63話 笹山楓と高須芽愛里⑬
「あの私は高須ですが…」
メアリ―・スー。
物語や二次創作において、理想化され不自然に活躍するキャラクターの名前で、1970年代に乱発された創作作品によくある、非現実的なまでに有能であり、人気者な主人公の代表みたいなものだ。高須芽愛里はこのことを知らず、謎の声が何を言っているのかわからない。
『あぁそうか、高須ね、まぁ知らないならいいや。それでは最初の相手は…あれ?マジで?ごめんね、ゴブリンがちょっと今品切れで、相手はこの子になるんだすまないね』
反対側から出てきたのは、オークだ。
先ほど楓と戦った、豚の頭に2m程ある巨躯、脂肪の鎧を身にまとっている。
『で、どうする?本当に品切れでさ、20分ぐらいすればゴブリンの入荷が間に合うんだけど、って、あ、ごめんね。オーク君待ちきれないってさ。それではメアリちゃんの第1回戦!人魔ファイト!レディーーーーーー!ゴーーーーーーー!』
突如始まったオークとの戦闘。
小銃を操作し、オークに向けてトリガーを引く。
セミオート射撃による弾丸を笹山との試合とは違い、オークは真横に転がって回避した。
(映像で見たのと同じ動き!)
稲守の戦う映像、加賀が戦う映像を何度も見返し、動きまで再現してもらったロボット隊の協力によって、高須はオークを倒すまでのシミュレーションが既に脳内に出来上がっていた。
射撃モードをバースト射撃に変更し、あえて距離を詰めつつ精密な2連射。
向かってくる高須に対向しようと接近の為に立ち上がろうしたところに、膝に弾丸が6発命中、膝を破壊されてしまう。
「ブヒャ!?」
片膝を完全に破壊されるが、闘志は失っておらず、なんとか腕を支えに壊れた脚で立ち上ろうとするオーク。
しかし、動きの止まったオークは、ただの的だ。
銃弾がオークの肩を撃ち抜く。
そしてとどめ。
フルオート射撃によって頭部を破壊されたオークは光の粒子となって霧散した。
『えー、勝者、メアリーーーーーーー。次から2階層相手なので、頑張ってねー。はぁメアリ―…って本当にいるんだ…。コワスギほんと』
テンションの低い謎の声を聞き流し、高須は出口に戻り、観客席へと移動する。
魔法も切れ、疲れた身体に鞭をうち、報告する。
「オークの討伐達成しました!」
「やはりオークでしたね。闘技場型ダンジョンはこのように相手によって出してくるモンスターを変更する傾向にあります。高須さんはすぐに休むように。では続いて、八澤朋美訓練生、準備を」
「は、はい!」
続いて、八澤朋美が戦闘エリアへと入る。
相手はどうやらゴブリンのようだ。
銃は訓練生用に採用されているアサルトライフルで、アタッチメントはレーダーサイトにドットサイト、バナナマガジンとほぼ標準仕様だ。
向かってくるゴブリンに向けて射撃をする八澤訓練生。
何発か外すも、胴体と頭部に弾丸が命中、ゴブリンを倒し、2回戦へと進んだ。
2回戦目は笹山と同様のハイゴブリンだが、胴体に撃った弾丸が弾かれてしまい、ハイゴブリンの魔法あらしきものの行使を許してしまった。
短剣のリーチが伸び、焦る八澤訓練生。
急いで脚部身体強化を行使し、なんとかハイゴブリンの攻撃を避ける。
長くなったリーチの短剣に慣れていないのか、振り下ろした時に伸ばしたリーチ部分が地面に刺さり抜けなくなった所に八澤の射撃が頭部に命中、なんとか2回戦をクリアした。
戻ってくる時間が少しかかったがなんとか観客席にたどり着き、座り込んでしまう。
試験官からは合格を貰い、続いて堀田雅人訓練生の番となる。
おおとりになってしまった堀田は少し緊張するが、危なげなくゴブリン、ハイゴブリンを倒し、千葉調査員訓練生2名、栃木調査員訓練生2名の計4名は実地訓練の合格を貰った。
最終採点については、録画した映像を審査員と見ながら行われ、都度審査員の質問に答え必要がある。一行は越生ダンジョンに来た時と同じようにヘリコプターに乗り、訓練所へと戻った。
