57話 笹山楓と高須芽愛里⑦
「ゴブリン死亡確認!討伐完了しました!」
「2人とも合格!」
「「やったー!!」」
笹山と高須は抱き合い、互いの結果を喜ぶ。
「これならサハギンも問題無いわね。どうする?一度戻る?それとも」
「もちろん!」
「先へ行きます!」
続いてサハギンの討伐へと向かう、筈だったが、ゴブリンの討伐証明をはぎとるのに慣れる必要がある為、加賀は2人にもう一度、ゴブリンを倒してもらう事にした。
鹿や狼を相手に訓練をしていたため、加賀の要求を難なくこなした2人はゴブリンの耳を削ぎ、腰にぶら下げている収集袋に入れ、先へと進んだ。
「サハギンはゴブリンより倒すのは簡単。ただし、精密射撃が出来る事、ゴブリンと違い、こちらを見て、明確に怒りを含んだ威嚇をしてくるから、それに恐れない事。訓練通り冷静に射撃することが重要」
「「了解!」」
教本の通りに空の薬きょうを池に投げ入れ、出てきたサハギンを冷静に対処した2人は、オークを一目だけ見ようと加賀に提案する。
「そうね。一度見ておいた方がいいかも。いい?絶対にエリアに入らない事。それと声を出さないようにね」
通路を進み、岩山エリアに進む。
「ここは休憩エリア兼採掘場になってるの。ここの鉱石は一度採掘すると36時間が経過したら同じ場所に同じ量の鉱石が現れるのと、モンスターが出ないからオークと戦いたい人が待機したり、訓練したりするのに使われるわ」
エリア内には、休憩用にシャワー用、宿泊用のベッドがおかれたテント等があり、見渡す限り6人程が採掘作業をしていた。
「ちなみに彼等は貴女達と同様にゴブリンとサハギンを単独で倒してここまで来てるの」
「「へー」」
岩山エリアを抜け、オークエリアの手前に着く。
エリアには入らず、覗き込んでみると、反対側に二足歩行の豚が立っていた。
「あれがオーク。ゴブリンとサハギンみたいに攻略法は無くて真向勝負のみ。じゃあ行ってくるから、絶対にエリアに入らない事」
エリアの向う側には2足歩行の豚がじっとこちらを見つめていた。
「はい!」
「了解!」
加賀は魔法は使わず、彼女たちが使うライフルと同じ物を持ってエリアへと入る。
「ブモッ…・」
(久々のオーク、やっぱ威圧感凄いわね)
加賀はエリアに入った瞬間、オークの胴体に狙いを定めトリガーを引く。
ダダダン。
3点バーストモードでの射撃は、瞬間火力が高く、連射速度の高いこの銃であれば、フルオートでの静止射撃とは違い動き出しも早い。
オークはなんとか1射目回避するが、2射目、3射目を狙いを腕や脚に狙いを分散させた射撃により動きを脚に被弾、動きが制限されてしまう。
両腕で急所である胸部と頭部を守るようにクロスガードをしながら決死の突進をしかけるが、生きている脚を撃ち抜かれ転倒、無防備となった頭部に止めのフルオート射撃によって絶命、光の粒子となって霧散した。
(この銃いいわね…。反動も少ないし、身体強化ありきなら片腕で撃てるかも)
「2人とも!まだそこに居てくれる?直ぐに戻るから!」
報酬部屋に入りポーションを回収して戻ると、笹山と高須は端末で撮影していたのか、戻ってきた加賀に気づかず、録画した映像を見返していた。
「ほら、やっぱちゃんと見てるよ」
「マジ?でも膝壊せるなら行けるくない?」
「んー、でもほら一射目避けてるよ?2射目も教官ぐらいの精密速射じゃないと避けられるかも」
「教官の狙い完璧じゃんなにこれ」
「ね、凄いね」
「何見てるの?」
端末に夢中の二人を邪魔しないようにと思ったが、このままだとずっと映像を見返していると思い、声をかける。
「ん?…あっ」
「ただいま、2人とも」
「「お、おかえりなさい」」
「さっ、荷物片付けて戻りましょ。それにオークとの戦い方なら資料室にも沢山あるし、帰ってからみようね?」
「はーい」
「はい教官」
こうして、訓練校の想定より早い段階で、当初の第2目標を達成した2人は、最後の目標である、身体強化魔法へと進む事になる。
身体強化魔法は現在、腕部限定、脚部限定、全身強化である通常の身体強化魔法に加え、弐式、参式、四式と段階が存在する。
サハギン討伐時点では部分的な強化までで、しかも回数、もしくは時限式までしか行使ができない事がわかっている。
「さて、2人にはオークに備えて腕か脚限定の身体強化魔法を使って、慣れてもらいます」
「はい教官」
手を上げたのは笹山だ。
「身体強化ってあのゲームとかにあるあれですか?」
「なりたい系じゃない?」
なりたい系とは、作家になりたいという小説の投稿サイトで投稿された作品の事で、今この現実に起きているように現代にダンジョンが現れる作品等が無数に存在している。
「私はそういうの知らないけど、開発者曰く、脳のリミッターを解除して、魔力によって身体を保護する魔法みたい。身体にかなり負担があるし、自衛隊の隊員ですら慣れるのにそこそこ時間が必要なくらいにはすごい魔法よ。それに階層をあげれば肉体も強化されるのもわかっていて、身体強化魔法で強化された身体を保護しつつ全力で動けるようにする感じらしいわね」
「私のイメージだと使えば強くなるみたいな単純なイメージでした」
魔法と言えばアニメや漫画で見る限り、身体を強化する魔法にそんな描写はほとんど無い。直ぐに使って物凄い速さで動いたり力が強くなったりするイメージだ。
「うちはそういうのわからない」
一方あまりそういう作品は読まない笹山。
「身体強化は一度体験するのが良いかもね。これから言う言葉一字一句間違えないで言わないと発動しないか、効果が変わったりするから注意してね。最悪魔力枯渇で気絶する可能性もあるから」
加賀は深呼吸して、なんども読み上げて覚えた魔法、脚部限定身体強化魔法を行使する。
「魔、脈、血、流、脚、限、魂、剛、柔、鋼、皮、筋、伸、制、解、護、耐、四拾、時、脚部限定身体強化!」
心臓がドクンと音が出たのではないかという程の圧を感じると同時に、心臓から血管を通じ、魔力が下半身に送られる。
筋繊維、腱、細胞の一つ一つに魔力が纏わりついていく。
体内に感じる圧力と、熱など発しないのにじわじわと熱のようなものに耐えつつ、2人には何事も無いように見せるが、慣れている加賀でも次の行動に少しだがタイムラグが生じる。
「見た感じだとわからないけど、こうやって飛んでみると」
トンと加賀が地面を蹴り跳躍すると、通常の人間の跳躍力を遥かに超え、6m程ある訓練場の天井まで手が届く。
何事も無かったかのように着地する加賀に開いた口が塞がらない2人。
「ま、効果はこんな感じかしら。腕の場合は、反動制御を重視してるから腕力が上がるわけじゃ…」
呆然を見つめ、声を発しない2人。
「どうしたの?」
「「すごーーい」」
声が重なる2人。




