元気ですか。六股君!
この小説。
すっごく遅筆な理由が分かりました。
17歳の男の子の、一人称視点にしてしまったからですね。
僕には分からない。
眩しい少年の気持ちなんて、僕には分からない!
僕には三人称がいいね(死)
東の戦場に辿り着くと、敵軍は二重三重に友軍を取り囲んでいた。地竜に跨る着せ替え人形が、ここでも太鼓を一定のリズムで打ち鳴らしている。音は戦場の隅々まで響き渡って、何かの指示が出ているようだ。
だが、戦闘行為に参加しているのは前方の竜騎兵のみであり、全ての竜騎兵ではなかった。後続はだぶついて、ただそこにいるだけ、といった印象を受けた。
「敵軍です。敵軍! どうします? 味方も奥にはいるみたいですけど?」
「決まってるやろ! 喪失武器よ! 突撃せよ!」
カティアの命令が耳鳴りとなり、脳内に電流が走った。鎖を引く手に力がこもって、青銅の戦車は唸るようにスピードを上げる。
――確信した! 突撃以外の命令は出さないんですね!? カティアさぁぁぁん!!
「イッヒッヒ――! あいつらびっくりするぞぉぉ――!! いっけぇ――!!」
唾を飛ばして興奮するカティア。脳内麻薬の虜になって暫く戻ってこないつもりだ。竜騎兵は、この悪戯好きな悪魔が背後から迫って来ている事を知らない。ダリューン川の方から僕達が――。本陣の方角から敵が攻めて来るとは、夢にも思っていないはずだ。
爆走する戦車の接近に気が付いたのは、距離が百メートルを切った時だった。ようやく何匹かの竜騎兵がこちらを向いたが、もう遅いし間に合わない。ものの数秒で到達できる。
「ん、ぎぎぎぎ――!」
僕が奇妙な声を上げるのは、突っ込んだ後の事に、だいたいの予想がつくからだ。青銅の戦車は、ブレーキが壊れた巨大なダンプになった。最高速度で障害物を薙ぎ倒す。
「進めぇ――!! 靴下君! 進めぇ――!!」
「やってますよ!! カティアさん、ケガしないように気を付けてくださいよ!!」
カティアは敵が混乱している内に突き抜けて、味方と合流する気だろう――。結果、着せ替え人形が、槍を投げる暇すら与えない。
――今度こそ、うまくいくんでしょうねぇぇ!
手がビチャビチャになろうが、足元がぬかるんで悪かろうが、ただひたすら前に進む。最後の壁を突き破ると視界が開けた。
カティアの長い髪が、紺碧の外套が、風を一杯に受けて大きくはためく。
「抜けたで――!!」
雪の兵士が見えた。まだまだ沢山いる。竜騎兵の大軍に囲まれながらも、しぶとく生き残って一進一退の攻防を繰り広げていたのだ。
と、そこに、一体の喪失武器がいた。素早く動いては竜騎兵が縮めようとする包囲の輪を破っている。多勢に無勢な感じがするが、恐らく包囲されても善戦を続けていたのは、このせいが大きい。
「お待たせ六股君! 手伝いにきたよ!」
雪の兵士の中に戦車を停止させると、すぐに気が付いた六股君が走り寄って来た。戦闘を続ける兵士たちの間を抜けて、すばしっこいネズミのようだ。
「なんか久しぶり靴下君! 孤立したって聞いてたけど大丈夫だったんだな?」
「うん。何とか平気だよ。……いや、違う。実は……」
僕と六股君は、お互いに顔面を露出させて相手の顔を見たが、僕だけすぐに、暗い顔になった。
「実は……、オハナさんと別々になったんだ……」
「え? マジで? 本当だ。いねぇ……。カティアさん、オハナさんはなんで別行動なんすか?」
六股君は真顔で言った。カティアはにっこりとして、駄々をこねる子供をあやす様な感じで答えた。戦車から見下ろすので、影になって不気味だけど。
「心配せんでええ……。もうすぐ会えるからね」
「嘘だぁ……」
僕は大人を代表して、ぼそっと呟いた。敵の本陣に置いてきたオハナさんの下半身が心配になってくる。敵の本隊が戻ってしまって、廃棄処分されたりしないだろうか。
――そもそも、オハナさん。あの座標に自分の下半身が放置されてるって、どうやって知るのだろうか?
