短編版・魔王少女の勘違い無双伝~中二病をこじらせて、配下の人間も守る誇り高き悪のカリスマムーブを楽しんでいたら、いつの間にか最強魔王軍が誕生していた件
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↑連載長編版を投稿しました。続きが読めますので、よろしくお願いします!
「ぁああ……もっとゲームがやりたかったなぁ」
病室の天井を見上げながら、私はこれまでの15年間の人生を思い返していた。
意識が徐々に薄れていき、何も感じなくなっていく。
『ゲームや漫画などで遊んでいる暇があったら、1問でも多くの過去問を解け! 不合格など我が家の恥だぞ!』
お父さんから、私はそう厳しく勉強をさせられてきた。
第一志望の女子高に合格さえすれば、好きなだけゲームと漫画を楽しんで良いと約束されて。
でも、合格と同時に難病にかかり入院生活を余儀なくされた。
……ちょっと、ちょっと待てぇええ……ッ!
それじゃ、これまでの私の苦労はなんだったのよ!?
最初は、お父さんはすごく心配してくれたんだけど……
私が回復の見込みがなく、余命いくばくも無いと知ると、パタリとお見舞いにやってこなくなった。
合格祝いのポータブルゲーム機を与えられて以来、顔も見ていないわ。
あぐうぅううっ……! と、取り戻さなくては、これまでの禁欲生活を……!
この身が、この手が動く限り! 最後の瞬間まで、ゲームで遊びまくるのよ!
そう決心した私は、セットでプレゼントされたRPGゲーム【ルーンブレイド】にのめり込んだ。
具体的には、ラスボスとして登場する美少女魔王アンジェラの生き様に魅了されたのよ。
彼女は誇り高く、自由に生きていた。
人間を奴隷にしてこき使い、気に入らない者は叩き潰し、贅沢な暮らしを謳歌し、どんなピンチにも優雅に高笑いして見せる。
それでいて、大勢の配下に崇拝されていた。
お父さんの言いなりになってきた良い子ちゃんの私とは、正反対の自由でカッコいい女の子……
最後に勇者に打ち倒される瞬間まで、魔王アンジェラは誇り高く悪の美学を貫いて見せた。
あぁっ、彼女の生き様こそ、私の理想よ。私も、もっと自分に正直に生きれば良かったわ。
「……も、もし生まれ変わることができたら。私もアンジェラのような悪のカリスマヒロインになりたいな……」
来世があるなら、今度は誰に何を言われようとも、自分のやりたいことを思い切り楽しんで自由に生きたい。
その強烈な願いと共に、ポータブルゲーム機を胸に抱いたまま、私の意識は闇に沈んでいった。
☆☆☆
……以上のような前世の記憶を、私は岩に頭をぶつけた瞬間に思い出した。
「おごぉうッ!?」
視界に星が飛んで、痛みと衝撃にクラッとする。
なにせ、馬車が横転して外に投げ出されての大激突よ。
沈黙すること数秒……
私の全身に歓喜がみなぎった。
「大丈夫でございますか、アンジェラ様!?」
「やったぁわあああああッ!」
「……ええっ!?」
血を噴き出しながら飛び跳ねる私に、駆けつけてきた侍女のヴェロニカが唖然とした。
今の私は魔王ベルフェゴールの1人娘アンジェラ、年齢は15歳。
そう、病室で毎日やり込んだ大好きなゲーム【ルーンブレイド】の世界に──それも憧れのアンジェラに気付いたら転生していたのよ。
……昔から、なにか見聞きする度に、以前から知っているような不思議な感覚を覚えることがあったわ。
それがまさか前世で、この世界をゲームとして体験していたからなんて……! ラノベや漫画でお馴染みの異世界転生が自分の身に起きるなんて、驚きというか、感動だわ!
「アンジェラ! 今の私はゲーム開始前の魔王アンジェラね!?」
自分の身体を見下ろせば、貴族っぽいゴシックドレス姿だった。
フリフリのフリルスカートが、かわいいじゃないの。
血と泥で、盛大に汚れてはいるけれど。
「まさか、ご乱心!?」
「しっ、失礼ね。私は正気よ!」
思わずヴェロニカに言い返してしまったけれど、今はそれどころじゃないわ。
「ヒャッハー! アレで死なねぇなんて、やっぱコイツらは相当な上位魔族だぜぇ!」
「ぶっ殺して魔石を手に入れれば、俺たちは大金持ちだぞぉおおッ!」
馬に乗った十数名の荒くれ者たちが、私たちに弓矢を射掛けてきていたのよ。
馬車が横転したのも、彼らが爆裂魔法で奇襲を仕掛けたからだった。
「ぬぁ……!?」
体験したことの無い強烈な殺意を向けられて、思わず足が竦んでしまう。
ゲーム【ルーンブレイド】では魔族を倒すと、高価なアイテムの材料となる魔石をドロップした。
それはこの世界でも同じみたいね。
強力な魔族ほどレアな魔石を落とすから、あの人たちにはきっと、私たちが金塊に見えているのだわ。
「アンジェラ様、お下がりください! この私が命に代えてもお守りいたします!」
短剣を構えたヴェロニカが私を守るべく立ちはだかり、矢をことごとく叩き落とした。
こ、この人間離れしたアニメキャラみたいな動き……そう、ヴェロニカは吸血鬼だわ。
うわぁああっ、感激よ!
