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全滅まであと何日  作者: taki
第一章〜ルビテナ村編〜
25/79

25.ロクレンの町

 王宮の玉座では、しろがね蜜の瓶を手にした国王と王妃が、満ち足りた笑顔を浮かべていた。

「でかした。だが、何やら去年よりサラサラしておるな」

「あら、本当ね。だけど香りはずっといいわ」

 王妃も不思議がった。そこへ、従者が入室した。

「失礼いたします。ミラー伯より報告がございます」

「スチュアート(きょう)がどうした」

「はっ。例の、ルビー・イエテナ領の状況ですが。何やら、巨大な人食い蜂が出たと…」

「人食い蜂? 何だそれは」

 国王は眉間にシワを寄せた。

「はあ、その蜂が領民を食い荒らした結果、人口二千余人のところ、現状は三十人程度になってしまったとのことです」

「誠か、それは」

「はっ。領主は今後の養蜂のためにも移住者を募ってほしいと申しています。いかがいたしましょう」

「んー。まあよい。手配いたせ」

「ははっ」

 従者は素早く退室した。


「何ですの、人食い蜂って」

 王妃は、出口の方を見てつぶやいた。

「んー。実際は自然災害か何かではないか。年中、蜂と関わりすぎて、ココがイカれたのかもしれん」

 国王が自分の頭を指差した。

「んまあ、嫌ですわ。これだから田舎者は」

 国王と王妃は激しく笑い合った。


 その頃、マデッサの街の楽器屋では、店主が惚れ惚れしながら、アイリーンのハープを手に取った。

「こりゃ驚いた。ルビテナメープルとは」

「何それ」

 ロイは口を尖らす。

「ロイ。君の親父さんに聞いてみれば同じ反応をするよ。昔からルビテナメープルの楽器は宮廷音楽家から愛されてきた。バイオリニストからも、チェリストからも、ピアニストからも。素晴らしい材質なのさ。音の響き、持続力が段違いにいい。是非直してやりたいんだが──」

「だが?」

 スカイが言葉を継ぐ。

「こうなると修理は難しい。イチから作り直した方がいい。だがあいにく、貴重な木材だからね、市場にもなかなか出回っていないんだ」

 そう言って、店主は店にある別のハープを弾く。スカイはその音色も綺麗だと思ったが、やはりアイリーンのとは違うと思った。


「じゃあ、今度持ってくるよ」

 ガルシアがこともなげに言うと、店主は目を見開く。

「なんだって?」

「ルビテナメープルがあればいいんだろ」

「まあ、そうだけど…」

「我が村、ルビテナ村の裏にいくらでも生えてる」

 店主は今度は、眼球が飛び出さんばかりに突き出す。

「なんとまあ、ルビテナ族かい、あんたら」

「ああ」

「そうかあ。いや、これまた驚いた。そういうことなら待ってるよ、うん」

 店主は心から歓迎する。

「おい、それより僕のイーヨを先に直せよ」

「ああ。こっちも弓毛(ゆみげ)は再利用できるけど、スティック部分が真ん中で折れちゃってるから総取り替えだ。三ゴールドあれば、明日の午後にはできる」

「三ゴールドだって?」

 ロイは真っ青になる。

「家に帰って、お金をもらっておいで」

「無理だ。そんな大金」

 ロイは目に涙を溜め、わなわな震える。

「貴族なのに三ゴールドも出せないのか」

 ガルシアが意外そうに尋ねると、ロイはきっと睨みつける。

「僕は、貴族じゃない」


 そのとき、勢いよくドアが開いた。入ってきたのは金髪の少年だった。ロイと似たような服装だがそれよりも背が高く、ベストの色は紺色だ。

「兄上」

「ロイ。お前もきてたのか。店主、注文した楽譜をとりにきた」

「やあ、アイザック。待ってたよ。全部で六ゴールドだ」

「オーケー」

 ロイの兄、アイザックは小さな皮袋から金貨を出す。

「なあ、ロイの分も払ってやれないか? イーヨの弓が壊れちゃったんだ。三ゴールドなんだが…」

 店主が頼み込むと、アイザックはみるみるうちに意地悪い顔になった。

「僕が? こいつのために? どうして?」

「金、持ってないんだ。君の弟だろ。頼むよ」

 店主がせがむ一方、ロイは下を向いて黙り込んでいる。

「ハハハ。弟? こいつが? おい、ロイ。だったら城主様の前でせいぜい『良い』演奏してみろ。そんな、どこの部族のものだか知らない民族楽器でな。はっきり言ってお前は我がハーパー家の面汚しだ。チェリストの父上も、バイオリニストの僕も、迷惑してる。所詮、お前は妾の子だ。父上が寛大だからこそ、死んだお前の母親のことも囲ってやったし、お前に衣食住を与えてやってる。金くらい、自分でどうにかしろ。じゃあな店主、またな」

