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【スカッとする話】魔法の呪文【お前に言われる筋合いなどない】

作者: 黒田皐月

 とある町、床屋さんの向かいに生垣に囲われた古い家がありました。

 そこには爺が一人で住んでいました。

 爺は大変な嫌われ者でした。

 床屋へ行こうと自転車を生垣の前に停めた人を怒鳴り、飲み終えた空き缶を生垣に突っこんだ人を怒鳴り、その家からは年中怒鳴り声が響いていました。

 絶えない怒鳴り声に、道行く人も近所の人もいつ大声を上げられるかわからなくて怖い、寿命が縮むと噂しあっていたものでした。

 その不満がSNSに乗って全世界に広がった時、ついに勇気ある世直し系動画配信者が立ち上がりました。

 彼にはそういう迷惑な人を黙らせる魔法の呪文があると言うのです。

 男は爺の家の前に赴き、これ見よがしに煙草をふかしはじめました。

 爺は暇だから四六時中家の前を監視しているのだという陰口のとおり、爺は早速男を見つけてにらみつけてきました。

 しかし男はそんな目に動じることなく、逆に汚いものでも見るような目で爺をにらみ返しながら、おいしそうにゆったりと煙草を吸って見せてやりました。

 そして飽きもせずに爺がにらんでいる目の前で、昔のテレビドラマのように煙草を足元に落としました。

 爺の目が険しくなったのを見て、男は爺と目を合わせたまま、靴底でこするようにして火を踏み消しました。

 案の定、爺は怒鳴りながらつっかけを履いて飛び出してきました。

 人の家の前に煙草を捨てるとは何事だと、爺は男に詰め寄りました。

 男はやはり動じることなくどろりとした目で爺を見下ろして、その呪文を口にしました。

「お前に言われる筋合いなどない」

 爺は激高してさらにがなり立てましたが、それは男にとって聞く価値のない戯言でしかありませんでした。

「お前は警察か?」

 眉間にしわを寄せてわずかに爺に顔を近づけると、それだけで爺は怯んだようでした。

「ここは道路であってお前の土地ではない。お前が何かを言う権利など、どこにもない」

 迫力を失いながらもまだ自分の非を認めずに言い募る爺に、男は脂で黄ばんだ歯を見せて笑いながら、諭すように言いました。

「そんなに言うなら出るところに出ようか。脅迫ということでお前が罰せられるだけだけどな」

 男の正論についに爺は黙りこくり、すごすごと家に帰っていきました。

 それ以後、その家から怒鳴り声が聞こえることはなくなり、みんなこれで安心だと大喜びしました。

 その様子は動画で配信され、勇気ある男も小遣いが稼げて幸せでした。

 有名になったその生垣からは、いろいろなものが混ざった臭いが絶えなくなりました。

 最初のうちは爺が掃除をしていましたが、追いつかずに諦めてしまい、ついには縁側にも姿を現さなくなりました。

 そうしてからっ風が吹くようになったある夜、家は火に包まれました。

 古い木造の家は全焼し、両隣の新しい家も、燃え移りはしなかったものの激しい焦げ跡がついてしまいました。

 燃え尽きた家からは、一人の男の遺体が発見されました。

 誰もがこれまでの行いの報いだと口々に言い、SNSでは祭りにさえなったということでした。

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