私は間違い無く【ルーンブレイド】の世界にいるんだわ。
「……って、そう。これはきっと魔王アンジェラの過去イベントね!?」
今の私には、アンジェラとして生きてきた15年間の記憶があった。
アンジェラは、人間とは決して関わってはならないと、魔王である父親から厳しく言い聞かされて育った。
しかし、超わがままな性格で、強大な魔力を持って生まれたアンジェラは自分の力を過信し、立場の弱い侍女ヴェロニカに命令して、人間の街にお忍びで出かけたのよ。
人間と魔族の最大の違いは、瞳の色。魔族は赤い目をしているのが特徴だった。
私とヴェロニカの場合、それ以外の身体的特徴や外見は、人間とまったく同じだったわ。
なら赤目であることさえバレなければOKと安易に考えて、大きな帽子で顔を隠しての冒険だった。
その結果、今、こうして帰り道に襲撃されている。
カッコいい悪のカリスマヒロインも、最初はおバカな失敗をしていたのね。
「おっ、お逃げください、アンジェラ様!」
肩と足に矢を受けたヴェロニカが、懇願するように叫んだ。
吸血鬼であるヴェロニカは、太陽の下では弱体化してしまうため、普段より動きに精彩を欠いていた。
「ヴェロニカ!?」
……ゲームシナリオでは確か、ヴェロニカはここでアンジェラを守って命を落とすのだったわ。
運悪く岩に頭をぶつけたアンジェラは気絶し、殺されかける。その寸前で、魔王である父親──お父様に救われるのよ。
そう、前世の私のお父さんと違って、この世界のお父様は、私を心の底から愛してくれていた。
だって、愛する娘を人質に取られたお父様は手も足も出せず、命を落とすんだもの。
アンジェラはこれが切っ掛けで、人間への復讐を決意し、1年後から侵略戦争を開始するんだっけ……
う、うわっ、ヤバいなんて、もんじゃないじゃない。
「……だけど、私は今、気絶していないわ!」
きっと私が前世の記憶を取り戻したおかげね。
それでゲームシナリオにわずかな狂いが生まれたのだわ。
敵は強面の男たち。一瞬、恐怖に身体が硬直したけれど……
大丈夫。ラスボスであるアンジェラに生まれ変わった私の敵じゃ無い筈よ。
「ヴェロニカ、巻き込んでごめんなさい! 私の配下を傷つける者は、誰であろうと許さないわよ!」
「……えっ、ええ!?」
私は勇気を振り絞って、前に出た。
悪のカリスマヒロインに生まれ変わったからには、それにふさわしい誇り高い態度を取らなければね。
どんなピンチであろうとも、優雅に高笑いして見せる。
敵対してきた者は容赦なく叩き潰し、自分の配下を守り抜く。
それが、カッコいい悪の美学というものよ。
「ひゃはッ! いただき!」
「【氷結】!」
私は魔法で冷凍波を放ち、ヴェロニカに槍を投げつけようとした男をカチンコチンに凍らせた。
「……ッ!? ロイドが一撃で!?」
「や、やったぁああああ! 私にも魔法が使えたわ!」
自身の身体にみなぎる絶大な力に、高揚を禁じ得ないわ。
病弱だった前世とは正反対じゃないの。
男たちが放つ矢が、まるで止まっているように見える。
私は高速の手刀で、ヴェロニカと自分を狙う矢をことごとく叩き落とす。
なんか、頭の怪我もいつの間にか癒えてきているようだし……
この身体、すごい、すごすぎるわよ。
さらに私は反撃の【氷結】で、敵3人をまとめて氷漬けにした。
うん、魔法の扱いにも慣れてきたわ。
「なにぃ!?」
「散れ! あの小娘、とんでもねぇ魔法の使い手だぞ!」
後続の男たちが真っ青になって、散開する。
固まっていたら、魔法の良い的になるものね。
「ふっふん! 当然よ、私は【氷獄の冥姫】アンジェラよ!」
喜びのあまり、私は胸を反らして叫んだ。
これこれ! このセリフは一度は言ってみたかったのよね。
病院じゃ同好の士なんていかなったし、アンジェラのコスプレをするのも夢で終わったわ。
「愚かなる人間ども。我が氷の魔力の前にひれ伏すが良いわ!」
もう超ノリノリで、ビシッと指を突き付ける。
ああっ、気持ちいい。脳汁がドバドバ出るわ。今、私は夢を叶えていた。
「【氷獄の冥姫】だと? 聞いたこともねぇな!」
「ケッ! 調子に乗るなクソガキが!」
「俺たちはAランク冒険者! 魔族狩りなんざ、何度も経験してんだよ!」
男たちは私を包囲した上で、騎馬で突撃してきた。
なるほど。バラけていれば【氷結】を防げると思った訳? 甘いわね。
「【氷結陣】!」
私は全方位に冷凍波を放った。
周囲の大地が瞬時に凍結し、騎馬ごと奴ら全員の下半身を氷漬けにする。
「ひぎゃああああッ!?」
彼らは情けない悲鳴を上げた。
自分の身体が凍るというのは、かなり恐ろしい体験みたいね。
「ヴェロニカ、今、怪我を癒やすわね!」
「はぁ……っ!?」
私はヴェロニカの傷口に手を添えて、闇の回復魔法【ダーク・ヒール】を放った。
たちまちヴェロニカの傷が癒えて、健康な白い肌を取り戻す。
「ああっ、良かった。私のせいでヴェロニカが死んじゃうなんて、あってはならないものね!」
そんなことになったら、悪のカリスマヒロインの名が泣くわ。
そう、この事件は魔王アンジェラ唯一にして最大の汚点だった。
史上最高の悪のヒロインを目指す私にとって、絶対に覆えなさければならないシナリオよ。
「アンジェラ様……! あっ、ありがとうございます!」
ヴェロニカは呆然として固まっていたけど、すぐに深々と腰を折った。
「まさか、私ごときに慈悲をかけてくださるなんて!」
「はぁ? 何を言っているのよ。そんなの当然じゃない」
「……い、今、なんとぉ?」
顔を上げたヴェロニカは、信じられないといった様子で口をパクパクさせた。
あっ、そう言えば、これまでのアンジェラって、傍若無人なわがまま娘で、ヴェロニカをよく困らせていたっけ?
