56話 笹山楓と高須芽愛里⑥
『始める前にちゃんと自己紹介、あーしはキュー、ちゃん付けて呼ばないとマジだからそのへんよろしく』
「笹山楓です!」
「高須芽愛里です!」
『じゃー2人とも、銃構えてー、そうそう、そのままね。重いだろうけど、数秒の間だから』
シトーは銃を2丁構え、2人に向ける。
『じゃ、始めるね。最初は2連射。怖いだろうけど動かないでね』
ババンと、タイミングが少しズレた2連続射撃、弾丸が2人の右肩スレスレに通る。
「「うっ・・!」」
いくら当たらないと言われても怖いものは怖い。弾丸が真横を通った瞬間、風を切る音によって身がすくみ、身体がブレる。
『ほらー、動いたらダメだって』
タイミングをズラしながら、脚、頭上、右、左と銃撃をするが掠りすらしない。
2人は目をつぶらないようにと気を張るが、どうしても身体が動いたり目をつぶってしまう。
『んー、ふたりともーちょっといいー?』
1マガジン分を打ち切り、弾倉を交換しつつ2人に話しかける。
「は、はい」
「はい…」
銃を構え続けながら動かないというのは予想以上に辛いのか、2人は思っていた以上の疲労感を感じた。
『いつ来るかわからない弾の事じゃなくて、いつあーしが銃を撃つかをみないと、ずっとこわいまんまだよ?それとめありっち、銃を下げないで上げておかないと直ぐに撃てないよ、ささっちも膝が伸びきってる。ちゃんとかまえないと次の行動ができないよ?ほら続けるよ!』
徐々に口調が荒くなるキュー。
実はトリガーハッピーな面もある為、気性が荒いのが玉に瑕。
マガジン3本分同様の事をして、一度休憩を挟む。
『じゃ一回休憩しよっか、加賀っちー、2人を一回戻すわ。正直うちよりシトっちの方が厳しいから。休まないともたないよ』
「「りょ、了解」」
重度のストレスと弾丸が当たり怪我するかもしれないという恐怖にさらされた2人は、歩こうとするが力が抜けてしまったのか、しゃがんだまま立ち上がれない。
『あーやりすぎたかも、シトっちー2人運ぶから手伝ってー!』
『わかりました。私が芽愛里様を、キューちゃんは楓様を』
『りょー、2人とも動かないでねー』
「はい…」
「ありがとうございます…」
キューとシトーに抱えられ、訓練場に新たに設置されたカフェスペースに運ばれる。
椅子に座らされ、加賀が2人前にスポーツドリンクを置き一息つく。
「どう?」
「来るとわかっても…」
「難しいかも…」
「ま、いきなりやれって言われたらそうね」
加賀も席につき、買ってきた缶コーヒーを開けて一口飲むが、美味しくなかったのかすこし顔が歪む。
「ん、これ失敗かも…。まぁあれね。この訓練は現役の隊員もやってるくらいだから、これができるのようになれば、一皮剥けるかもね」
「調査員は皆さんはいつもこんな訓練をしてるのですか?」
「結構きついよこれ」
「やってる人とやって無い人がいるわね。私なんかはそもそも自衛隊の訓練をずっとしてきたけど、これはダンジョン特化だから。それにこの訓練場はここしかないから、他の県はどうなってるのかは知らないわね」
「ってことはあれかな、稲守って人はやっぱり自衛隊なのかな」
「ね、だってうち達と一緒ならあんなに凄い事できるとはおもえないし」
「ふふっ」
稲守をよく知る加賀は、彼が自衛隊にいる姿を想像して笑ってしまう。
「「??」」
「あぁ、ごめんね。一応彼の事は知ってるけど、そうね…」
『いなっちはあれよ、化け物」
室内にある武具整備コーナーで弾丸を補充していたキューが帰ってきてたのか、会話に混ざる。傍らにはシトーもいた。
