65話 稲守任三郎と新人教導任務②
(ちょっと焦ってる?それか、本当にわからないだけなのかもな)
加賀から貰ってる情報によると彼女らは2年という短い間に銃の訓練と討伐、動物の解体等を学んだからか、貪欲であり、少し焦っているように稲守は感じた。
ダンジョン調査はダンジョンの種類によって全てが変わる。
闘技場は戦うだけだし、塔は登って頂上を目指すのが調査員としての仕事だ。
一方洞窟タイプは未知数過ぎる。
洞窟なのに空があったり海があったり、渓谷のある山に出たりと正直やりたい放題すぎて稲守的には見る所は沢山あるし、採取にしろ生態調査にしろ、結局は山で生きた経験があるから出来たのかもしれない。
(まずは色々気になってもらわないといけないな)
考えた末に導き出したのが一緒に釣りをする事だ。
「ま、とりあえずほら、椅子もあるし釣り竿も持ってきてるから座りなよ。それにまだ魔力が回復してないだろうし、休むと思ってさ」
「「はぁ」」
結果早々に釣りのコツを覚えるなんて事も無く、稲守は合計14匹で、笹山と高須で8匹を釣り上げ、合計22匹の釣果となった。
「こんなものか、時間的には…お、運がいいな。岩山エリアの採掘隊もそろそろ帰る頃だし、イワシを一緒に持って行ってもらおうか」
「そんなことしたら彼等に釣果を取られるんじゃ…」
「うちもそう思う」
「ま、疑うってのは当然だね。けど一応彼等の任務でもあるからそこは信じてあげてよ」
「任務ですか?」
「そんな任務もあるんですね」
「ま、見てればわかるよ」
稲守は二人を連れて、岩山エリアへと戻ると、丁度出入口近くに採掘用のカートの前で端末を操作している採掘隊の人がいた。
「すみません、こちらもお願いします」
「了解しました。端末の配送アプリを起動してお待ちください」
「わかりました」
稲守は言われた通り配送アプリを起動して待つ。
「はい、えー、稲守任三郎さん、配送はそちらのダンジョンイワシでよろしいですか?」
「あぁ、そうだ、笹山さん、高須さん端末は預かってるよね」
「はい、えっと」
「そうだった。まず端末を開いて、同行者アプリを起動、俺の名前を入力してくれる?」
「「はい」」
「OK、えっと、稲守任三郎の釣果は14、笹山楓は4、高須芽愛里は4で手続きをお願いします」
「承りました」
稲守はイワシの入った籠を採掘者の人に預け、二人を連れて休憩用テントへと入る。
「あんな感じで、配送手続きができるんだよ。端末で証明できるからごまかしもできないし、それこそ横領なんてしたらもう採掘隊どころかダンジョンに係わる仕事ができなくなるんだ」
「知りませんでした」
「うちもっとダンジョンにいる人って自由なイメージがあった」
(自由だから採掘隊みたいな仕事があるんだがな…)
採掘隊になった人たちは大体が下の階層で絶望したり、大けがをした人が所属している。夢ではなく安定を求めた結果が、採掘隊であり上層での釣り師だ。
「良いかい?採掘隊だって自由な結果が生んだ仕事なんだよ。なら君たちは何ができるのかっていう話にもなるからね。調査員にだっていくつか形はあるんだよ」
「形?」
「?」
「正直に言おうか。死なない為に留まるか、死ぬかもしれないが進むかだ。それをこれから君たちには見てもらう。それを見て、君たちが何をしたいのか、どうしたいかが何か見えてくると思うよ」
今まで少しやわらかく、親戚のおじさん程度の印象だった二人は、急に変わった雰囲気につられて硬くなってしまう。
「そうそう、オークを甘く見てるようだから言っておくと、君たちそのままだと本当に死ぬかもしれないから、考えを改めた方が良い。ま、口で言っても説得力は無いだろうから、見て、感じてくれ」
そのまま一行は道中に一言も喋らず、オークエリアへと向かった。
「さて、あのオークを見てどう思う?」
エリア入口の向こう、反対側にはオークがこちらを見据えていた。
「えっとただのオーク?」
「越生で見たのと変わらないような」
オークは稲守を見た瞬間に、警戒度を上げ、重心を少しズラし、魔法と銃の両方に対応できるように戦う準備をしていた。
魔法か銃か、どちらでも対応できるように、右半身を少し前にしているのが見て取れる。
「ま、これから嫌でもわかるさ」
そういうと稲守はふらっとオークエリアに入る。
その瞬間、オークは地面を駆け出し、物凄い速度で突進をしかける。
体制は低く前傾姿勢のせいで、銃であっても魔法であっても、脚は狙いづらく、左右に動いたりフェイントをかけながら動き遠距離攻撃への対策もしている。
胴体と頭部も片腕で守り、稲守を逃がすまいと見つめながら走るオークが、稲守に触れる距離まで来た瞬間、詠唱をしていた稲守は魔法を行使する。
「脚、強、身体強化弐式」
稲守は身体強化の脚部強化版である弐式を行使し、オークの突進を上に跳躍して避ける。
オークは突進の勢いそのまま方向転換、稲守の遠距離攻撃を警戒しながら再び走り出す。
「火炎付与、貫け魔弾、炎」
稲守は着地と同時に、右腕を砲台として、魔弾を放つ。
「ブモオオオオオオオオオオオ!」
燃え上る炎の弾がオークに飛来するが、オークは咆哮を上げ魔力を放出、魔弾の威力を減衰しつつ殴りつけ無効化し、再び走り出し肉弾戦をしかける。
「二連十字、風刃弐式」
手刀を振り抜き風の刃を打ち出すと同時に、稲守はその陰に隠れるように走り出す。
避けたら稲守の攻撃の対処に遅れる、しかし避けないと切り裂かれる状況だ。
オークは左腕を犠牲にして風の刃を受け切る判断をした。
「ブモオオオオオオオオオ!」
先ほどと同様に咆哮を上げ魔力を放出するオーク。
魔力を放出し威力を減衰させた両腕をクロスさせて防御、なんとか稲守の攻撃を防ぎ様子を伺おうと腕の間から稲守を探すがいない。見失ってしまう。
「ブモォ?」
「掌底爆破」
いつの間にか背後に回っていた稲守の掌底爆破が直撃、オークは胴体に風穴を作り絶命、魔力となって霧散した。
稲守は報酬部屋には行かず、何事も無かったかのように二人のいる通路に戻る。
「さて、今日は一度戻って考えると良い。オークは本当に簡単なのか、他のダンジョンで戦ったから大丈夫なのかをね」
「「…」」
「急に言われてもって顔をしているね。けどそれを考えないといけない。相手はなんだ、どんな攻撃をする?魔法は?銃は?じゃあそれがまた同じ様に効果的だとどうやって証明する?簡単だよ。何回も何十回も入るんだ。調査というのはそういうことさ。それにね。今君たちが考えてる時間、その時間だけで君たちは死ぬ可能性がある。それを肝に銘じて欲しい」
(ちょっと厳しかったかな。死なれても嫌だけど説教なんてもっと嫌だしガラじゃないのに)
頭を搔きながら、二人に報酬をもらってくると伝え、時間を与える。
ポーションを宝箱から取り出し、エリアに戻ると、二人は何か言いあっている様子だ。
「この距離をあの速さだとどう?当てられる?」
「当たるだろうけど無理、避けないと多分死ぬ」
「身体強化だとどう?」
「正直稲守さんみたいにすぐ動くとか無理…あ、帰ってきた」




