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全滅まであと何日  作者: taki
第一章〜ルビテナ村編〜
23/79

23.再興

日が完全に沈む手前、アカラ山脈の北側のホットン町では、道端で露天商の者達が店をたたんでいた。


「今日もルビテナの奴、来なかったな」

アカラ山脈を見上げながら、香料売りが頭を掻いた。

「困るよなー、うちも蜜蝋(みつろう)がなきゃ蝋燭(ろうそく)、作れねえのに」

蝋燭売りは隣で呻いた。

「な。俺は今日全部、売りきったからよ。たまには奮発して、おふくろに瑠璃蜜でも買って帰ろうと思ってたのによ」

一際図体のデカい、野菜売りが気だるそうに首を回したとき、一人の痩せた若者が近づいてきた。

「誰だ、あいつ」

蝋燭売りが眉根を寄せた。

「ホットン村の…、領主様の館はどこだ」

「ん? お前、ルビテナのもんか」

野菜売りが尋ねると、若者はフラフラしながら、野菜売りの両肩にしがみついた。

「そうだ。助けてくれ。ルビテナ村が今、大変なことになってる」

「ルビテナ村とは、ルビー・イエテナ領のことか」

その声に、四人の男達が振り向いた。そこには仕立てのいいマントを羽織った、銀髪男が馬にまたがり、従者を従え、こちらを見ていた。

「はい。さようでございます」

「その村が、どうしたと申す」

「は、蜂が。人喰い蜂が、出たのです」


スカイとサム、ガルシアはルビテナ神殿に戻った。スカイが捕まえたキジや、他の村人が持ってきた野菜をスープにして、夕食を済ませた。さらに、しろがね蜜も服用した。ナッシュビルは自宅から持ってきた蜂蜜酒を大人達に振るまったが、その横でバーバラはずっとしかめ面だった。屋敷にこもりたかったのに、ナッシュビルに、夜だけでも神殿で過ごそうと説得されたせいだ。


スカイはサムと一緒に裏口を出た。今夜も採蜜さいみつするためだ。巣籠から一斉に飛び立つオオルリミツバチを見送りつつ、サムがスカイの方を見た。

「ルークは?」

「今日、調子悪いから先に寝るって」

スカイが心配して言うと、サムが神妙に頷いた。

スカイは空を見上げた。前日と負けず劣らず、星明かりの夜は素晴らしかった。光り輝く星々に、その足元に、いつまでも身を預けたかった。


その頃、スペンサーは隠し通路を右往左往していた。モーガンが姿を消してしまったのだ。

何があった。いつ。どこで。自分と会った後にか。死体は見つかっていない。正直、外は死体だらけだし、見つけ出せそうにない。どこかに隠れているのか。蜂人にさらわれた可能性は。でも、だとしたら何のために。


懐中時計のことで、モーガンは最後にゼンマイを巻いたのはいつかと聞いた。答えは「一度も巻いていない」だ。モーガンに最後に会ったときはまだ、ルーシーから時計を奪って間もなかったから、巻く必要もなかった。だがあれからすでに、一日半は経過している。ルーシーが巻いた直後に奪ったとしても、すでに時計は止まっているはずだ。それが普通だ。なのにこの時計は自分の懐中時計よりも一層低く、カチカチと鳴り続けている。つまり、今も動き続けている。その低い音が、得体の知れない不気味さを増幅させた。


これは何を知らせる時計か。つくった時計技師を訪ね、調べる必要があるのか。でも、自分が今この村を離れるのはリスクが大きすぎないか。気にかかることが他にもある。これ以上の犠牲者はごめんだ。相談したい。今すぐ対処したい。スペンサーは焦燥感に駆られ、息を切らして探し回った。

「先生…!」


この日の夜間もスカイとガルシアが交代で警護をした。ヤバネスズメバチが訪れる気配はなく、オオルリミツバチは積極的に巣と山を往復し、無事に夜明けを迎えた。

「こう、連日連夜、採蜜されてんのにオオルリはちっとも暴れないじゃないか」

スカイが礼拝室で採蜜する姿を見て、アイリーンが疲れた顔の中に、ほんの少しの笑みを浮かべる。

「多分、スカイのことが大好きなんだろ」

サムも笑って軽口を叩いた。


朝になり、村人達はしろがね蜜を食べた後、死者を埋葬することにした。

ガルシアが荷役用の一輪車で運んできた石を墓に並べ、そこにスペンサーが一つ一つ、犠牲者の名前を刻んだ。身元不明の死体だらけだったが、思い出せる限り記した。そのたびに「安らかならんことを」と言葉を添え、祈りを捧げた。サムは家族の墓石にラッパ水仙をたむけた。スカイもそれを手伝い、黙祷した。


「たった三十一人か」

皆が埋葬する様子を見て、ナッシュビルはつぶやいた。いまだに信じられなかった。どうして自分の領地が。どんな理由でこんなことに。答えの出ない問いを、頭の中で繰り返した。