ふっ、だけど、私は文字通り生まれ変わったのよ。
「あなたたち、よくもこの私の大切な配下を傷つけてくれたわね!」
「ひぃいいッ!?」
病室で魔王アンジェラに魅了された私は、ポータブルゲーム機の機能を使って、同じようなカッコいい女の子の悪役が出てくる小説や漫画やアニメを見漁った。
その結果わかった彼女たちの共通点。
すなわち悪のカリスマヒロインの条件の一つは、配下を大切にしていることよ。
配下が傷つけられたら、本気で怒る。
それによって、配下たちから慕われ崇拝されていた。
巨悪をなすには、そうやって大勢の配下を従える必要があるわ。
悪のカリスマヒロインは、ヒャッハー! なんて叫びながら弱い者イジメをしているこいつらみたいな雑魚キャラとは、格が違うのよ。
ああっ、なんて素晴らしいのかしら! 私は今、巨悪としての第一歩を踏み出している。
「俺たちをどうするつもりだぁああッ!?」
「ふん! 決まっているでしょう。奴隷として一生強制労働よ!」
「……なっ、なんだとッ!?」
私は奴隷契約を強制する邪悪な呪いを詠唱して放った。
「縛れ【奴隷の呪印】!」
男たちの手の甲に私の所有物であることを示す、【奴隷の呪印】が刻まれる。
「ふふっ、これで、あなたたちは私の命令に逆らうと、耐え難い激痛を感じるようになったわ。どう? 奴隷になった気分は?」
悪のヒロインらしく、私は悠然と微笑んで見せた。
「俺様が魔族の奴隷に…!?」
「強制労働! まさか鉱山で死ぬまで働かされるとか!?」
「い、嫌だぁあああ、勘弁してくれぇえええッ!」
男たちは、恥も外聞も無く泣き叫ぶ。
ふふっ、いい気味だわ。
私はさらなる絶望を与えるべく、労働条件を伝えることにした。
「仕事内容は、街への本の買い出し! 私のために小説や漫画を買ってくるのよ!」
「はぇ……?」
魔族は人間の街に買い物に行けないので、彼らを奴隷にするメリットは非常に大きかった。
おかげで、人間の街でしか手に入らない本をゲットできるわ。
魔族には物語を書く文化なんて無いからね。
私の脳裏に、前世のお父さんの怒鳴り声がフラッシュバックする。
『漫画など読んでいたら、バカになるぞ!』
『小説も禁止だ! これはお前のためを思って言っているんだ!』
『良い子になれ! 親に反抗するな! 俺の言う通りにしろ!』
そうやって、大好きな小説や漫画を読むことを禁止され、しぶしぶ言うことを聞いていたのだけど……
その教えが、私のためなんかじゃないことは、お父さんに見捨てられてよくわかったわ。
ふん! なら、お父さんの教えとは、トコトン真逆の悪い子になってやろうじゃないの。
せっかく魔王アンジェラに生まれ変わったのだから、今度の人生は思い切り楽しまないとね。
この世界では、私の大好きな小説や漫画を毎日、読み耽って暮らすのよ。
「条件は週5日間、8時間労働! 住み込みの衣食住の保証付きで、時給は最低賃金! アハハハッ! どう? 己の運命を呪うがいいわ!」
「……はぁああっ?」
男たちは目を点にした。
「え、えっと、最低賃金? 奴隷なのに金が貰えるのか?」
「や、休みがあるの? 2日も?」
「……こんな危険の無い仕事で、衣食住の保証だなんて、あり得ねぇ条件だぞ!?」
うろたえる彼らに、私は冷たく微笑む。
「ふふっ、そう。有り得ない劣悪な労働条件よね?」
私の前世のお兄ちゃんは、大学を卒業して就職してから良く言っていたわ。
週5でフルタイムで働くなんて、まさに奴隷労働だって。
これが一生涯続くなんて、絶望しかないって……
中学生だった私には、いまいちピンと来なかったけど、『学校の授業が毎日8時間目まであると考えてみろ』と言われて、ことの重大さを思い知ったわ。
まさに絶望。
遊ぶ時間なんて、まったく無いじゃない。
特に住み込みの仕事は、家に帰っても会社の延長、職場のルールに縛られてヤバいらしいわ。
こんな条件を押し付けるなんて、ふっ、自分のあまりの悪逆非道ぶりに、恐ろしくなってしまうわね。
「お、お嬢ちゃん。本気なのか……?」
「こんな好待遇?」
信じられないといった目で、男たちは私を見つめた。
「もちろん、本気よ」
パチンと指を鳴らして、私は彼ら全員にかけた氷の魔法を解いた。
「えっ、ぬわっ……!?」
バランスを崩して、全員がその場に落馬する。
「なっ、ロイド、生きているのか!?」
「い、一体何が……?」
氷漬けから復活した男たちは、何が起きたのかわからず、困惑していた。
私は彼らを1人も殺してはいなかった。
「じゃ、あなたたちのダメージも癒してあげるわね」
私は回復魔法【ダーク・ヒール】を彼らに浴びせた。
これは闇属性の回復魔法で、人間には効果が半減するけど……奴隷に対しては、まっ、これで十分でしょう。
人間を奴隷にしてこき使い、恐怖と絶望で支配するのが魔王よ。
転生してすぐに、魔王ムーブをかませて大満足だわ。
「命を奪おうとした俺たちに、こ、これ程の慈悲を……!?」
「クソ冒険者ギルドなんかより、よっぽど好待遇じゃねぇか!」
「「ありがとうございます、アンジェラ様!」」
「さぁ、あなたたち一生こき使ってやるから、覚悟しなさ……って、なんで感謝しているのよぉおおッ!?」
思いっきりドヤろうとした私は、男たちから一斉に頭を下げられて、驚愕した。
わ、訳がわからないわ!
