドルを回した。硬直していた歯車は、ゆっくりと動き出した。


 一方、スカイとロイは時計台の外にいた。オリバーに教わったとおり、ロイが方位磁針を取りだし、木の棒で十字を描き、それぞれ東西南北の略称を書き込んだ。そこへ、スカイがその十字の中心に棒を突きさした。即席の日時計だ。棒が日光に照らされ、影を落としている。

「スカイ。影はどの方角にある」

 時計台の機械室の窓から、オリバーが声をかける。

「北と西の間だよ」

 スカイが窓に向かって叫ぶ。

「北と西の真ん中か?」

「ううん。かなり北寄り」

「オーケー。真北にきたら合図しろ」

「分かった」

 影は東からのぼる太陽光と反対方向に位置する。日の出の時間帯は真西にある。それが時間をかけて北を経由し、日没時には東へ移動する。スカイが言うには北北西のようだから、今はまだ午前中だ。かなり北に近づいているなら、十一時半とか、十一時四十五分くらいだろうか。

 オリバーは時計係の一人を窓の外に出した。そこはちょっとした狭い足場があり、時計の文字盤をいじることができる。長針を直接もたせ、十一時半のところでいったん、ストップさせた。


 やがて、棒の影が短くなり、真北をさした。

「真北にきたよ!」

 スカイが叫ぶと、オリバーは頷く。

「今が十二時だ」

 文字盤の前で待機してた時計係が、長針を直接手に取り、真上の位置に合わせた。それから間もなく、鐘が鳴り出した。


 町中に正午の鐘が鳴りひびき、通行人達が足をとめた。

「おい、時計だ」

「動いてる」

「本当だ」

 道ゆく住民達が時計台に集まり、時計を見上げた。金属質な音が十二回鳴り響いた後、皆は歓声を上げ、拍手喝采した。


 町長が時計係達を連れてオリバーの手を握りしめ、深く頭をさげた。

「ありがとう。何か礼をさせてくれ」

「だったら青菜の花の咲いてるところを教えてよ」

 すかさずスカイが突っこみを入れる。

「礼よりもまず、もっと温度管理と湿度管理をちゃんとやれ。そうしないと本当に壊れるぞ」

 オリバーはそう言って、三つの壺を並べた。肉屋に借りてきた壺だ。

「いいか。それぞれ脂の状態を見て管理するんだ。ホウマンアザラシの脂は寒さに耐性があるからこれをメインに使え。ヤワライチョウの脂、これが溶けたらまあまあ暑い日だ。テラバイソンの脂、これが溶けたらかなり暑い日だ。季節に応じて使い分けろ。固まったら木の棒で優しくこそげとる。ネジがゆるんだら締める。細かいことはこのノートに書いてある」

オリバーの立派な講釈に、隣で聞いていたロイはうんざりした。

「ここの人はグリフィダ文字で書いた記録なんか読めないよ」

「文字はひとつも書いてない」

オリバーが偉そうに言うので、ロイは呆れてそれを開くと、二度呆れた。オリバーは全ての説明を詳細なイラストで図解していた。

「ありがとう、これなら分かるよ」

時計係達は感動してページをめくりつづける。

「チュルキー族なら青菜の花の場所を知っているかもしれん。私の知っている限り、フィルエーの土地を熟知している者達だ。チュルキー村に送り届けてやろう」

 町長はそう言って、犬ぞりの御者を呼びつけにいかせた。


 その頃、キルトナの町から数百キロ、北東に位置する雪原では、女王蜂のレオノーラが三度目の産卵を試みていた。

 辿りついたこの地は謎に満ちている。一見、生まれ故郷と違ってどこまでも静かで、平和そのものに見える。だが、絶対に平和じゃないと、レオノーラは確信していた。連れてきた蜂の兵士は寒さに耐えきれず、凍死してしまった。残ったのは蜂人の部下二人と、自分だけだ。今度こそ、産卵を成功させたい。

 レオノーラは歯を食いしばった。

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