「それでは最終評価及び合否判定を行います」
評価は挑戦した順番通り、笹山からだ。
一人ひとり審査員のいる部屋へと入って審査を受けるようだ。
部屋に入ると、3人の審査官が座っており、笹山は促されるまま、離れておかれた椅子へと座る。
そしていつのまにか録画していたのか、部屋にあるディスプレイに笹山が戦った時の映像が映し出された。
順調にゴブリン、ハイゴブリンを倒す笹山に文句が無いと言った様子の試験管。
そしてイレギュラーになるエキシビションマッチの映像となる。
「笹山訓練生、戦ってどうだった?反省点はあるか?」
「正直、油断したら死ぬなと思いました。けど、臆せず冷静にすれば勝てると教わりましたので訓練通りの力が出せたと思います。反省点はフルオート射撃で最初から撃てればよかったのですが、安定を求めてバーストにした所です。」
「なるほど、では、私からは減点無し」
「同じく減点ありません」
「では私から一つ質問が」
手を上げたのは女性の高官だ。
「調査員になって何がしたい?」
そんな事正直考えもしなかった笹山。
少し考え、出した答えは。
「出来る事をしたい、でしょうか。まだ私には何ができるかわかりません。今調査している人みたいに何ができるかは今はわかりません。だから、確かめたいんです。自分がどこまで、何ができるのか」
「そうか。わかった。私も減点なし、おめでとう、君は合格だ」
「ありがとうございます!」
部屋から出て、次は高須の番だ。
高須の場合は、オーク一戦のみ、審査官の判断によって、オーク討伐ならば合格という事になっている。
「ふむ、いい反動制御だ。腕部限定身体強化も使いこなせている。それにオークをよく見ている。私からは減点なし」
「同じく」
「では私から。調査員になって何がしたい?」
高須も笹山と同様に考えた事もなかったのか、少し考え込む。
「正直、考えた事が無い事なので、今咄嗟に思った事なのですが、私は何ができるかまだ知りません。銃の使い方、モンスターの戦い方はわかっても調査をするのに何をすべきかってのは教わっていません。だから色々試したいです。見たことのない景色、初めてみる生き物、何があって、私に何ができるのかを」
「そうか。私からも減点無し、合格とする」
「ありがとうございます!」
そのまま退室して、八澤訓練生と、堀田訓練生が続く。
二人とも合格を貰ったようで、表情も明るい。
そのまま卒業式が始まるのか、4人は隊員に連れられ、会場へと向かう。
会場には先ほど審査した審査官3名と教官の2名がすでに席に座っていた。
4人は同じ様に用意された椅子に座り開始を待つ。
「それではこれより、第一期調査員訓練生卒業及び調査員任命式を始めます」
学校の卒業式の様に代表の挨拶や各教官からの一言、卒業証書の授与を行い、最後の挨拶となる。
最後の挨拶は審査員の一人である、全員に同じ事を聞いた女性隊員だ。
「訓練統括管理、監修をした轟三等海佐だ。さて、諸君は再来月から、調査員として活動する事になる。これから厳しい事を言うようだが聞いて欲しい。今までとは違うぞ。調査員として結果を出さなければならない。ダンジョンからの資源は今、人々の生活に根付き始めている。結果を求める余り怪我をする事もあるだろう。死ぬ思いどころか本当に死ぬかもしれない。しかし、私たちは助けに行くことはできない。だから、どうか生きて、結果を残してほしい。君たちのこれからに期待する。以上」
こうして、正式に学校を卒業した調査員の第一期生が誕生した。
卒業生は全国で僅か14名と少ないが、自衛隊でも、当初の強制的に任命した調査員とは違い、訓練を満足に行った学校を出ての調査員のこれからに世間は期待した。
何を為すのか、未だに調査され続けるが、常に人不足の調査を若い子達がどこまで出来るのか。
そして、卒業生が2ヵ月の休息と準備期間を終え、現役調査員達と共に、生死を天秤にかけたダンジョンの調査員としての活動が始まった。