「……僭越ながら、アンジェラ様」
ヴェロニカが、氷のような殺意を宿した瞳で男たちを睨みつけた。彼女が構えた短剣の切っ先は怒りのためか、わずかに震えている。
「なぜ、この者どもに慈悲などお与えになるのですか? アンジェラ様に刃を向けた罪、万死に値します。この場で、私が!」
「ひぃぃっ!」
男たちは情けない悲鳴を上げて、後ずさる。
「ふん、甘いわねヴェロニカ。これは慈悲なんかじゃないわ。むしろ、その逆よ。この私に逆らったことを、骨の髄まで後悔させてやるための『仕打ち』なのよ!」
「仕打ち……です、か? い、いえ、しかし、あまりに生ぬるいのでは……?」
ヴェロニカは困惑している。
どうやら、彼女は悪の美学についての理解が浅いみたいね。
ふっ、仕方ないわ。
悪のカリスマたる者、部下の教育も重要な責務。この私が直々に、悪のなんたるかをレクチャーしてあげるわ。
「いい、ヴェロニカ? 敵を怒りに任せて倒すなんてのは、三流のやることよ。私のような悪のカリスマはね、敵さえも利用し尽くすの。力を誇示して心服させた上で、さらなる巨悪を成すための手駒として使う……これぞ悪の美学よ!」
「なっ! なんと深遠な……!?」
ヴェロニカは目をパチクリさせた後、感極まったように膝をついた。
「おっ、お見逸れしました! アンジェラ様の侍女として、そのお考えを他の魔族たちにも……!」
「うん? 他の魔族?」
「は、はい! アンジェラ様はまだお若く、その真意を知らぬ者たちの中には、今回の処置を『人間への甘さ』と曲解し、異を唱える輩も現れるやも知れません。ですが、ご安心ください! このヴェロニカが、決してそのような声は上げさせません!」
ああ、なるほど。
私が小娘だからって、侮る古参魔族もいるってことね。ふん、上等じゃない!
「問題ないわ、ヴェロニカ。文句など言って来る者がいたら、この私自らが、力でもって黙らせてやるわ!」
魔王として君臨するためには、力を誇示することも重要だものね。
ふふん。我ながら、これぞ絶対悪、絶対強者という感じで、ゾクゾクしちゃうわ。
「なんというお覚悟! まさか、人間どもを恐怖ではなく、人徳で支配なさろうとされるとは。このヴェロニカ、アンジェラ様の深き御心に感服いたしました!」
「はっ……? 何を言っているの?」
ヴェロニカってば、私の話をちゃんと聞いていなかったのかしら?
私は人間を奴隷にし、私を小娘とバカにする魔族をブチのめすと言っているんだけど?
誤解を解こうとした瞬間、奴隷にした男たちの号泣が轟いた。
「う、うぉぉぉん! そこまで身体を張って俺たちのことを守ってくださるなんて!」
「……俺、感激しましたぁ!」
「これから誠心誠意、アンジェラ様にお仕えさせていただきます!」
「労働条件も最高だし、幸せだぁ!」
「え……っ?」
なぜか、奴隷にした男たちが感涙を流していた。
私は理解に苦しむ。
……あっ、そうか。これは多分、アレよね。
恐怖と絶望から逃れるために、支配者である私におもねっているのよね?
なら、ここは支配者たる堂々とした態度を見せるべきよ。
「ふふっ、そうよ。この私が、あなたたちのご主人様よ! これからは私の命令に従いなさい!」
よし、ビシッと悪のカリスマっぽく決まったわ。
「は、はい! で、どんな本を買ってくれば良いですか!?」
さっそく仕事をしようなんて、感心、感心。
強面の男たちを顎で使えるなんて、最高に気分が良いわ!
「もちろん、私のようなクールでカッコいい悪役が活躍する小説と漫画を買ってくるのよ!」
「……アンジェラ様のような、ですか?」
「あの……漫画? って、何ですかい? 食い物?」
「……へっ?」
い、今、なんて……? まさか漫画を知らない?
私は衝撃で固まった。
……いや、待ってよ? ここって中世ヨーロッパ風のファンタジー世界よね?
もしかして、印刷技術とか、漫画文化そのものが存在していない……?
「そ、そんなぁぁあ!? 漫画が無い世界なんて、絶望しかないじゃない!!」
思わず素で叫んでしまった。
漫画を読み耽る悪い子ライフを貫くどころか、このままじゃ、娯楽に飢えて死んじゃうわ。
そこで男たちが、目を丸くして私を見ているのに気付く。
はっ! なにやってんのよ、私。悪のカリスマたる者、動揺を見せちゃダメじゃない!
