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全滅まであと何日  作者: taki
第一章〜ルビテナ村編〜
19/77

19.ドワーフの正体

通路を四つん這いで進行するスカイは、スペンサーの言葉を思い出していた。

「右、右、左、右。ルビー・ィェテナ」

スカイはつぶやき、突き進んだ。途中、通路はまっすぐなところもあれば、カーブしているところ、天井が高いところ、横幅が広いところなどがあった。そこで、初めての分岐点にあたった。

「最初は、右か」

スカイは分かれ道で、右の通路を選んだ。


神殿の礼拝室で、ガルシアとルーク、サムは、矢尻を石で磨いていた。そこへ金槌を手にしたスペンサーが、階段を上ってきた。いち早く気づいたルークが手を振った。

「あれ。ねえ、スペンサーさん。スカイが探してたよ」

「そうか」

「階下で何やってた」

ガルシアはスペンサーが手にした金槌に目をやった。

「ああ。私は『関係者立ち入り禁止』の扉を完全に封鎖してきたんです。地階からの侵入者を防ぐために。そうだ、この時計なんですけど、ちょっと見てもらえますか」

スペンサーが袖から懐中時計を取り出し、裏側をガルシアに見せた。

「何だこれは」

「この刻印、何と読むんでしょう」

ガルシアは時計を裏返した。


同じ頃、エミリーはルーシーの亡骸を抱え、石造りの地下室へと戻った。相変わらず赤毛女がベッドに寝そべり、肉団子を喰らっていた。

「で? 侍従長はどうしてそうなったわけ」

赤毛女が頬杖をつき、白けた口調で尋ねると、エミリーはかしこまった。

「ニンゲンニショウタイガバレタヨウデス」

「それで殺されて、帰ってきたわけだ。使えない子ねえ」

「コチラ、ニクダンゴニイタシマショウカ」

「んー。普段だったらそうなんだけど。侍従長って美味しくなさそうなのよね。ブスだし」

「ハア…」

陛下はルーシーのただれた頬のことを言ってるなと、エミリーは理解した。だがそのただれは陛下が折檻した痕だということを、エミリーは知っている。

「あなたにあげるわ、エミリー」

「アリガタクチョウダイシマス」

エミリーが待ってましたとばかりにルーシーの頭を食いちぎると、他の部下たちもソワソワし出した。

「エミリー。食べたらすぐ戻りなさい。今夜はなんの日か、わかってるわね」

エミリーは咀嚼しながら、何度も頷いた。


通路の中を這っていたスカイは、ついに目的地らしき場所へ辿り着いた。そこはヒカリゴケが一層強く光り輝き、頭上にハシゴが伸びていた。

スカイは意を決してハシゴを登った。登り切ったところで、天井にドアが見えた。スカイはどうしようかためらった後、思いきってノックしてみた。

「合言葉は?」

老人のような、しわがれ声が返ってきた。スカイはびっくり仰天したが、同時にワクワクした。

「ルビー・ィェテナ」

木製のかんぬきがこすれる音がした。


スカイは息を飲んだ。頭上の扉がゆっくり開く。

「スカイ」

「え?」

急に明かりが差し込んできて、目がくらんだ。だが、その声には聞き覚えがあった。スカイはゆっくり目を開いてみる。真上には見覚えのある、シワシワの顔があった。

「先生!」

「どうした。スペンサーに聞いたのか」

「生きてたの」

スカイは満面の笑みをうかべた。急いで梯子を登りきり、モーガンに抱きついた。


スカイが辿り着いた先は、学校の研究室のなかだった。

そこは普段、生徒は入室禁止だ。大事な資料や道具をいたずらする輩がいるからという理由で、いつも頑丈な鍵がかかっていたのだ。


スカイは床板に模した扉から出て、部屋を見渡した。教室ほど広くないが、ほぼ真四角の空間で南側に窓と長机と本棚、北側に出入口と室内に引き込んだ水路がある。東の壁には大きな棚が置かれ、授業に使う道具や備品、さらにスカイには分からない生き物や植物が入った飼育(かご)(たる)がぎっしり置かれている。西側の壁には暖炉代わりにもなる石窯と調理台、薪置き場があり、煙突が天井を貫く。中央には大きな作業用のテーブルと簡易な寝所が設けられ、このまま生活ができそうだ。


モーガンは桶を持って水路から水を汲み、鍋に入れると、石窯の上に置いた。石窯の中では火が燃えさかり、鍋の水を温めると同時に、部屋を暖めていた。スカイはモーガンの椅子に座り、それを眺めた。


「スペンサーさんが、合言葉を言えばドワーフが開けてくれるって」

「ドワーフだと!」

スカイが言うと、モーガンは腹を抱えて笑った。その笑いっぷりに、スカイの緊張の糸がほどけた。いつの間にか、自分もつられて笑った。やがて本気の笑いに変わった。モーガンは小柄で背が低いわりに、頭が大きい。しかも禿頭で白い髭は綿のようにたっぷりだ。なんだか本当に、ドワーフに見える。