「ああ。二千人いた村人が、たったの三十一人だ」

いつの間にか隣に立つのはガルシアだ。ナッシュビルはガルシアを一瞥(いちべつ)した後、地面に視線を落とす。多量の血液を含んだ土が、悪臭を放っている。

「もう、村は終わりだ」

「そんなことない」

ガルシアは即否定した。

「たった三十一人で何ができる」

ナッシュビルが激昂して、全身を震わせた。叫び声に驚いた村人達が、こちらを見ている。一斉に見つめて腹立たしくなり、あたり構わず睨みつけた。皆は領主と目を合わせないようにして、作業を再開した。


「ここにはネガティブ思考なわりに、領民に酒を振るまう領主はいる」

ガルシアが腕を組み、力強く声を張った。ナッシュビルは目を見開く。

「それに、養蜂家と園芸農家、野菜農家、木こり、神官、なんと優秀な射手が二人もいる」

ガルシアは大笑いして、天を仰いだ。何人かの村人が顔を上げ、何ごとかと見つめた。サムはスカイの方に目配せして、少し笑った。

「雨風をしのぐ、神殿もある。薪も蜜蝋もあるし、毛布もある。水路はまだ生きてるし、近くに獲物もいる。オオルリミツバチも健在ときた」

「ガルシア。それもそうだが──」

「領主。俺達はまだ生きてる。全滅したわけじゃねえ。俺はこの数日間、皆の頑張りを見てきた。知恵を出し合い、化け物蜂と戦ってきた」


ナッシュビルはガルシアを見上げ、その生気に満ちた(まなこ)をとくと見た。この大男は、ここまできてどうして打ちひしがれることがなく、前向きでいられるのか。彼の凄惨な過去がそうさせるのか。それにしても──。

「俺はこれから一層、警護に力を入れる。全員、守ってやる。蜂の巣を見つけて、必ず全滅させてやる。だからあんたが諦めちゃダメだ。諦めなければ」ガルシアは拳を握りしめ、言葉を切った。「何だってできる」

領主はガルシアに圧倒された。自分よりも歳上の、この退役軍人の言葉の一つ一つに重みを感じた。それから周りを見回した。いつの間にか、村人達も手を止め、泣きながら頷いている。ガルシアは一人一人に向かって頷いたあとで、再びナッシュビルを見た。

「また村を再興しよう、領主」


その晩は最後の星明かりの夜となり、スカイはサムと巣籠を外に出した。相変わらずヤバネスズメバチの襲撃はなく、夜明け前には無事、採蜜に成功した。


「ねえ、先生はどうなったの」

朝になり、神殿の礼拝室を掃除するスペンサーに向かって、不安になったスカイが尋ねた。

「行方不明だ」

そばにいたアイリーンとルークはショックを受けた顔をするも、スカイだけは眉を釣り上げ、首を横に振った。

「探そうよ」

「何度も探した。でもいない」

「じゃあ、あの通路の中は」


そのとき、玄関扉をノックする音が響いた。

「扉を開けられよ」

外から大声が響き、スカイや村人達は一斉に顔を上げた。

「私は代々、王家に仕えるミラー伯爵、ウォルター・スチュアートと申す」

その言葉に、ナッシュビルがすっ飛んでいき、扉を開けた。するとミラー伯爵が護衛を伴って馬から降り、扉をくぐった。

「ミラー伯爵ウォルター・スチュアート(きょう)、このような僻地にお越しいただき、恐悦至極に存じます。わたくしめはイエテナ男爵、ルカ・ナッシュビルと申します」

ナッシュビルとその横に駆けつけたスペンサーはすぐさま片膝を地につき、頭を下げる。皆も慌てて、それにならう。ミラー伯爵は堂々とした佇まいで、ふむ、と頷いた。

「イエテナ男爵よ。しろがね蜜はしかと受け取った。使いの者が、王宮へと運んでいる」


ナッシュビルは、ミラー伯爵の後ろにいる青年を見て、おや、と思った。しろがね蜜は、救助を呼びにいった青年が途中で襲われないようにするためだ。それがそのまま献上されたとは意外だったが、かえって好都合かもしれない。しろがね蜜は、いわば復興資金だ。

「ははっ。国王陛下に召していただけるとあらば、身にあまる光栄にございます」

「村の惨状については了解した。これより警護の者と作業人夫、および食糧を届けさせる。直ちに村を復興せよ」

ミラー伯爵は威勢よく言い放った。


「すごい。王様が助けてくれるんだ」

興奮するスカイを尻目に、スペンサーは強引にその手を引き、裏口から外に出た。

「こっちこい」

「いてて。何だよ」

スペンサーは大股で歩き、学校の玄関の前まで来ると、勢いよくスカイを振り返った。

「スカイ、あの通路のことは口外するな。私と先生とお前しか知らぬものだ」

「でも」

「他にも容疑者がいる」

「え…」

「だからこそだ。私だって信じたくない。国が救済措置をとってくれるならば尚のこと、こんな話、もう…。終わらせたい。でも…」

それは誰、と聞こうとしたときだった。スカイはそばの植え込みをじっと見つめた。低木が並んでいるところで、そこだけやけに蠅の飛ぶ音がうるさい。


もう、スペンサーの声は聞こえなかった。周囲の音も、何も聞こえなくなった。反応しなくなったスカイに気づき、スペンサーは肩を軽く揺さぶった。それから、スカイが見ている方を見た。

「そんな。まさか…」

蝿がたかっているのは、他でもない、モーガンの頭だった。

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