喪失武器とは何ですか?
ついに、真実がぁっ!
マールじいさん元気ですね!
マールは立てた杖の先端に顎をのせた。少し話し疲れたように見えた。
「喪失武器が星を破壊した。バースの大地は戦火を免れるために宇宙に旅立った……。質問に答えてやろう。バースの創世記に登場する兵器、それが喪失武器の正体じゃ」
全員がゴクリと唾を飲んだ。
「随分とまた……そ、創世記ですか……。これはこれは……とてつもない話だ。どれ程の歴史があるのか分かりませんが、大抵、そのようなお話は誇張されていて、真実を伝えていないことが多い。あまり信用出来ませんねぇ」
先生はまたメガネの端を触った。どうやら予想外の言葉が飛んできたり緊張したりすると、その仕草をするようだ。先生に賛同するように六股君は何度も頷く。その度に、サラサラの金髪が揺れた。
「そもそも、そんな大昔に俺らいねぇし」
「そうだよ」
僕も調子を合わせた。
マールは、僕と六股君を目でなめつけた後で言った。
「ワシも半信半疑だったが、どうやらカティアが、その時代の遺跡を堀当てたようじゃな。そこで見つけたのじゃろう。魔術師を召還する方法や兵器としての使い方を。先程の神々しい巨人の姿こそ、伝え聞く喪失武器そのままの形じゃったわ」
「はい! は~いっ!」
「はい、オハナさん!」
オハナさんが手を上げたので、先生がごく自然に指名した。さすが本物の先生だ。風景が一瞬教室になった。
「魔術師て何!?」
もう、いい加減にしてとばかりにオハナさんが睨みを効かす。確かに理解不能なワードが次から次へと飛び出してきますが、怒るのは止めましょう。まずは話を聞きましょう。
「バースに敵対していた勢力どもじゃ。書記が使う、契約の力と同じような力を持つ者だったと伝えられておる」
「それが私達と、どう関係してるのかしら?」
「恐らく魔術師の子孫なのだろうよ。お前らは。だからカティアに目をつけられた」
「いやぁぁあ……、違うと思うけどなぁ……」
遠慮がちに僕は否定した。
ふくよかに太ったママの体躯を思い出す。やはり違う。僕の親は魔術師なんかじゃない。魔術師はもっとシャープなはずだ。勝手なイメージで大変恐縮だけど……。
マールは首を振った。
「あとは、お前らの雇用主に聞いてくれ」
擦れた金属音が近づいて来るので振り向けば、カティアが一人で歩いていた。骨の化け物が一緒じゃない。
「進軍は止めや。今日はここで休むで。各々どっかの家に転がり込んで適当に寝てや」
「うしっ! やった!」
六股君はその場で跳ねて喜んだ。色々と疑問は残るけど、一旦お開きになりそうだ。
僕達は、村人が慌てて逃げ出した村に居る。戸締まりされていない扉は、簡単に見つかりそうだった。
僕はマールに、あるお願いをした。
「マールさん。実は僕、お腹が空いて倒れそうなんです。家の中で食べ物を探してもいいですか?」
そういった行為は略奪となる。目の前に座っているのは、少し物知りで弟子に頭の上がらない情けない老人だが、この地の領主であるはずのマールが了承すれば、罪に問われる事はないだろう。僕は、餓えてしまう前に許可が欲しい。
「ええで」
「って、お前が言うんかい!!」
カティアが先に言ったので、僕は上半身のバネをフル活用して突っ込んだ。マールは肩をすぼめる。
「よかろう。だがカティアよ。玉座に着いたなら、この村の住人を手厚く施せよ。じゃないと許さんぞ」
「分かっとるわ師匠~。約束するわ」
「ふむ」
マールの許可が下りた。これで遠慮せずに物色できる。カティアはまだ、マールに用があるようだった。
「あのな師匠」
「なんじゃ」
「私の領地に第五書記のトリアが攻めて来とんねん」
「むっ、トリアか。またやっかいな奴じゃな。アイツの契約しとるゴブリンどもは、礼儀なぞまるで知らん獣じゃぞ。急いで戻れ、民が危ない」
「せやろ? 私の契約しとる骸骨将軍を百体ほど置いてきてんけどな」
「うむうむ」
「今も一体応援にやってんけどな」
「ワシをぶら下げとった奴じゃな」
「そうそう。でも骸骨将軍百一体しかおらんやん?」
「そうじゃな」
「流石に、ゴブリン三十万はキツいと思うねん」
「……じゃろうなぁ。いかに最恐の地獄の戦士でも、相手の数が多いか」
「助けに行ったって」
「えっ? ワシ?」
「うん。ワシ」
マールはキョトンとして、目を丸くした。背筋が伸びている。
「いや、森の精霊いないし、無理じゃろ」
「師匠、風の精霊とも仲ええやん」
「風の精霊は移動用じゃぞ」
「私の領地にも若い森の精霊おるから、そこまで移動してさ、連れていってええで」
マールは立ち上がると、深くため息をついた。
「はあ……。しんどいのぅ……しかし了解じゃ、お前の民を救うために、人肌脱いでやろう。新しく森の精霊が手に入るし、どっちみちトリアを止めないと、ここまで侵食するじゃろうしな。で、お前はこれからどうする?」
「師匠にトリアは任せて、川を渡るために北上するわ。トリア捕まえたら、私の前に連れて来てくれる? 速攻で契約するから」
「ワシが負ける事も考えておけよ。トリアは強いぞ」
「いやいや、師匠なら余裕やって。期待してるで」
「ふん。馬鹿弟子が。安いおだてには乗らんぞ。今日はお前の森まで移動して、そこで休むとしよう。風の精霊よ、ワシを運んでくれ」
強い風が吹き抜けたと思ったら、マールが白いつむじ風に巻かれていた。目の前でみるみる浮かび上がる。僕達は腕や、顔を背けてぶつかってくる風を避けた。
――すごい! 風が生きているみたいだ。
「暫しの別れじゃ、行ってくる」
七十を越えていそうなマールであるが、僕達の誰よりも元気に空に飛び立った。東に向き直ると、次の瞬間には移動を始めて、すぐに闇の中に消えてしまった。
「師匠、すまんな。後で肩揉むから頑張ってな」
カティアは東の空を見ながら、マールの無事を願っているようだった。