私はわざとらしく咳払いして誤魔化す。
そう、私はいずれ魔王となる身。その気になれば、この絶大な魔力と配下たちを使って、なんだってできる筈よ。
「……ふっ、そう。無いなら、作ればいいだけの話だわ」
私はポンと手を叩いた。
我ながら、天才的なひらめきだわ。
小説はあるみたいだし、それを原作にして、私がこの世界に漫画文化を花開かせるのよ。
前世で、好きなWeb小説がコミカライズされた時の感動を、この世界でも再現するわ!
あとは……そう、絵師が必要よね。
「あなたたち、命令よ。絵がうまい人間を私の奴隷にするわ。そんな人間を探してくるのよ!」
「わかりました。喜んでやらせていただきます!」
男たちは一瞬戸惑ったけど、すぐに頭を垂れた。
みんなが私の命令に喜んで従うなんて……くぅ~、悪って最高だわ。
「見事だアンジェラよ。まさか……人間をこうまで心服させてしまうとはな」
そこに、厳かな声が響いた。
いつの間にか、漆黒の翼を持つ巨漢が、空から私たちを見下ろしていた。太陽の光を遮る禍々しいその姿は、すべてを飲み込む闇を思わせる。
「アレは……ま、まさかッ!?」
「魔王ベルフェゴール様!」
ヴェロニカが慌ててその場に平伏し、男たちは震え上がった。
「お父様……!」
現れたのは、今世の私のお父様──魔王ベルフェゴールだった。
この肌にビシビシ突き刺さる圧倒的な悪のオーラは、まさに私のお手本だわ。
いつか私も、こんな悪のオーラを放ってみたい!
「いつの間にか、お前がこれほどまで器の大きな魔族に成長していたとは……これならば、余も安心して、魔王の座を譲ることができる」
「えっ、ホントですか!?」
やった! 魔王ベルフェゴールから、次期魔王としてのお墨付きをもらえたわ!
「はい! お父様! 必ずや、お父様の名に恥じぬ、立派な魔王になってみせます!」
「うむ! なんと頼もしい……ごほっ、ごほっ……! す、すまぬ、安心したら持病が……」
地上に降り立ったお父様は、苦しそうに胸を押さえて咳き込んだ。
そうだったわ。お父様は200年前の勇者との戦いで受けた聖剣の傷が原因で、徐々に衰弱しているのだった。
原作ゲームで、愛娘(つまり私)を人質に取られたとはいえ、冒険者ごときに遅れを取ったのも、この衰弱が原因なのよね。
「お父様、ご無理をなさらないでください!」
「案ずるな、アンジェラよ。大事ない……それよりも、お前が無事で……本当によかった」
駆け寄った私の頭を、お父様の大きな手が優しく撫でた。
……ああ、そうだったわ。この人は、いつだって、こうして私を守ってくれようとしていた。
お父様は、私の身を案じる一心で、こんな無茶を。
前世の『お父さん』にとって、私は社会的成功を示すトロフィーであり、世間体を保つための道具に過ぎなかった。
けれど、今、目の前にいるお父様は違う。その眼差しに宿るのは、紛れもない純粋な愛情よ。
人間の街への立ち入りを禁じたのも、世間体なんかじゃなく、ただひたすらに私の安全を願ってのこと。
その不器用なまでの深い思いやりが、私の胸を強く打つ。
かつての渇望が嘘のように、温かな気持ちが心の隙間を埋めていった。
「魔王様、アンジェラ様に魔王の座をお譲りになるとは……?」
ヴェロニカが平伏しつつ尋ねる。
「うむ。これまで明言は避けてきたが……余は、もうあまり長くは無いようだ。勇者より受けた傷が、ここまで悪化してしまうとはな……」
お父様は口惜しそうに顔をしかめた。
「余はおそらく、あと数年でこの世を去るだろう。アンジェラよ、どうか、か弱き魔族たちをお前の手で守り導いてくれ。それが、この父からの……最後の頼みだ」
「そんな……」
嘘でしょ?
私を心から愛してくれているお父様が、亡くなってしまうなんて。
ゲームシナリオは変わった筈なのに、その運命は変わらないというの?
せっかく手に入れた、温かいお父様との時間。この世界でなら、前世で叶わなかった幸せを掴めると思ったのに……!
「……いや、ちょっと待って。諦めるのはまだ早いわ!」
転生した私は、この世に奇跡が存在していることを実感した。不可能と断ずるのは、早まった考えだわ。
ここは魔法の存在するゲーム世界、お父様を救う方法がきっと……何か、何かあるはずよ。
そ、そうだわ! 原作ゲームのクライマックス! 勇者レオンが死の淵をさまよった時、彼を救ったのは……
「4人の聖女たちの『蘇生魔法』! あれなら、どんな傷だって癒せるわ! お父様の傷も治せる筈よ!」
閃いた! 魔族を滅ぼす聖剣で受けた傷は、通常の回復魔法じゃ治せない。回復薬だって気休め程度。
でも、聖女たちが力を合わせることで発動できる、蘇生魔法なら……!
聖女たちが司るのは、勇者の聖なる力とは別系統の四大元素。お父様にも効果がある筈だわ。
「お父様、安心してください! 私がすべての聖女を手に入れて、お父様の復活を果たしてご覧に入れます!」
私の目標が決まったわ。目指せ大魔王復活!
