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十三人の書記

こいつを書き上げたら応募するぞ!


うひ。

うひひひひ。

 書記が書いた文字には、神秘の力が宿る。

 したがって、書記が作成した契約書を取り交わすと、契約が拘束力を伴う。書記の完璧な支配下に置かれるようになり、都合のいいように扱われる。それは時に、肉体や精神にも干渉してくる絶対の命令である。

 だが、契約には対価が必要である。書記は契約書を作成するにあたって、必ず報酬内容を明示しなくてはいけない。その報酬が契約者にとって真に魅力的でなければ、契約は成立しない。


 バースの大地は、王がおわす玉座の地と他に、十三の領地に分けられていた。領地には王位継承権を持つ書記が必ず一人いる。領主として振る舞う者もいれば、権限を誰かに託したまま、己の理想とする生活に没頭する者もいる。有力貴族のように崇められる者もいれば、変わり者の仙人のように疎まれる者もいるといった具合でまとまりはない。

 ただ、王が崩御すれば、それまでの生活を捨て書記は戦わなければいけない。一つしかない玉座を手に入れる為に。自身の理想を掲げる為に。宇宙の暗闇に、バースの大地が船出した頃からの決まりである。


 最終的に玉座に辿り着いた書記が、バースの大法典に一文を追加する。それが次の王になった書記の最初の仕事である。その一文は、絶大な効果を持ち、バースの大地に生きとし生ける者全てに適用される。当然、異を唱える事も抗う事も出来ない。その一文に書かれる内容しだいで、バースの大地はその王が崩御するまで、地獄にも天国にも変わる。僕は質問を続けた。


「へぇぇ~……。凄く理解できた気がします。そういう仕組みで回ってるんですね。この世界は。僕達は第十三書記のカティアと契約したから、戦争が終わるまで帰れないんですか?」

「それはカティア次第じゃが、全てが片付くまでお前達を手放す気はないじゃろうな」

「や、やっぱりか……」


 僕は落胆した。拘束を解かれた第十書記マールが、家の玄関に続く短い階段に腰かけながら、僕の質問に答えてくれた。マールを取り囲むようにして僕達は立っている。カティアは人型の大きな骨を連れて、何処かに行ってしまった。

 マールに質問した理由は簡単だ。カティアに聞いても、丁寧な説明は期待できないと判断したからだ。正解だったと思う。

 横に立っている六股君が口を開く。


「カティアとは、師弟関係なんすよね?」

「そうじゃ」


 マールは答えた。少し老けて縮んだ気がする。


「カティアの家族は、五年前の戦争で死んだ。十二の時にワシが拾って育てたが、才能があったので書記にした。元々は墓堀人(はかほりにん)の娘じゃ」

「だから、穴を掘るのが得意なのね」


 オハナさんが割り込んで溜め息をついた。一緒に穴を掘った記憶が甦ったのだろう。マールが、そうじゃなと言った。


「カティアが戻っても、ワシに聞いたと言うんじゃないぞ。今の話は秘密じゃ」

「何故ですか? 仮にも師匠であり育ての親でしょう。カティアに遠慮するんですか?」


 先生が怪訝な顔をした。

 

「あやつは超がつく短気なんじゃ。しかも昔の話をあまりしたがらない。また骸骨将軍(スカルジェネラル)を召還されたら面倒じゃろ? 触れて欲しくないんじゃ」

「なるほど、確かに短気だし不幸な話だ。では最後に一つだけ、質問してもよろしいですか?」


 先生はメガネの端を、くいっと上げた。マールは(うなず)く。


「ロストウェポンとは何でしょうか? 我々散々とその名前で呼ばれているのですが、心当りがまるでないのです。何かご存知じゃないですか?」

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