59話 笹山楓と高須芽愛里⑨
加賀としても千葉調査員訓練校としても現状では時間を無駄にすると考え、2人を自衛隊の訓練に同行させるのはどうかと考えた。
訓練校の規則には、プログラム終了後から卒業までは個人の自由とされているのを逆手にとっての提案だ。
笹山と高須は時間を無駄にするよりか遥かに良い提案に了承し、残りの5ヵ月間を自衛隊として過ごす。
訓練校の時よりも濃密で過酷な訓練になんとかついていく2人。
千葉の山林での行軍訓練や自衛隊が使っている自動小銃による訓練等様々だ。
ロボット隊も協力してくれて、大型ロボットによるオーク想定の訓練をしたり、2人は順調に成長していく。
そんな毎日を過ごす中、とあるニュースが舞い込む。
それは調査員訓練校の生徒が合計で20人を切ったというニュースだ。
原因は、石川県を筆頭に、訓練プログラムに遅れが出ていた訓練校での過度な指導や訓練をした結果、自主退学が相次いだことだ。
リークしたのは自主退学した生徒、それも全国放送の番組でだ。
~テレビ 10ch 正直バラエティ第30話 調査員訓練校の実情~
「皆さま、お久しぶりです。MCのフリーです。放送の再開と第30話を記念として、今皆様が気になっている、調査員訓練校について本日は触れていきます、我々は生徒とのコンタクトを取る事に成功し、自主退学という重い決断をした生徒の一人を招待しております。ジョンスミス30番さん、音声は聞こえているでしょうか」
『問題ありません。クリアに聞こえております』
「今回MCを務めさせていただく、MCのフリーです。よろしくお願いいたします。」
『よろしくお願いします』
「では、ジョンさんに質問する前にですね、我々が独自に集めた情報をこれから出して、ジョンさんに真偽の確認をさせていただきます」
背面にあるディスプレイにスライドが表示される。
「まず、調査員訓練校は、政府主導によるダンジョン調査の人材不足を補う目的として、各都道府県に作られた調査員の育成を目的とした教育機関です。2060年4月1日から開校し、期間は2年、体つくりと座学、戦闘訓練を経てダンジョンに潜り魔法を取得するまでが基本プログラムとなっています。対象者は、18歳以上かつ、高卒認定を受けているもので、ダンジョン調査員認定を受けたものが対象になります。続いて、訓練生の一日をご覧ください」
スライドが切り替わり、グラフが表示される。
「これは一日のスケジュールを円グラフにしたものになります。さて、左側と右側に分かれていますね。これはとある日を境に、左側から右側に内容が変わったそうなのです」
左側のグラフでは、7時起床、8時30分から12時、13時から17時までが訓練となっており、それ以外は自由時間だったり睡眠時間が書かれていた。
一方右側のグラフでは、5時起床、6時から21時まで訓練一色になり、30分程食事休憩があるだけで、自由な時間は21時から22時まで、他は睡眠時間になっている。
「これを見た時、私は開いた口がふさがりませんでした。以前当番組で紹介しました、ブラック企業の回に使われたグラフとほぼ同じ内容なのです。精神にも、肉体にも負荷を強いる悪魔のスケジュールです。ジョンさんはどう思いましたか?」
『そうですね…。正直、スケジュールが変わってからは教官も変わってしまい、手を出される事は無かったのですが、訓練が一行に進まず、とても辛かったです。』
続いて、訓練の内容のスライドへと移行する。
「ジョンさん、この訓練項目の度胸試しとはどのような内容だったのでしょうか」
『他の訓練校と同じかはわかりませんが、私がいた訓練校では紐に繋いだセンサー付きのクッションを振り子のように高い位置に持ち上げてから話して、迫りくるクッションをギリギリで避けるという訓練でした』
度胸試しは各訓練校によって異なり、多くはテレビに出演している訓練生のような、クッションや野球ボール等、比較的安全な方法が取られている。
「それは一体どのような目的でしょうか」
『わかりません。教官が言うにはこれができないとモンスターに挑戦なんてもってのほかだと言われてやらされましたから』
「なるほど、このように、訓練には目的を知らされていないものもあるようです。このスライドに表示されている訓練の中で、印象に残っているものはございますか?」
『そうですね…自分が挫折といいますか、クリアできなかったものがあります』
「ほう、1年以上も訓練してなお、できない事でしょうか」
『はい。精密連続射撃訓練です。自衛隊の隊員ですらクリアするには時間がかかるものを元民間人の私たちがクリアなんて…』