カティアは、僕が疑ったので不満そうだった。
「嘘ちゃうって、オハナさんは大丈夫や。ちゃんと伝言残してきたやろ」
「いや、そうですけど」
「伝言って?」
六股君が僕に訊いた。
「酷いんだよ。オハナさんの下半身にガリガリガリって、石で字を書いたんだよカティアは」
「ん? 状況が全然わかんねぇ。なんでオハナさんの下半身に字を書くんだ? 直接言えばよくない?」
「ああ、そうだよね……えっとね、その……」
そうか――。六股君はオハナさんの上半身が、人工衛星のように打ち出されたのを知らないんだ。――どうしよ? なんて説明すれば信じるかな……。
僕が悩んでいると、六股君は意外な事実に気がつく。
「そもそも、そんな伝言残したところで、字、読めんの? オハナさん」
――あっ!!
思わず僕は、カティアの足元にすがりついた。大変だ。どうして気が付かなかったんだ。
この世界の文字を僕達は読めない。この世界の共通文字は、カティアが作った契約書の文字と同じ物だろう。あの文字を使ってカティアが伝言を残したのなら、オハナさんでは読めない。もちろん先生だって同じだ。僕達が文字を読めるのは、カティアに「読め」と命令された時だけだ。
カティアが僕に背中を向けていたせいで確認しなかった。これでは、オハナさんの上半身が無事に帰還して下半身と合体しても、次にどうしていいか分からない。オハナさんが戦場の中で――いや、最悪の場合、敵軍の中で孤立してしまう!
「カティアさん!! どうするんですかぁ!! 戻らないと――!!」
「手遅れや! 何か来たぁぁああ――!!!」
カティアはすがる僕の手を蹴り飛ばした。なんて足癖の悪い人なんだ。ここまで来といて、何をそんなに慌てているんだ?
食ってかかろうとすると、珍しく六股君が僕を裏切った。
「靴下君。オハナさんの件は、あとにしようぜ」
「なんで?」
「あれ、見たらわかる……」
六股君は南の空を指した。いつの間にかどんよりと雲が立ちこめていたが、そこには、風景画から抜け出そうとしているような、鮮やかな赤い色の鳥が飛んでいた。
――え? あれ鳥か?
大き過ぎると思った。相当距離が離れているが、低空を飛ぶ旅客機のサイズだ。僕は解除していた頭部の歯車を元に戻した。そうすれば視力が上がる。喪失武器の装甲を通すことで、大きな鳥の正体を確かめようとした。そうして後悔する。
「――うわっ! あれってドラゴン!?」
誰でも知っている有名な幻獣だ。小説や漫画、アニメに映画、そのどれもに最強として登場する竜の形だ。下級の地竜のような、二足歩行をして恐竜を連想させるものではない。本物の竜だ。ドラゴンだ――。
驚く事はもう一つあった。自分で発見してしまったのに、目撃したものを信じられなかった。
――いた……。
竜の頭から、幾つもの鋭い角が伸びている。その隙間に、第十一書記のゲヘナがいる。地上をいくら探してもいないはずだ。なぜなら、巨大な竜に跨って空を駆けてくるから――。
カティアは、珍しく顔面蒼白になって身を乗り出した。
「おそらく火竜や! 雪の兵士は固まるなぁ! 反対属性の竜の息がくるぞぉぉ」
そのような注意喚起をされたとしても、従えないだろうと思った。僕達は囲まれているんだ。外に広がる行為は抑制されていて、逃げる場所は見当たらない。
竜が口を広げると眩しく光った。次の瞬間には、僕達の背後で火柱が起こった。大きな火柱だ。畑数枚分を一気に焼き尽くしてしまいそうな火柱が立ち上がる。雪の兵士が飲み込まれてしまった。囲まれても善戦を続けていた雪の兵士が、一斉に蒸発してしまった。
「あああ、やられたぁぁ――!! おのれ火竜め――! 雪の兵士がいなくなったら、私がダストンに怒られるんやで――!! 絶対ぶち殺すぅぅ――!!」
カティアはツルハシを取り出して振り回した。
嫌な予感がする。ふと、六股君と目線が合うと同調が開始され情報交換が行われる。
――カティアは竜と戦う気だよね? だよね? 火力が違い過ぎるでしょ! こわい、こわい、この人こわい!
どうやら六股君も、何も言わないが不安は不安らしい。
「第十三書記カティアの名で命ずる――。其れは、この世の終わりにて始まりなり――、近くて遠い双星の片割れなり――。型式二番。新兵装解除――!!」
嫌な予感ほど、よく当たる。




