61話 笹山楓と高須芽愛里⑪
結局、卒業試験参加予定の7校の内、5校で不正が発覚、参加校は2校にまで減ってしまった。
内容は様々で、訓練課程の未達成及び評価改ざんが2校、破壊工作が1校、残り2校が替え玉という内訳だ。
翌日、2人は宿泊所から車に乗せられ、訓練場へと移動する。
保管所で銃を受け取り、前日にも行ったように点検をした。
異常は無く、試射も行って試験会場へと移動すると、残った他校がいるはずのそこには生徒は居らず、評価するのであろう40代~50代の男性2人と30代ぐらいの女性が一人、そして銃を持った隊員が10名程、警備のためか囲むように配置されていた。
「ダンジョン庁千葉支部、千葉調査員訓練校教官加賀一等陸尉です。笹谷楓訓練生、高須芽愛里訓練生の卒業試験の為、連れてまいりました」
敬礼する加賀に続いて、ビシっと敬礼を決める2人。
「試験官を担当する陸上自衛隊金山少佐です。本日はよろしくお願いいたします。受験者の2人はここで待機してください。加賀一等陸尉は下がってください」
「はいっ」」
さがる加賀を見送り、佐川一等陸佐は2人と向き合う。
「さて、本日ここ、入間陸空自衛隊合同訓練場にて、第一期調査員訓練生卒業試験を行います。参加者は4名ですが、2名しかいません。誰か説明を」
航空自衛隊の隊服を着た女性1名が、前に出て敬礼する。
「入間航空自衛隊駐屯地、小野2等空尉であります」
「説明を頼む」
「はい、本日、参加予定の栃木調査員訓練校訓練生を乗せた車両に不具合が見つかり、到着に遅れが出るとの報告がありました。到着予定時刻は1005です」
「わかりました。では、先に千葉調査員訓練校、笹山楓訓練生、高須芽愛里訓練生は、保管所にて使用する自動小銃と訓練用弾倉を受け取り、案内に従って第一射撃訓練場に移動してください」
「「はい!!」」
2人は入間航空自衛隊の隊員に連れられ、言われた通り保管所で銃を受け取り、いつも通り点検を行う。
「弾倉はこちらを」
管理している隊員から弾倉を受け取り、第一訓練場に移動する。
道中とても焦った訓練用の隊服を着た2人と、自衛隊の隊服を着た男性が走るのを横目にみながら、笹山と高須は訓練の為に集中する。
到着すると、自衛隊の隊員が2名程いて、2人はそれぞれ別のレーンへと案内された。
「これより笹山楓訓練生、高須芽愛里訓練生の射撃訓練試験を行います。合図と共に的に向かい射撃を行ってください。合格判定は、ターゲットの7割以上の破壊になります。準備ができましたら、手元のボタンを押してください」
2人は弾倉を装填し、セーフティーを解除、笹山は単発モードに変更してからボタンを押す。
ビ、ビ、ビー!とブザーによる3カウント後、試験が開始される。
2人は上下左右の4方向から出現する的を正確に撃ち抜いていく。
途中予定になかった人と書かれた的が出現するが、破壊する事なく標的であるターゲットを全て破壊、ブザーと共に試験が終了する。
「試験終了、続いて、第2射撃訓練場に移動してください」
「「はい」」
2つ目の試験は、同様にターゲットの破壊だが、平地ではなく、小さい山や、岩に見立てたオブジェクトが置かれ、制限時間内にターゲット3つの内2つ以上を捜索しつつ破壊するというものだ。
広さは500㎡程だが、ターゲットは三つしかないが、制限時間は2分と短い。
脚部限定身体強化魔法を前提としている為、いかに魔法の時間制限内にターゲットを探し出せるかが肝となる。
先ほどと同様にボタンを押してからスタートのようで、タイミングを合わせるように詠唱を始める。
「それでは試験2種目、捜索及び撃破訓練を始めます。1種目めと同様に、任意のタイミングでボタンを押して開始してください」
試験場は3ヵ所あり、その内の2つを使うようだ。
入口に立ち、先ほどと同様に銃を確認しつつ、脚部限定身体強化を詠唱する。
ちなみに魔法の使用の有無は試験条件に無く、加賀が問合せしたが許可が下りたので問題はない。
魔法の行使と同時にボタンを押して試験を開始する。
ブザーと同時に前傾姿勢になり、地面を蹴り走り出す2人、小さい山の裏、岩の裏、そして3つ目であるスタート地点近くに置かれたターゲットを30秒ほどで破壊、スタート地点に戻り、合格判定を貰った。
試験3種目は闘技場ダンジョンでの実地訓練だが、遅れてきた2名がようやく準備ができたようでそれを見学する事になった。