魔王を隠居したお父様は、いわば大魔王と言って良い存在よね。
私のテンションが爆上がりとなる。
「あぁああっ! 正義のヒロインを拉致して、邪悪な目的のために利用するなんて、まさに悪の所業だわ。魔族たちを従えて、大魔王復活に邁進するのよ!」
なにより聖女たちを1人でも捕まえちゃえば、勇者レオンは蘇生魔法を使えなくなって、原作通りに復活することもできない!
つまり、私が勇者に倒される破滅の未来も回避できるってことよ。まさに一石二鳥!
そのためにも手駒となる人間の奴隷を増やしていかなくちゃね。
「よーし! 俄然やる気が出てきたわ! お父様復活&破滅フラグ回避のために、今日から猛特訓よ!」
ゲーム本編開始は、魔王アンジェラが16歳になる約1年後。原作のアンジェラは才能にあぐらをかいて努力を怠ったけど、私は違うわ。
今から必死で努力すれば、この私が勇者レオンなんかに負けるはずがないわ!
「……アンジェラよ! お前が、こんなにも……こんなにも頼もしく、そして優しい娘に成長していたとは……!」
お父様は感動で肩を震わせる。
けど、すぐに心配そうな顔つきになった。
「だが、余の一番の望みは、お前の幸せだ。人間は恐ろしい生き物だ。魔王となったお前の方針に口を挟むつもりは無いが……勝てぬと思ったら、魔王城で籠城に徹しよ。良いな?」
あっ、なるほど。
私はお父様が何を不安がっているのか、ピンと来たわ。
きっと、思わず口から出てしまった魔族たちを従えて、という私の言葉が引っかかったのよね。さすがは300年以上も生きている大魔王だわ。
「はい、もちろんです! 魔族のみんなを無駄死にさせるような愚かな真似は、絶対にいたしません!」
漫画やアニメに登場するダメな悪役の典型例は、敵を侮って戦力を小出しにし、配下を無駄死にさせていくことよ。
やられっぱなしなのに高笑いして見せるメンタルの強さは凄いと思うけど、それじゃ負けるに決まっているわ。
それは私の理想とする魔王アンジェラも同じだった。
四天王を1人ずつ勇者にぶつけて、全滅させてしまった。
悪役について研究した私は、そんな愚かな失敗の轍は踏まないのよ。
「なんと、そこまで配下たちのことを考えておるとは……!?」
お父様は感極まった様子で、私の両肩を叩いた。
「アンジェラよ、お前は余の誇りだ! お前ならきっと史上最高の魔王となれる!」
「アンジェラ様、なんとご立派な! このヴェロニカ、魔王アンジェラ様に一生ついて参ります!」
「うぉおおおッ! アンジェラ様がこんな親想いの良い娘だなんて! 俺たちも感激です!」
ヴェロニカと奴隷にした男たちが大声で叫んだ。
なんで、奴隷たちまで感激しているのか良くわからないけれど……
こうして、私の悪のカリスマヒロインとしての人生がスタートした。
さぁ、せっかく手に入れた第二の人生を思い切り楽しむわよ!
──5日後
私の魔王就任式が開かれていた。
魔王城に、盛大なファンファーレが鳴り響く。玉座へと続く深紅の絨毯の両脇には、おびただしい数の魔族たちが頭を垂れている。
荘厳な儀式の中、私は新しい魔王として、一歩一歩、玉座へと歩みを進めていた。
お父様は先日、無理をしたために欠席されているけど、自室から魔法ビジョンで、晴れ舞台に立つ私を応援してくれているわ。
魔王としてのデビューを、華麗かつ鮮烈に決めて、お父様を安心させてあげなくちゃなね。
王座に腰掛けた私は、魔王としての第一声を発した。
「皆の者、面を上げなさい。私こそ、新たなる魔王アンジェラよ!」
バッと一斉に上がる魔族たちの顔、顔、顔! その視線が一斉に私に突き刺さる。
ぬは、ヤバい……! 魔族たちの頂点に立つこの全能感、この支配感! たまらないわ!
病室で、魔王アンジェラのマネをやっていたときは、同室のお姉さんから、「あんた、いい加減、うるさいわよ!」と怒られたけど、ここでは誰もが私を魔王として畏敬の眼差しで見つめてくれていた。
これぞまさに妄想で何度も繰り返したシチュエーションだわ。
思わず口元がニヤけそうになる中、威厳を出すために、咳払いして話を続ける。
「我が父ベルフェゴールは、人間の国々への侵略を禁止したけれど、私は違うわ。200年にも及ぶ雌伏の時は、終わりよ! 魔族を金儲けのために殺し続けている人間どもに、今こそ逆襲する時! 人間ども支配し、我らの奴隷とする【人類奴隷化計画】を実行に移すのよ!」
「な、なんとぉおおおッ!?」
地響きのような歓声とどよめきが、玉座の間を揺るがした。
「我ら一堂、そのお言葉を心待ちにしておりました!」
「魔王アンジェラ様に絶対の忠誠を誓います!」
「我らの同胞を、子を親を! 金儲けのために狩り続けている人間どもに目にものを見せてくれましょう!」
魔族たちの賛同と忠誠の叫びが、嵐のように吹き荒れた。
最高潮になった私は、超ノリノリで叫ぶ。
「ふふっん! しかし、勇者の一族は健在、闇雲に戦争をしかけても負けるに決まっているわ! そこで、まず勇者に力を与える4人の聖女を、すべて私の支配下に入れるわ。聖女の力をもって、我が父、大魔王ベルフェゴールを復活させるのよ! これぞ【人類奴隷化計画】の第一段階。人間どもは恐怖と絶望に震えるわ!」
万雷の拍手が巻き起こった。
あーっ。ヤバい。楽し過ぎる。毎日でも、これやりたいかも……
【人類奴隷化計画】というのは、本来のゲームシナリオには無い私独自の計画だったけど、実に壮大で邪悪な計画で、気に入っているわ。
計画完了の暁には、小説や漫画を毎日、ダラダラ読んで楽しく暮らす、夢のような日々がやってくるのよ。
しかも、世界を支配する偉大な悪のカリスマと崇められながら!