『そうですね。我々みたいに心臓部さえ守ればいいアンドロイドとは違い、人間の身体を持つにも関わらず、あれほどの戦闘行動ができるのは、危機管理という文字が頭から抜けているとしか言いようがありません』
「初回の調査も彼の成果はおかしかったから、もしかするとモンスターよりなのかも」
加賀が稲守の事を話すと、まるで恋してるかのように顔が綻び、笑顔になるのを見て笹山と高須は2人の関係が気になるが、どうせ濁される為聞かず。
「さっ、そろそろ休憩も良いでしょ?訓練しましょ?」
「「はい教官!!」」
2人は訓練に戻り、キューの射撃、シトーの蹴撃を浴びる。
この見る訓練は七日も続いた。
本来は2日、3日程度の予定だったが、2人の要望により日程が伸びたのだ。
しかしその結果、銃撃にも近接格闘もしっかり見る事を身に着ける事が出来た2人は。満を持して飯岡ダンジョンに2回目の調査にはいる。
「今日の予定は、内容は前回と同じでゴブリンの討伐が目的。調子よければサハギンの討伐を試みます。冷静に、緊張感を持って、決して侮らず的確に射撃すること」
「「はい!!」」
ダンジョンに入り、前回と同様に笹山からゴブリンに挑戦する。
~笹山side~
前回とは違い、確実に銃のセーフティを確認して準備を始める。
装備に異常は無いか、ぶら下がってたり、衣服に無駄な遊びは無いか、銃は、弾倉はと確認していく。
(今回は絶対倒す。シトーとキューちゃんに叩き込まれたんだ)
笹山は深呼吸し、身体をほぐし、エリア向うのゴブリンを見つめる。
(音を出さない移動法もずっと訓練してきた、やれる筈)
休憩の合間や休日の間、笹山は音を出さないで歩く訓練をしていた。
シトーやキューちゃんに協力してもらい、音センサーを使っての訓練だ。
意を決し、銃のセーフティを解除して、エリアに入る。
音を出さず、一歩、一歩と確実に歩を進める。
ゴブリンは気づかず、こん棒を見つめ何か呻いているようだ。
「ギャー…ンギャ?」
地面を僅かにこする音がして、ゴブリンは笹山の方を向こうと顔を動かすが、
既に射撃体勢を取っていた笹山は振り向く前にフルオートではなく、3点バーストモードでトリガーを引く。
ダダダン、ダダダン。
2連射撃。
ゴブリンの頭部に6発の弾丸が命中。
振り向いた勢いのまま、回転しながら倒れるゴブリン。
「ギャ!?」
(ここで気を抜いたらダメ!)
銃を向けながら、ゴブリンに近づく。
動かない事を確認し、喜ぶ気持ちを抑えながら通路へと戻る。
「ふう…ゴブリン討伐、死亡確認!」
自信と決意、経験に固められた笹山の精神力は強くたくましく育っていた。
揺るがず、冷静に報告し、武具の点検も終え、高須にバトンを渡す。
「芽愛里、ガンバ」
「うん!」
~芽愛里side~
笹山と同様に音を出さないで動く訓練に加え、連続精密射撃訓練、さらにはシトーとキューによる見る訓練。
体力作りと訓練付けの毎日をこなし何度も動画で見返したゴブリンと今日相対する。
(準備は万全、弾倉も問題無い。装備も…)
点検を終え、いざゴブリンエリアへと入る。
笹山とは違い、音を出さないで動く訓練は性に合わなかったのか、エリアに入った瞬間、前回と同様に速攻をしかける。
ダダダダダ。
前回より早く、正確な狙いによる連続射撃がゴブリンを襲う。
ゴブリンが振り向くと同時に頭部に銃弾が命中、声を発する暇もなくゴブリンは絶命した。
(よし、ってそうだ、気を抜いたらダメ)
はやる気持ちを抑え、確実にゴブリンが死んでいる事を確認するため近付く。
耳ははぎ取らず、銃は構えたまま呼吸をしていない事、目が動きていない事を確認し、警戒しつつ通路へと戻る。
「ゴブリン死亡確認!討伐完了しました!」