「これより堀田雅人訓練生、八澤朋美訓練生の射撃訓練試験を行います。合図と共に的に向かい射撃を行ってください。合格判定は、ターゲットの7割以上の破壊になります。準備ができましたら、手元のボタンを押してください」
「「はいっ!」」
二人は少し緊張しているのか、やはり加賀の情報通り武器の点検の仕方を満足に教わってないのか、確認不足のまま、銃を操作している。
準備が終わり、二人がボタンを押すと同時にカウントダウンが始まり開始のブザーが鳴る。
全てのターゲットの破壊はできなかったが、8割程破壊に成功し、合格判定を貰い次の試験へと移行した。
「それでは試験2種目、捜索及び撃破訓練を始めます。1種目めと同様に、任意のタイミングでボタンを押して開始してください」
二人は少し不安そうな顔で、準備を始めるが、少し様子がおかしい。
2種目は的が小さく、走り回る必要があり2分という短さは身体強化魔法が無いと厳しい。
詠唱もせず、魔法の行使もしないまま、二人はボタンを押して試験を開始する。
走り出して気づいたのか、堀田雅人訓練生は深呼吸して冷静さを取り戻しながら魔法を行使、1分30秒かけてターゲットを三つ破壊した。
一方八澤朋美訓練生は魔法の行使をせず、2分かけてどうにか2つのターゲットを破壊、両者ともに合格判定を貰うことができた。
最初に集まった場所に全員集合し、試験の途中結果が発表された。
笹山と高須は減点無しの持ち点30点を残し、堀田雅人訓練生は焦り、点検の不足で5点減点され、八澤朋美訓練生は1種目にターゲットの破壊が合格ギリギリだったこと、命中精度の不安定さ、点検の不足によって、7点減点となり、持ち点は21点となった。
3種目の実地訓練のため、4人は輸送ヘリに乗り、越生闘技場ダンジョンへと向かった。
闘技場ダンジョンはヘリポートの他に、常駐している航空自衛隊が使う監視用の小屋や監視カメラがあり、空の監視としての利用もされている。
ヘリから降りると、試験官から説明が行われる。
「これより3種目目、実地訓練を開始します。試験は笹山楓訓練生、高須芽愛里訓練生、八澤朋美訓練生、堀田雅人訓練生の順で行います。闘技場ダンジョンでは左側の選手用ゲートに入れるのは1人のみ、ゲートに入ると、通路があり、先へ進むと戦闘エリアがあります。中に入るとアナウンスが鳴るので、2回戦目まではアナウンスに従ってください。3回戦目は挑戦せず、ゲートに戻り、闘技場ダンジョンの観戦者ゲートへ来てください。何か質問はありますか?」
「無さそうですね。では、整備用テントで実弾の弾倉を受け取り準備をお願いします。」
「はい!」
4人は整備用のテントで銃の確認と、実弾の入った弾倉に弾を込める。
笹山と高須にとっては慣れたものだが、先ほどより顔色が悪いと言っていいほど、不安そうな顔をする八澤と堀田。
他人の心配をしている場合ではないため、二人は集中する。
点検を終え、テントから出て闘技場へと向かった。
見た目は完全に資料等で見たことあるようなコロッセオの形をしているが、細部で装飾なのか見たことのない文字などが見られる。
試験官に言われた通り、笹山は選手用のゲートである左側の通路を進むと、10mほどで闘技場中央への出口が見えてきた。
(冷静に、正確に、恐れず、目を背けない)
教わった事を頭のなかで反芻しながら歩を進め、銃のセーフティを解除し、射撃モードがバーストモードになっている事を確認し、出口をくぐる。
出口の先には円形に広がった戦闘エリアが広がっていた。
『さぁ、本日の挑戦者は!?…ってあの、あ、えっとそこの君、初めてだよね?お名前は?』
どこからか声が聞こえてくる。
「うちは笹山楓」
『楓ちゃんね。君可愛いね。スタイルも良いし、最下層まで来たらお茶でも…ってそうだそうだ。楓ちゃんは初挑戦なので、1階層相当との戦いになります。相手は我らがモンスター軍団、鉄砲玉、捨て駒、囮兼餌等散々な言われようの、ゴブリンの登場だ!』
反対側の出口から、一体のゴブリンが闘技場へと入ってくる。
見た目は完全に飯岡ダンジョンのゴブリンと同じで、手にはこん棒を持っている。
お互いの距離は20m程離れているだろうか。
『それでは両者構えて、人魔ファイト!レディー!!!!ゴーーーーーーーーーーー!』
カーン、と始まりの合図が闘技場にこだまする。




