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全滅まであと何日  作者: taki
第5章〜アイスノウ大陸編〜
82/91

82.ホウマンアザラシの脂

 ロイがハゲ男を問いただしたあと、スカイ達は宿に戻った。

「あのハゲ、町長だったんだな。青菜の花のことも知らないって言うし、とどめ、刺しちゃえばよかったのに」

 ロイは憎々しく思いながら、暖炉に(たきぎ)を足す。

「だめだよ」

 スカイはそう言って、薪を火かき棒でつつき、水を張った鍋を置く。

「時計をつくるなんて小難しいこと、できそうな奴らに見えないけどな」

 ロイが受けた仕打ちを思い出し、小馬鹿にして言う。そこへ、オリバーが一冊の本をヌマグチから取りだして見せる。

「この『アイスノウ大陸冒険記』にも記載があったが、もともとのフィルエー人は内陸に住む、狩猟民族だったんだ。こんな寒いところだと作物も育たないだろ。狩りをして、つつましく暮らしていたんだ。だが、町長の話によると、ここ数年、ゲルニエ人が鉄鉱石を目当てに乗りこんできたわけだ」

「ゲルニエってどこにでも沸いてくんだな。迷惑な連中だ」

 ロイは顔をしかめる。

「だな。ゲルニエは軍事大国だし、鉄砲をつくるのに鉄が欲しかったんだろ。それで上手いこと言って、フィルエー人を鉄鉱山で働かせた。道も舗装して、時計台もつくって、文化的な町をつくった。でも、ゲルニエ人は鉄を採りつくしたから帰っていった。せっかく便利な暮らしになったのに、時計が壊れても直せる奴がいない。鉄鉱石ももうほとんどなくて、仕事が減って不景気になって。まあ、そんなとこだな」

「だから、ここの人間は外国人を恨んでるんだね。オリバー、直してあげられないの?」

 スカイは温めた湯をカップに注ぎ、オリバーとロイに持たせる。するとロイがそのお湯を飲み、ニヤリと笑う。

「できるよな。グリフィダ王国が誇る国一番の時計技師、オリバー大先生なら」

「多分な」

オリバーは真顔で答えた。


 翌朝、スカイ達は時計台の前に集合した。そこへハゲの町長もやってきて、腕っぷしのいい男を二人連れ、二階の機械室へ案内した。話によれば通常、一時間おきに鳴るはずだった。だが、鳴るどころか、時計そのものがまったく動いていなかった。


「この時計の仕組みはロクレンにあった時計台と大差ない。だが、問題はグリスだ」

 オリバーが注意深く、大きな歯車を見つめて言う。付着して固まっているのは、牛脂だ。

「グリスって何?」

 スカイが質問する。

「歯車に塗る潤滑油のことだよ。そのグリスが固くなってる。だけどこの土地柄じゃ無理もない。寒すぎるし」

「寒いところでも動くグリスがあれば解決できるんだね」

「そういうことだ。何か代用品があればな。町長。ここらへんでは(くじら)の脂は入手できないのか」

「鯨……。もっと北にいけば手に入るかもしれないが、この漁場では無理だ」

「そうか。なら、代わりになるものを探しに行こう」

 オリバーは腰に手をあて、首をぐるっと回した。


 スカイ達はひとまず、町の周辺を探索することにした。一帯に生えている植物を観察したが、主にイネ科の植物の枯れ野になっており、使えそうなものは見あたらない。

「ねえ、マツヤニはどうかな」

スカイが近くに生えているマツを指さす。

「やめたほうがいい。粘度が高すぎる」

「ルビテナだと、油はみんな菜種油を使うけど、そういうのはどうなの」

スカイがまた提案するが、オリバーは首を横に振る。

「それもダメだ。あったとしても傷みが早いだろうし」

 今度は町なかに戻り、それぞれの店を見てまわった。歩いているうちに、雪がちらつき、そろって身震いした。

「寒い。僕、お腹すいたよ」

 ロイがそう言ったとき、肉屋の店主が声をかけた。


「よう、お前ら。よそ者だな。どこから来た」

 ロイが店主の腕に触れ、フィルエー語で答えると、店主は眉をひそめる。

「ああん? グリフィダ? ヨルシア? 知らねえ土地だな。そんなところから何しにきた」

 ロイが観察する限り、店主はほかの住民よりはお人好しな感じがする。暴力性もなさそうだ。

「青い菜の花を探しにきたんだよ。蜂を退治するために」

「蜂退治? 何だあ、それは」

「えっ。ここに蜂は出ないの?」

 ロイが目をぱちくりさせると、店主は狐につまれたような顔をする。

「熊やトナカイは腐るほどいるけどな。化け物か何かか? おい、お前ら金持ってんなら買ってけ。いいホウマンアザラシの肉がある」

 店主は店の天井に吊るした肉塊を包丁で指す。

「へえー、それって美味しいの?」

 好奇の目を向けてスカイが言うと、ロイが通訳し、店主は機嫌よく笑う。

「美味いぞ。肉を買ってくれたら、特別サービスで調理もしてやる」

 スカイがグリフィダ金貨を差しだすと、店主は目を丸くする。

「おお。綺麗なコインだな。これがお前らんとこのカネか?」

「うん」

「よし、それでいい。まいど」


 金貨を手にした店主は口笛を吹き、すぐそばの調理台で肉を切り出した。店主が料理している間、三人はそのかまどの前で暖をとった。ふと、スカイは調理台のすみに並ぶ小さな壺を見た。一つは白っぽいバターのようなもので、硬そうだ。その隣には黄色いブヨブヨしたものが入っていて、少しとろけている。さらに隣の壺には、さらさらした灰色の水のようなものが入っている。

「ねえ、これ、何?」

 スカイがロイを介し、店主に尋ねる。

「調理油だ」

「ほう。それぞれ何の油だ」

 今度はオリバーが喰らいつく。

「その白いのがテラバイソンの(あぶら)。コクがあって美味い。黄色いのはヤワライチョウの脂。これもなかなか旨みが強い。灰色のはホウマンアザラシの脂だ。アザラシの脂はな、食うと体があったまるんだぞ」

 そう言って、店主は焼けた肉にアザラシの脂を回しかける。

「泥水かと思った」

 ロイは下卑た笑いを浮かべるが、オリバーはぴくりとも笑わない。それどころか真剣な目をして、脂を凝視する。

「おい、親父。これ、少し分けてくれ」

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