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全滅まであと何日  作者: taki
第一章〜ルビテナ村編〜
27/79

27.ロクレン脱出

 翌朝、スカイ達は早起きした。宿屋を出て武器屋に向かうと、馬を二頭繋いだほろ馬車が待機していた。武器屋の店主が弓矢を何束も積んでいて、こちらを見て手を振った。

「おはようガルシア。もうこれで完了だ」

「おう」

 ガルシアは腰に手をあて、満足して頷く。店主はスカイが手にもつ短弓をしげしげと見つめた。

「それ。ガルシアがつくった弓か?」

「そうだ」

 横からガルシアが答えると、店主はため息をついた。

「使いすぎ。つる、張り直してやるから貸してみろ」

 店主は弓をスカイから受け取ると、弓から弦を外した。さらに弓の上端を店の壁にかけ、下端を自分の膝に引っかけて少しそらせると、器用に弦の張りなおしを始めた。


「よし。できた」

 店主が弓を張りおえ、スカイに持たせた。

「わあ、ありがとう」

 それから、ガルシアの手にシルクの布を手渡した。

「これも持ってけ」

「なんだこれ」

「俺のとっておきの布。磨くと弓が綺麗になるぞ。サービスだ」

「おお、ありがとさん。じゃあ、またな」

 スカイ達が馬車に乗りこみ、御者が馬達の尻を鞭で叩き、馬が歩きだした。スカイは揺れる座席から後ろを振りかえると、店主が手を振り、店の中に引っこむのが見えた。今度は前方を見た。少し先に、ゴールドスミス時計店が見えてきた。オリバーが店の前に立ち、箒で路上を掃いていた。

「オリバー、おはよう。またね」

 スカイがオリバーに手を振ると、オリバーも無表情なまま手を振りかえした。オリバーの前を馬車がゆっくりすれ違う手前で、ロイも手を振ろうとしたが、急にキョロキョロし始めた。

「あの音、何だ」

「何が?」

 スカイが尋ねると、ロイは目を閉じた。

「あっちの方角から、何か来る」

 ロイは背後を指した。すると突然、ジャッキーも羽ばたき、急に威嚇(いかく)し始めた。

「なんだ?」

 スカイも耳に意識を集中した。聞くだけでも鳥肌が立つ、あの重低音が、耳の中で徐々にふくれあがってくる。幌の後部から顔だけ出してみた。ざっと数百匹のヤバネスズメバチが、青空を黒く染めていた。


「ヤバネだ!」

 スカイが叫ぶやいなや、ガルシアが真っ先に弓を引いた。ロイは怯えてスカイの背中にしがみついた。御者は驚き、馬の尻を激しく鞭打った。

 町の鐘塔(しょうとう)で鐘が鳴りひびき、町民達は悲鳴をあげて逃げまどった。先頭を飛ぶ個体がガルシアの矢に射抜かれ、路上に落下したが、その後も別個体が続々と突っこんでくる。スカイもすぐさま弓を握り、矢をつがえた。後続の、特に大きいヤバネスズメバチの額にスカイは照準を定め、矢を放った。ギリギリのところで、惜しくもよけられてしまった。

「すごい」

 スカイはそれでもつぶやいた。店主が弦を張りかえてくれたおかげで、矢の飛距離が増している。弾力に富んだ弦はすこぶる調子がいい。だが、それ以上に蜂達の動きが速い。気のせいだろうか。いや、気のせいなんかじゃない。ルビテナに出現した蜂達よりも戦闘能力が高いと、スカイは本能的に察知した。

 スカイは再び狙いを定めた。するとジャッキーが飛び出して、蜂の複眼をつついた。ジャッキーが素早く遠ざかり、蜂がよろけた隙を見計らって、スカイは額を射抜いた。


 ジャッキーが馬車に舞いもどると、今度は別の蜂がスピードを上げて接近した。狙いは馬車ではない。道端の、縦積みした木箱だ。スカイはその木箱の方を見た。オリバーがその陰に隠れ、震えていた。

「嘘だろ。ねえ、馬車を止めて! オリバー!」

「なんだと」

 スカイが叫ぶと、御者は仰天してハーネスを引いた。馬はいななき、すぐには止まらなかった。オリバーは真っ青な顔で、馬車めがけて飛びだしてきた。ガルシアも馬車を飛びおりた。オリバーの背を狙った蜂が、毒針を突きだしながら急行した。

 針先があと三メートルという距離で、ガルシアがロングボウを構え、オリバーのもとに駆けつけた。するとその蜂は急停止し、その場でホバリングした。

「そうか……」

 スカイはその光景をすぐに理解した。まだ、自分達にはしろがね蜜の効き目が残っているのだ。ガルシアは目前の個体をすぐさま射殺した。馬車が減速し、ようやく停車した。

「ガルシアさん! オリバー! 早く乗って!」

 スカイは無茶苦茶に手を振った。駆けよってきたオリバーにすぐさま手を伸ばし、その手を掴むと、体を馬車上に引きあげた。ガルシアもそれに続いて乗りこんだ。蜂達は次々に町民達に襲いかかり、また別の一団がこちらに向かって飛んでくる。とても相手にできる数ではない。

「馬車、早く出して! マデッサへ!」

 スカイが言うと、御者はこれ以上ないほど強く、馬の尻を叩いた。馬車はスピードを上げ、全速力でロクレンの町から逃亡した。


 その頃、ルビテナ村の上空では、穏やかな春の陽が燦々(さんさん)と注いでいた。アイリーンとサム、それに作業人夫(にんぷ)達がルビテナ山に入り、野生のオオルリミツバチの捕獲を試みていた。前日は巣が見つけられなかったが、サムがとうとう見つけたのだ。

「見て。すごい蜂球(ほうきゅう)だ」

 サムがルビテナメープルの大木を指さした。大きな枝に、まるで灰色のコブが垂れさがっているように見えるそれこそ、オオルリミツバチの大群だ。およそ五千匹の大群に人夫達は怯え、何人かが近くの洞穴に逃げこもうとした。

「騒ぐんじゃないよ。それにそんなとこ、入ってみな。子育て中のクマに出くわすかもしれないよ」

 アイリーンが低い声で叱りつけると、人夫達は洞穴から戻り、サムのそばで大人しく待機した。アイリーンは蜂球に目を戻し、作業しやすい位置を確認した。それから落ち着きはらい、()のついた網をじりじりと蜂球に近づけた。

「大丈夫さ。刺されやしない」


 その洞穴は、奥へ奥へと続いていた。

 途中で何度も枝分かれして、別の出口へ通じていたり、さらに奥深いところへ通じているそこは、さながら地下迷路のようだ。トンネル内を数キロ進んだ先には、天井の高い大空間が広がっている。その空間を利用して、石造りの地下室がいくつもつくられていて、ヤバネスズメバチが数十匹、低空飛行しながら往来していた。


 小部屋で意識をとり戻したエミリーは、上体を起こした。もがれた羽と中足は部屋の隅に転がり、新しい中足がようやく再生しつつあるところだった。部下達からの、屈辱的な折檻は終わった。一刻も早く、名誉挽回しなければ。エミリーはよろよろと立ち上がり、小部屋を出た。

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