「正直、どのような訓練なのか我々の頭では想像できません。そこで、ジョンさんに協力して頂き、3Dアニメーションにて再現させていただきました。こちらの映像を御覧ください」
画面が切り替わり、画面には訓練場を模したであろう3Dモデルと銃を持った男性のモデルが表示された。
「訓練生はこの窓から、動く的に向かって銃を撃つそうです。時間は30秒、的は10個、動く的は想定よりも早く、左右に、上下に、斜めにと縦横無尽に動き周るそうです。確かにこれをたった1年で達成しろというのはいささか厳しいように思えます」
以前とは違い、ほぼ事実を元にしているだけあってかこれを疑う人も少なく、関係のない者も含め、静かだったマスコミが再び騒ぎ出す。
この情報が事実なのか、嘘なのかを知るべく、知る権利を盾に訓練校の取材が計画された。そんな中、複数の大手テレビ局が各地方に問いかけをしている中、千葉テレビによる独占インタビューを放映をするとの情報が舞い込んできたのだ。
~千葉テレビ 特番:独占、調査員訓練校取材 19:00から放映~
「リポーターの曾山です。本日はなんと、あの調査員訓練校への独占取材に来ています!皆さんが覚えているかはわかりませんが、わたし曾山は、一度調査員認定を受けました。しかし、親族がいるという事で調査員にはなれませんでした。もしそのまま調査員になっていれば、ここで訓練をしていたのでしょうか。さて、私の話はここまでにして、これからこちらの陸上自衛隊、一等陸尉の後藤陸さんが校内を案内をしてくれるようです。本日は宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
「後藤さん、本日は何を見せて頂けるのでしょうか」
「はい。訓練生の一日という事で、本日の訓練を私と一緒に見学をして頂きます。中へどうぞ」
カメラマンが映像を写しながら訓練校へと入っていく。
千葉の訓練校は、廃業した宿泊施設をベースにして、訓練施設が併設されている為、皆が想像するような学校とは違う映像が流される。
「中は結構広いですが、学校とは違いますね」
「そうですね。元はホテルだった場所を改装したと聞いております」
施設前のタクシー乗り場を横目に裏手へ移動し、一行は訓練場へと向かう。
「ではまず、身体チェックをさせていただきます。カメラマンの方も」
一度訓練校に入る前に行っているのだが、念の為だ。
女性隊員と男性隊員によって2人はくまなくチェックされ、異常が無い事が確認されたのか、中への扉が開かれる。
扉が開くと、今まで聞こえなかった銃声がいくつも聞こえてきた。
「ここでは現在、訓練生が射撃訓練を行っています。事前にお話しました通り、訓練中に声をかけるのは集中力を妨げるばかりか危険も伴いますのでご注意を」
「わかりました。それでは皆さん、これは日本初の映像になります。静かに声を抑える事を心がけ、進みましょう」
ドン、ダダダダと発射音が聞こえる中、射撃訓練場へと歩を進める。
「ここは精密射撃訓練を行っている訓練場になります。現役の隊員も利用しており、移動するターゲットに向けて射撃を行う事で、命中精度の向上と継続精密射撃、さらには素早い弾倉の交換訓練を同時に行えます」
案内されたのは訓練生が実際に訓練しているレーンだ。
2人の若い女性が、訓練用の隊服を身にまとい、射撃を行っている姿が映し出される。
ビーという音と共に、ターゲットが出現。
それを正確に中央の赤い点に連続で命中させていく。
2人とも一度も外さず、制限時間内にクリアしたが、休憩を挟まずに弾倉を素早く変え、再び同じ訓練を続ける。
ターゲットは先ほどとは違う場所に現れたり全く違う動きをするが、2人は正確に撃ち抜いていく。
「後藤さん、彼女たちは訓練生との事ですが、あのような射撃ができるまで、どれほどかかりましたか?」
「この訓練を初めてからでしたら、およそ6ヵ月程になります」
「6ヵ月、自衛隊の隊員の皆さんはどのくらいでできるようになるのでしょうか」
「私は1週間、銃の扱いが得意な部隊は3度目にはクリアしていましたね」
「なるほど、では6ヵ月というのは時間がかかっているのでしょうか?」
「それはわかりかねます。比較もできません。しかし」
「しかし?」
「彼女らは訓練意欲もあり、真面目で、向上心もあります。何度も射撃のコツを隊員に聞いては訓練を繰り返していたので、的の在庫が一度無くなったくらいです。なるべくしてここまでの実力を得る事になったと思います」
すると、後藤陸尉は銃が置いてある保管場所へ向かい、管理している隊員からあるものを受け取る。
「こちらは実際に使われる銃を模した模擬銃です。重さ、形、操作感は全く同じですが、実弾用の弾倉は装着できないようになっています。持ってみますか?」