「ああ…」

 笑いながら店を出るアイザックを、店主が見送った。スカイはちらりとロイを見た。目に涙をためている。


「ほお。一家揃って城主に仕えてるから、そんなナリなんだな」

 ガルシアが急に朗らかに話しかけたので、ロイはきっと睨みつける。

「そうだ。お前らみたいなみっともない格好で、御前に立てるわけがないだろ」

「ハッハッハ。小僧。だが、財布の中は空っぽときた」

 ガルシアが笑い飛ばすと、スカイが布袋をガサガサ漁り出す。

「ねえ、おじさん。これでイーヨの分も払いたい。俺のハープの前金も一緒に」

「おい、スカイ。それは」

 ガルシアがたしなめるも、店主は不思議そうにその小瓶を見つめる。

「これは?」

「しろがね蜜さ。ひとくち、どうぞ」

 スカイが持ってきた小さじにすくって店主に差し出すと、店主はそれをなめとり、顔色を変えた。


 午後の日差しが黄みを帯びる頃、スカイとガルシアとジャッキー、それにロイはマデッサの街を出て、街道をまっすぐ北上した。ふくれっ面で隣を歩くロイを、スカイはまじまじと見つめた。

「なんでお前もついてくるんだよ」

「お前じゃなくて、ロイ様だ」

「ロイ。俺の弓、持ってくれなくていいよ」

「うるさい」

「じき、日が沈むぞ。帰れ」

「ミケールに言っといたから大丈夫」

「ミケール? お前いくつだ。家族が心配するだろ」

「十三!」

「ええ?」

 スカイとロイが問答を繰り返していると、ガルシアがじろりとスカイを見た。

「スカイ、勝手にしろがね蜜を出したらダメだぞ。他の商店主も集まってきて、大変な騒ぎになっちまった」

「でも、おかげで楽器、つくってもらえることになったじゃん。ロイの弓も」

 スカイがにっこり笑うと、ガルシアは一層顔をしかめ、指をさした。

「ほら、あの谷間の集落。ロクレンの町だ」


 三人は谷底へ続く道を下り、町へ入った。マデッサよりずっと小さな町だが、あちこちでトンカチを叩く音や、何かを切り出す音が聞こえ、活気があった。

「相変わらずやかましい町だ」

 ロイがボソリとつぶやくのを無視して、ガルシアはどんどん町の中心部へ向かう。スカイは次々現れる商店の看板を拾い読みした。石屋、鍛冶屋、材木屋、ガラス屋と、ルビテナでもマデッサでも見たことのない店ばかりだ。道ゆく人間達も少し独特だった。マデッサでは多種多様な民族が入り乱れていたが、ここは男女ともに髪は明るい茶色で短く、肌は色白で面長な者が多い。


 ガルシアはまず、武器屋に入った。売り場には弓矢や剣や槍、ナイフ、盾、その他防具類が並び、ガルシアは丁寧に物色した。スカイは槍を勝手に持ち、ロイを突き刺す真似をした。ロイは剣をぶん回して応戦した。すると店主が出てきて、二人まとめてゲンコツした。

「やめろ、ガキども。やあ、ガルシア。久しぶりだな」

「おお。商売のほうはどうだ」

「相変わらずさ。こんな平和な世の中だろ。新型の武器もろくに売れやしない。この頃は貴族の間で決闘がはやってるから、それ用の剣を買ってもらってる。それで食いつないでる」

「そうか。じゃあ俺はこの最新式の弓と、矢を五百本、買っていこう」

 ガルシアはあえて蜂のことは言わず、金貨の入った袋をガシャンと置いた。

「五百!?」

 店主は素っ頓狂な声を出した。

「訓練に使うんだ」

「そうか。…うちは大助かりだけど、持ち帰れるか」

「明朝、店の前に馬車を手配してくれるか」

「お安い御用だ。弓も矢も積んで待たせておくよ」

「頼む。じゃあまた明日な」

 ガルシアがそう言って皆で店を出ると、スカイがバンザイした。

「やったあ! 帰りは馬車に乗れるんだね」

「ああ。次は時計屋だ」


 三人は通りをさらに突き進んだ。

「あった。多分ここだ」

 ガルシアは「ゴールドスミス時計店」の看板を見つけ、ドアを開けた。

「どうも。ちょっと聞きたいんだが」

 ガルシアに続いてスカイとロイも店内に入った。スカイはその目新しさに目を奪われた。店内はこじんまりしているものの、大小さまざまな時計が壁にかけられたり、棚に置かれている。その時計達に埋めつくされるように、一人の少年がポツンと椅子に座っていた。


 その少年は見たところ、スカイよりいくつか歳上のようだ。本人は町人と同じく、髪は明るい茶色で短く、面長な顔をしている。肌は色白く顔は面長で、ほかと違うのは頬にそばかすがたっぷりあることと分厚いメガネをかけていること、それに目の色がバイオレットと同じく黄緑色であるものの、もっと暗く深い色をしていることだった。


「いらっしゃい」

 少年の挨拶はそっけない。

「お前、店の(もん)か?」

「ああ、オリバー・ゴールドスミス。店主だ」

「そうか。前にいたオヤジは?」

 ガルシアの問いかけに、オリバーは顔をこわばらせる。

「父は亡くなった」

「そうか。そりゃ、残念だ。この懐中時計の刻印。これ、お前の親父さんのもんだと思うんだけど」

 ガルシアが懐中時計の裏側をオリバーに見せると、オリバーの顔色がさっと青ざめる。

「これをどこで?」

 油断ない目つきでオリバーが尋ねると、ガルシアもシリアスな表情に切り替えた。

蜂人(ぼうと)、って知ってるか」

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