瓜子姫の母
昔々あるところに、花子という器量の良い賢い娘がおりました。
しかし少々引っ込み思案で身持ちが固過ぎるきらいがあり、大人になっても嫁入りをせず、
ずっと父母の元で炊事・洗濯や野良仕事などをして過ごしておりました。
そんなある日の事です、花子が家の瓜畑の手入れをしていると、
なんとその近くを大名行列が通るではありませんか。
「下にぃー、下に!」
そんな掛け声に気付いた花子は咄嗟に地面に伏せ、頭を下げて行列が通り過ぎるのを待ちました。
しかしいつまで経っても、行列が通り過ぎる様子はありません。
何をモタモタしているのかしら?と花子が不思議に思っていると、
「そこの娘。」
お侍様がいきなり花子に声を掛けて来ました。
「は、はい。何のご用でしょう?」
驚いた花子は頭を上げて返事をします。
「何大した事ではない、殿がこの瓜を一つご所望なのだ。貰っていくぞ?」
そう言うとお侍は、畑の中から手頃な瓜を一つ採って持って行きました。
はて、一体何をするのだろう…?気になって様子を伺っていた花子でしたが、
お侍が駕籠の中へ瓜を届けると、大名行列はそのまま過ぎ去って行ってしまいました。
そしてしばらくして、畑を後にした花子は川で洗濯をしておりました。
するとそこへドンブラコドンブラコと、先程の瓜が川上から流れて来るではありませんか。
驚いた花子は直ぐ様その瓜を拾い上げます。
よく見てみるとその瓜には穴が開けられており、中からなんだか栗の花のような匂いが漂っておりました。
「ははぁん、なるほどそういう事か。」
花子はなにやら得心したようで、その瓜をこっそり家へと持って帰る事にしました。
それから一年ほど時が流れ、花子は相変わらず父母の元で炊事・洗濯、野良仕事をして過ごしておりました。
一つ違うのは、花子が背中に小さな赤ん坊を背負っている事です。
なんでも瓜の中の種から生まれた子供だそうで、
花子はその女の子に『瓜子姫』と名付けて大切に育てているのでした。