「そのために、魔王である私、自らが……!」
「お待ち下さい! 失礼ながら魔王アンジェラ様に、お尋ねしたい儀がございます!」
空気を切り裂くような野太い声。
見れば、オーガ族の族長ゴルドが、その2メートルを超える筋肉の塊のような巨体を起こし、私を睨みつけていた。角を生やし、まさに鬼といった風貌の大男よ。
ゴルドは原作ゲームでは、自分こそ魔王にふさわしいと野心に燃え、魔王アンジェラに取って代わろうとしていたわ。
私のことを小娘と侮る古参魔族の筆頭のような男よ。
私の演説を邪魔するとは、さっそく反逆者ムーブをかましてきている訳ね。
「ゴルド殿! アンジェラ様の演説を妨害するとは何事ですか!? 無礼にも程があります!」
私の近くに控えていたヴェロニカが、短剣を引き抜く。
一触即発の雰囲気に、魔族たちに緊張が走った。
「ふんっ。いいわ、質問を許すわ」
悪のカリスマとしては、ここは度量を見せておくべきところ。
私は顎をしゃくって、ゴルドに発言の許可を与えた。
「では単刀直入に申し上げる! アンジェラ様は、その御命を狙った人間ども――それも多くの魔族を手に掛けた冒険者どもを許したとか。これは事実でありましょうか!? それが、人間への復讐を誓う魔王の行いか!?」
ゴルドが右手を上げると、彼の配下のオーガたちに引きずられ、見るも無惨な姿の男が現れた。私が奴隷にした元Aランク冒険者のロイドよ。
「ひっ、あわわっ! アンジェラ様、おっ、お助けくださぁいい!」
ロイドは恥も外聞も無く喚き散らした。
初めて会った時のイケイケぶりは、微塵も感じられない情けない姿ね。まっ、こんな状況じゃ仕方ないけど。
「人間どもを奴隷にする、そのお志は見事! しかし、行動はまったくの真逆! 聞けばこの男、街に本を買いに行かされているだけで、奴隷としての扱いなど皆無! これのどこが支配であり、復讐であるか!? 説明していただこう!」
ゴルドの怒声が響く。
魔族たちは息を飲んだように静まり返った。
「人間など、こうしてくれるわ!」
ゴルドの配下がロイドに向かって、剣を振り上げた。
「ぎゃあああッ!?」
「【氷結】!」
その瞬間、私は手から冷凍波を放ち、ロイドを斬ろうとしたオーガを凍りつかせた。カキン、と氷像が完成する。
「な……っ!?」
ゴルドだけでなく、居並ぶ魔族たちすべてが驚愕した。
「私の奴隷を手に掛けようとするなんて、一体どういう了見かしら、ゴルド?」
私は玉座から、冷ややかに、しかし優雅に微笑んで見せた。
「語るに落ちたな、アンジェラ! 貴様の目的は人間への復讐ではなく、甘っちょろい共存! まさか、魔族殺しの冒険者を庇うとは!」
ゴルドは、してやったりとばかりに声を張り上げた。
「貴様のような小娘が魔王などとは、笑止千万! 今すぐ、その栄光なる王座より降りるがいい! 魔王にふさわしいのは、この俺、ゴルド様だ!」
大剣を引き抜いて、ゴルドはその切っ先を私に向ける。
「この俺が魔族を率い、人間どもを根絶やしにしてくれるわ!」
なるほどね。
まさか、ここまで直接的な反逆行為に出るなんて……意外だったけど、おもしろいじゃないの。
「あはははははッ!」
私は大笑いして、王座から立ち上がった。
ゲームシナリオには無い展開だったけど、これは私の悪のカリスマヒロインぶりを魔族たちに知らしめる絶好のチャンスだわ。
「ふん。甘いわねゴルド。そんなことだから、勇者に真っ先に倒されて、他の魔族たちから『くくくっ、ヤツは四天王の中でも最弱!』とか、陰口を叩かれるのよ!」
私はゴルドにビシッと指を突きつける。
ゴルドは1年後に新設される魔王の4大幹部、四天王の1人になる男だった。
原作ゲームのアンジェラは、ゴルドの人間への憎しみの強さを買って、幹部に抜擢したのよね。
まっ、それが仇になってしまう訳だけど。
「なっ、何を……!?」
「予言してあげるわ。あなたはね、自分より弱い人間をいたぶり、悦に入っているところを、正義に燃える勇者に見つかって、怒りの鉄拳でボッコボコにされるのよ! あなたのような三下の小悪党ムーブを決めるヤツは、序盤で退場させられるのがお約束なの!」
「い、言わせておけば、この小娘がああああっ! この俺が三下の小悪党だとぉ!?」
ゴルドは顔を屈辱に真っ赤にした。
「ええっ、その通りよ。いいこと? 私は奴隷にした人間どもを、『大いなる計画』のために利用しようとしているの。そんなこともわからないようじゃ、私に代わって魔王なんて、一億年早いわ!」
「おのれ、もはや我慢ならん……!」
「待つのじゃゴルドよ。アンジェラ様、失礼ながら、その『大いなる計画』とやら、詳しくお聞かせ願えませぬか? なぜ、人間どもに大量の書物を買い集めさせているのですかな?」
その時、割って入ったのは、齢500を超える大魔族――獣人族の長老、賢狼ワイズだった。
全身モフモフの真っ白な毛並み、丸眼鏡の奥の瞳は知性に溢れている。ヨボヨボとしながらも、その存在感は格別に大きい。
私の大好きなキャラの一人よ。
このモフモフおじいちゃん、可愛い!
