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稲守任三郎とダンジョン戦記  作者: 正方形の木箱
第一章 稲守任三郎とダンジョン

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21話 稲守任三郎と一時帰宅

いつもの様に加賀に連絡するが、今回は持っているものが持っているものなので、トラックを手配できないか伝えると、サイズや重量を聞いてきた。

サイズはわかるが、重量がわからない。


「とりあえず、軽トラのロングか、2m程の荷台のある車をお願いします。回収したものが大きいので」


『大きい・・・?とりあえず扉を開けます』


電話が切れると同時に扉が開く。


「稲守様、おつかれさま・・・えっと、それは?」


「あぁ・・・木ですね」


「木ですか?」


「えぇ」


「・・・とりあえずトラックを手配しますね」


(よし、まだバレていないぞ)


本来ならば山に住んでいる稲守がわざわざ木を運び出すのはおかしいのだが、普段ダンジョンから出る珍しいものばかり見ていた加賀は、稲守の行動がわからず、少し動揺もしていた為か、不思議には思わなかった。


しかし、たまたま来ていた一人の男性が稲守が引きずっている木に気づいたのか、稲守に近づき話しかける。それも小声で。


「林野庁の杉本と言います。もしかしてそれは、ウォールナットじゃ・・・」


「・・・わかります?」


「はい、一応我々も規則については知っています。ただ、加工するのであれば手伝わせて頂けませんか?それも無償で、私個人の伝手を使います。当然政府は関係がありません。疑うなら契約書も書きますが」


「・・・後で詳しく、とりあえずは私の山へ向かいましょう」


全てが小声で会話され、加賀は手配したトラックの誘導を行っていた為か、2人の密談には気づかずじまいだった。


(そりゃ林業関係者ならびっくりするよなぁ・・・日本でウォールナットだ。サイズはあれだけど)


加賀が気を利かせたのか、ユニック車を手配した為、難なく荷台に丸太を乗せ、稲守達はタクシーに乗って稲守の住む山へと向かった。


とりあえずはいつも木を加工している加工場に下ろし、杉本はどうせなら山の調査をしたいという名目で残り、加賀達ダンジョン庁関係者たちを見送った。


「改めて、自分は稲守任三郎、この山を所有、管理しています」


「林野庁木材利用課、森林整備部の杉本です。先ほどの話ですが、個人的には、日本でウォールナットが取れるというだけで、ものすごいことだと私は思っています」


「自分もそう思います。しかし、この丸太を取るには多くの問題があります」


杉本に対し、まだ信用しきれていない稲守は方法はぼかして伝える事にした。


「この丸太はモンスターから取れるのですが、どうにも倒すのに時間がかかります。簡単に言えばハーフライフルかつスラッグ弾で15発程撃つ必要があります。倒せばこのように丸太にはなるのですが・・・」


「15発・・・相手は強いのですか?」


「えぇ、動きも早く、正直私もなんて言えばいいのかわからないような相手でして、正直余り戦いたくはない相手ですね」


魔法で倒したとはいえず、とりあえずは銃で倒した事にし、それも強いと伝える事によって依頼を間接的に断る算段だ。


「では定期的にこれを入手してほしいと言っても」


「正直なところ、これを運搬するだけで一度のダンジョン調査が終わってしまうので、依頼されても断ります。それに自分が使う分だけであれば、一、二本で足りますから」


「・・・」


少し考える杉本。

林野庁に所属している身としては、なんとかウォールナットの木材を定期的に手に入れたいが、一人の手で行うとなると、輸入するのに比べても遜色がないどころか高くなってしまうのだ。


「では、稲守さん。私が個人的に買い取ると言った場合はどうです?依頼を受けてくれますか?」


買い取るとなると丸太一本、それも人力、今言ってしまった手前かかる費用は銃弾15発分と稲守自身の人件費と考えると安くもなるが、稲守としてはわざわざこの丸太のためだけに時間を使うのは嫌ではある。


「先ほど言った通り、依頼は断ります。それに毎回持ち帰るわけでもありませんし」


「・・・では、丸太一本200万でどうですか?もちろんもっと欲しいのであれば」


「杉本さん、あなたは少し勘違いをしている」


「勘違い・・・?」


「そもそも、あなたは、加工を手伝いたいと言って交渉してきた。にもかかわらず今では買い取りたいと言っている。話が違う。交渉時に条件を直ぐに変える人とは取引しないと決めていますので、話は無かった事に。お引き取りを」


