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全滅まであと何日  作者: taki
第一章〜ルビテナ村編〜
11/78

11.殺人蜂

村の男達は、人間ほどの大きさがある巨大な蜂が、老人の腕と脚を食い破っているのを目の当たりにした。

「うわ、なんだ!?」

「怪物だ!」

「逃げろ!」

一部の男達は反射的に、どこへともなく逃げていった。


「行くぞ」

ガルシアはその場でイノシシを放り捨て、駆け出した。

「行くってどこへ」

ガルシアの後ろを走りながら、イサクが叫んだ。

「神殿だ」

スカイとサムもそれに続いた。


ガルシアが率いる一団は、巨大蜂がいる場所をさけ、神殿に向かった。村の中心部である神殿に近づくにつれ、蜂に殺された死体が増えていった。まだ生きている者もいて、あちらこちらで悲鳴も聞こえた。ガルシアの一団は少しずつ減り、散り散りになった。皆、家族を探しにいったのだ。残った者は惨状から目をそらし、ガルシアの背を追いかけた。


スカイの心臓は早鐘を打っていた。祖母は。妹は。兄はどうなった。走りながら倒れている村人達の顔を見て、自分の家族ではないということだけを認識した。気がおかしくなりそうなのに、手はくうを掻き、足は地面を蹴り続けた。


スカイには訳が分からなかった。今、自分がどこで何をしているのかも分からなかった。つい先程まで、自分は山にいた。そこで──。何をしていたんだっけ。そしてなぜ自分は今、走り続けているのか。


巨大蜂がブウンと羽音を立て、一団の前方でホバリングした。毒針を突き出して飛びかかってきた蜂に、先頭のガルシアは臆することなくロングボウを構えた。スカイが後ろから見ていると、ガルシアは素早くその(つる)に矢をつがえ、勢いよく放った。長い矢は猛烈な速さで突き進み、蜂の額に突き刺さった。蜂は一瞬だけ痙攣し、音を立てて地面へ落下した。

「逃げるぞ」

ガルシアは片腕を振り、皆に叫んだ。皆はガルシアに続き、神殿を目指した。


ガルシア率いる一団は走り抜け、なんとか神殿前にたどり着くと、そこには死体の山ができていた。この領域はすでに食い荒らした後なのか、蜂達の姿はなかった。かまどの火がそばの死体や菜種油に引火して、火柱ができていた。


生きている者はいた。だが、「今」生きているだけで、五分後に生きているかは分からない。死臭の立ち込めるなか、血の川に足を取られながら、スカイはアイリーンとバイオレットを探した。だが、二人の姿はなかった。家族を見つけた男達は、その変わり果てた姿に絶叫し、泣き叫んだ。失神したり、ひたすら名前を呼び続ける者、泡を吹く者もいた。


「ねえ、ガルシアさん…」

スカイは、死体の前で立ち尽くすガルシアの隣に立ち、問いかけた。ガルシアから返事はない。その顔は炎に照らされ、オレンジ色に染まった。

「あれは、何」

スカイは聞きながら、膝が震えた。肩も震えた。見た目から言って、蜂は蜂だ。ただ、蜜蜂ではない。姿形からいって、スズメバチだ。なんで。どうして。あんなに巨大なのが、どんな理由で。答えのない問いが、頭の中を駆けめぐる。

「殺人蜂だ」

ガルシアは顔を炎に照らされたまま、低い声で答えた。

「何、それ」

スカイは、力なく言葉を吐いた。


そのとき、近くで転がっている死体を見て、スカイはハッとした。頭と腹を食い破られ、パッと見は分からない。だけど、首に下げられているラピスラズリのペンダントには、見覚えがあった。

スカイがひざまづき、その石を手に取ると、イサクが駆け寄ってきた。

「エマ! エマ!」

イサクは変わり果てた妻の両手をとり、肩を震わせ、激しく泣きじゃくった。

「どうしたんだよ、お前。なんで…」

イサクはエマの胸元に突っ伏し、慟哭(どうこく)した。その手はほぼ無意識に、エマの腹をさすろうとした。だが、その腹はなかった。


そのとき、スカイは気づいた。少し離れたところから、あの重低音が聞こえてくる。

「イサク。ねえ、逃げよう」

スカイがイサクの肩を掴むも、イサクはその手を乱暴に振り払った。その反動でスカイは地面に投げ飛ばされた。イサクは近くに落ちていた菜切り包丁を両手に握り、蜂に突進していった。

「やめろ! イサク!」

スカイが痛烈に叫んだ。蜂は正面からイサクに向かい、地面と平行に飛んだ。そのまま直進し、大きな毒針を胸に突き刺した。


「イサク!」

スカイが見ている前で、イサクは目を見開いたまま、のけぞって倒れた。体は大の字になり、顔は紫色になり、瞳孔は開いたままだ。二匹の蜂はしばらくイサクの周りをホバリングした後、頭からかじりついた。

「スカイ、逃げろ!」

背後からガルシアの声が聞こえた。スカイは我に返って立ち上がった。少し離れた神殿の前で、ガルシアが猛烈に手招きしている。そこへ駆けつけようとしたとき、何かの泣き声が耳に飛び込んできた。


声の聞こえた方を振り向くと、石窯の近くにある石のベンチの下で、フレディがうずくまって泣いている。そのそばには、母親のアメリアらしき死体があった。


「フレディ、出てこい」

スカイは手を伸ばし、フレディの両手を引っ張った。見たところ、フレディは無傷なようだ。本人はうつ伏せのような体勢になっていて、尻がつかえているのか、ベンチ下から出てこられない。

「フレディ、膝を曲げないで。足、真っ直ぐにして」

スカイが叫ぶも、フレディはイヤイヤをして泣き続けている。

「スカイ、早くしろ!」

ガルシアが激しくせき立てる。

「フレディがここにいるんだ」

スカイも叫び返す。

その瞬間の出来事だった。


真横から接近してきた蜂が、スカイの手からフレディの体を六本足でがっちり掴み、かっさらった。スカイが驚いている間もなく、他の蜂が群がり、空中でフレディの手足を食いちぎり、むさぼり始めた。

「やめろ!」

スカイは、声の限りに叫んだ。そこへ、誰かの手が自分の腕を掴んだ。

「早く」

ガルシアだった。もうすぐそばまで、蜂が飛んできている。さらに、別の蜂が先回りして、ガルシアに襲いかかった。

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― 新着の感想 ―
読みやすくてここまで一気に読みました! 瑠璃蜜、美味しくて綺麗だろうなぁ…と想像しながら、家族の会話にほんわかとした気持ちで読んでいたのですが、殺人蜂が出てきて一気に物語に引き込まれました!読みやすい…
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