「ふっふーん! よくぞ聞いてくれたわ、ワイズ! いいこと? 魔族には決定的に欠けているものがあるわ! それは創造力! 新しい発想を生み出す力よ! このままじゃ、私は退屈で死んじゃうわ!」
私は胸を張って宣言した。
「だから、人間の本(小説や漫画)が必要なの! それらを魔族たちに広め、共に語り合う! これが、私の大いなる計画! 【人類奴隷化計画】の行き着く先よ!」
そう! 同じ趣味の友達が欲しい! 魔族のみんなと推しカプについて語り合ったり、最新刊の感想で盛り上がったりしたい!
なにより、前世のお父さんから、漫画を読むなんて、悪いことだと、さんざん否定されてきたわ。
中学生の時、入学早々、漫画アニメオタクとして名を轟かせてしまった私は、居場所を求めて、漫画研究部に入ろうとしたのに、お父さんの猛反対にあってできず……
上流階級コンプレックスのお父さんから、お嬢様らしい教養を身に着けろと、言われるがまま何の興味も無い華道部に入った。
今なら、それが過ちだったとわかるわ!
だから、私は魔族たちに、小説や漫画といった偉大な文化を広めるつもりだった。
私は宣言した。
「悪を貫き、かつての夢をこの手に掴む! これこそが、魔王たるべき者の姿だわ!」
「なっ……なんとぉおおおおおおッ!?」
ワイズは、まるで雷に打たれたかのように、よろめいた。
「い、いがされましたか、長老殿!?」
「ワイズ様、お気を確かに!」
ゴルドをはじめ、他の魔族たちも、老賢者のあまりの動揺ぶりに目を丸くしている。
ワイズは最も古き魔族であり、その知恵と知識は広く尊敬を集めていた。粗暴なゴルドでさえ、ワイズには一目置いているわ。
ワイズは震える声で、しかし熱っぽく語り始めた。
「……ま、まさにそれでございます! 創造力! それこそが、我ら魔族が人間どもに遅れを取ってきた最大の要因! 力ではるかに勝る我らが、なぜ何度も苦杯を舐めさせられてきたか!? それは勇者個人の力もさることながら、それを支える人間の武具が、魔法が、戦術が! 日々進化し続けておるからじゃ!」
「はぇ……?」
私はワイズの言っている意味がわからず、心底困惑した。
「はっ! そうか! アンジェラ様は人間を奴隷とし、書物を買い集めさせることで、奴らが数百年かけて積み上げてきた知識と技術を、我ら魔族のものとしようとしておられるのですな!? 書物による知識伝播こそ奴らの強さの根源! こ、これぞまさに、恐るべき大いなる計画ぅううううッ!」
ちょっと、ちょっと、このおじいちゃん、どうしちゃったのかしら?
「アンジェラ様が、これほどの深謀遠慮をお持ちであったとは……! このワイズ、不明を恥じ入るばかりでございます! この5日間、お部屋に籠り書物を読み耽っておられると聞き、もしやとは思っておりましたが⋯…! くくくっ、『敵を知り己を知れば百戦あやうからず』! 人間から積極的に学び、その知恵を取り込もうとは……!」
ワイズは恭しく私の前に進み出て、深く頭を垂れた。
あれ? この5日間は、ロイドたちに買ってきてもらった小説を読んでいただけなんですけど?
「なにより、【人類奴隷化計画】の真の目的とは、人間への復讐といった矮小な物ではなく、我ら魔族の繁栄! まさに、まさにアンジェラ様こそ、魔王の器! このワイズ、改めて、魔王アンジェラ様に絶対の忠誠を誓いましょうぞ!」
な、なんか良くわからないけど、彼が私に従ってくれるなら、願ったりだわ。
「……そう、許すわ、ワイズ。この私と共に人間を、いえ、この世界のすべてを支配するのよ!」
「ははーっ! 必ずや! このワイズ、アンジェラ様の野望の実現のため、知略の限りを尽くしましょうぞ!」
私が魔王ムーブを決めると、ワイズは歓喜に顔を輝かせた。
そのキラキラした瞳は、なんだか子犬のようで、思わず頭を撫でてあげたくなるほど可愛かった。
我慢できずに手を差し出すと、ワイズはお手をしてきた。
おおっ……も、もふもふの手が温かくて、気持ちいいわ。
「あ、アレは、犬獣人族の服従のポーズ……お手!」
「あのワイズ様が、あそこまで心酔されるとは……!」
「人間に慈悲を与えるなど、とんでもない愚行かと思ったが……アンジェラ様のお考えは、我らの想像を遥かに超えて偉大だったようだ!」
魔族たちは衝撃を受けていた。
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↑連載長編版を投稿しました。続きが読めますので、よろしくお願いします!