「な!、200万だぞ!?こっちが下手に出ればいい気に!」


「お引き取りを」


今の発言で、金を出せばこちらが靡くと思っていたのがわかった。

この時点でもう林野庁とは取引する道は一切なくなったのだ。


「・・・わかりました。土地の所有者に出ていけと言われれば、行かざるを得ません」


杉本は悔しくて顔が歪むが、偏に本人の交渉力不足である事、そして交渉が面倒だからと、どうせ金が貰えるから調査員をしているのだと稲守の事を勝手に決めつけていた事が彼の敗因だ。


近くに待機していたのか、杉本が電話をしてから数分と経たずに車が来て、彼を乗せて森から出て行く。


(お役所って感じだなぁ・・・林業が人手不足だってのに何も手をうたない時点でお察しだよ。初めはまともな人もいると思ったけど、結局は金で靡くと思ってるあたりダメだな。ま、無償で提供しろとか言わなかったのはまだあれだけど。200万もあとから値下げする気の値段だし)


その後は、加工場で丸太を半分に切り断面を見ていく。


(そもそもこっちで加工はできるんだよね)


この山には色々な設備がある。

ブラック企業で働いていたかいもあって、伝手と金はある程度あるのだ。

40年以上も前の機種や、一部90年代、60年以上も前の機種も存在するが、使用頻度も低く、部品点数も少ない為、まだまだ動く。

難点としては動かすだけで膨大な電気代が発生するが、敷地内にある太陽光発電システムによって短時間なら動く。


裁断機を稼働させ、まずは切り出す為に半分に切る事にした。

切り出した断面は綺麗で、多くの木にある節目が存在しない事に驚く。


(おいおい嘘だろ?節目が無い?トレントの時はあんなに枝があったんだが・・・)


ドロップ品だからか、何かしらの魔法的な作用があるのだろうか。


加賀にはショートメッセージで今週は休む旨を伝え、その間に作業場に置くための机を作っていると、ホテルに戻る前日に、加賀から電話が来た。


『稲守様、先週持っていた木についてですが・・・』


「提供はしませんよ?」


『・・・話は聞いています。本当に申し訳ありません』


「加賀さんは悪くないですよ?そもそも誰でしたっけ・・・えっと」


『林野庁の杉本ですか?』


「あぁ、そうそう、その杉本さんとお話しましたが結局金を払うからよこせと言われたので、丁重に断りました」


『そうですか・・・。実はあの方がある事無い事言いふらしてしまったらしく・・・』


「ある事無い事?」


『えぇ・・・実は』


件の杉本は、稲守の対応が余程気に食わなかったのか、全く関係のない部署も巻き込んで、稲守の事を強欲だの金の亡者だの、銃を使って脅してきた等、色々な場所でまるで壊れたスピーカーのように大声でしゃべってしまったのだ。

その結果そのことがマスコミにまで伝わったらしく、調査員へインタビューをしようと、飯岡ダンジョン前にマスコミがおしかけ、稲守が来るまで待つ為にテントを持ち込んだりとやりたい放題らしいのだ。


「えっと、そうなるとちょっと調査は無理ですね。ダンジョンの場所までバレてるとなると・・・」


『本当に申し訳ございません。一応我々の方で護衛をと考えておりましたが・・・』


「すみませんが、しばらく山に籠る事にします。もし、この山に無断で入った場合は、個人資産管理所有法に則り、抵抗及び発砲しますとお伝えください。あ、加賀さんであれば良いですよ」


『必ずお伝えします。もし、不都合がありましたらご連絡ください』


「わかりました。加賀さんも無理しないように、では」


その後は例の杉本が稲守の山の位置をわざとバレるようにしたせいで、マスコミ連中が山に入り込むのだが、猛獣たちの楽園である千葉の山林を甘く見ていた結果、熊に襲われ車を横倒しにされたり、住処へ攫われる者や、狼の群れに襲われ大けがを負う者がでる始末。

成果がでないばかりか死傷者まで出てしまったマスコミは、情報を渡した杉本へとターゲットを移す事にした。


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