「だって、図書館の本棚に、ドワーフの彫刻がしてあったよ」

「フホホホ。そうだな。まああれは、スペンサーが勝手にあそこに彫ったんだが」

モーガンは笑い続けた。

「そうなんだ。でも、どうしてこんな隠し通路があるの」

「スペンサーと私がヤバネスズメバチの共同研究をしていると、うっかりバレては困るんでな」

スカイは言葉を飲み込んだ。事実、スペンサーのそばで働いていたルーシーが蜂人だったのだ。だが、スペンサーが養蜂家でもないのに、やけに蜂のことに詳しいことには納得がいった。


「司書さんが蜂人で、神官長が殺された」

スカイが言うと、モーガンは笑うのをやめた。目から輝きを消しさり、ゆっくり頷いた。

「聞いている」

「スペンサーさんが知らせにきたんだ? あの狭い通路を通って?」

「ああ。お前の家族は無事か」

「おばあちゃんとルークは無事だよ。でも、ビビが…行方不明だ」

スカイはそう言って唇をかんだ。名前を出すだけでも胸が張り裂けそうだった。

「そうか。こんなことになって…」

モーガンは神妙な顔をして、しばらく沈黙した。スカイは鍋の水がボコボコと泡立ってくる音を聞きながら、口を開いた。

「先生、司書さんの正体、いつから知ってたの」

「確信したのは二日前だ」

二日前。ちょうど春祭りの日だと、スカイは思い出す。

「前からあいつが怪しいとスペンサーは言っていた。だけど決定的な証拠はなかったし、どうにも尻尾をつかめなかった。あいつの他にも怪しい奴がいるにはいたが、それも確信をもてなくて…」

モーガンがため息をつき、コップのお湯を飲んだので、スカイも自分用に注がれたコップに口をつけた。


「もう何年も前だ。ルーシーがあの図書館で働くようになってから、仕事中に急にいなくなることがあって。司書がいないから本を借りられないと、苦情があった。それでスペンサーが問い詰めると、用を足しに言ってましたとか、腹が痛くて寝てましたとか都度、言い訳をしたらしい」

「そうなんだ…」

「おかしなことはたくさんあった。もう一人、司書がいたが、行方不明になった。さらに、図書館に行った村人が、家に帰ってこないという話が続いた。ルーシーに確認すると、知りませんの一点張りだ。ビショップとスペンサーも神殿と図書館、地階をすべて探したが、行方不明者は見つからなかった」

「でも、どうして蜂人だって分かったの」

「目だよ」

「目?」

スカイは意味が分からず、眉根を寄せる。


「奴らはうまく人間のふりをしているが、興奮すると目が変わる。甘い、いい匂いのするものとかな」

「どんなふうに」

「目が複眼になる」

スカイは鳥肌が立った。その複眼は、ルーシーが死ぬ直前にも見た。

「スペンサーに聞いた話だが、奴は甘党だった。昼飯の時間になると、焼いた栗だの、腐りかけのリンゴだの、瑠璃蜜に溺れるほど浸したパンだの」

「甘いもので興奮するの」

「そのようだ。司書はそれを自覚し、隠していたようだが。最近、スペンサーが複眼になったところを見たらしい。スペンサーはその後、私に相談しにきた。私も奇妙に思って、色々と調べた。そしたら、あった。昔の文献に、蜂人について記述したものがな」


モーガンは古めかしい本を手に取り、スカイに見せた。黄ばんだページには、古代の人間が描いたらしい蜂人の絵と、詳細な説明がされていた。だが、古代グリフィダ文字は、スカイには読めなかった。

「先生は古代グリフィダ語が読めるの」

「ああ。”蜂人は甘い果実や樹液に寄ってくる。好物に興奮する。目が複眼になる”」

モーガンが文章の一節を指さしながら、丁寧に読み上げた。

「そうなんだ…。でもどうしてそんな本が図書館にあったのに、村のみんなは知らなかったのかな」

スカイが尋ねた瞬間、腹の音が盛大に鳴った。モーガンは呆気にとられたが、勢いよく笑い出した。

「待ってろ。スープ、温めてやるからな」


学校の研究室でモーガンがスープを温めている頃、神殿ではスペンサーとガルシアが話し合っていた。

「ああ、この印は見たことあるな。どこかの時計技師の印だが…」

「ちょっと、私のと見比べてもらえますか」

スペンサーはそう言って、自分が首に提げている懐中時計も見せた。

「おお、見比べると随分と大きさが違うな」

「そうなんです。大きいし、しかもこの目盛、奇妙でしょう。十二等分じゃないんです。何百当分なのか…。しかも、反時計回りなんです」


ルークは、辺りを見回した。スカイはまだ図書館にいるのか。いつ戻ってくるのか。少し心配になって立ち上がった。

「ねえ。スカイはどこ?」

ルークが声をひそめ、早口でサムに聞いた。サムはジャッキーを肩に乗せ、熱心に撫でながら、楽しそうに冗談を囁いている。

「さあ、知らない」

サムが顔も上げず言った矢先だった。ジャッキーが突然、サムの肩を離れて飛翔した。

「え…?」

ルークは呆気に取られ、それを見上げた。サムやガルシア、スペンサーも喋るのをやめ、それを凝視している。ジャッキーは空中をぐるぐる、宙返りし始めた。

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