本当に師匠と弟子ですか?
というけで!
十四話です!
花粉症は日本だけじゃないかも知れない!
――焦る。
僕の呼び掛けに、銀色の巨人が反応しない。銀色の巨人は、神木の精霊の太い腕を押し返そうと踏ん張ったまま動かない。全然攻撃してくれない。
その内二人の書記が、武器を構えてにじり寄った。
「はっくしょん! ああ、くそっ! ジジイ勝負や!」
「止めておけ、生意気な馬鹿弟子が!」
カティアとマールは、肌が触れそうなぐらいに睨み合う。
「誰が止めるか。舐めてんちゃうぞ、こら」
「だから、師匠には敬語を使えと何度も言っておる」
「なんでジジイだけ花粉が効かへんのや? 卑怯やろ」
「前に教えてやったじゃろ。やはり、聞いておらなんだな馬鹿弟子よ」
「ふん、もうええわ。へっくし。……ろ、喪失武器よ。命ずるで。お前らには森の精霊の粉は効かん。まったく平気。たった今からへっちゃらや! なので私を援護してくださぁぁい!」
カティアは、上半身を反らして僕達を見上げた。鼻水が垂れて酷い顔だ。呼吸が辛過ぎて、最後の方はお願いになっている。
――だけどそうか、こうやって命令されれば!
すぐに鼻が通ってきた。新鮮な空気が嘘みたいに流れてくる。
雇用主の命令は絶対だ。
契約に縛られている僕達は、カティアの都合の良いように物凄く適当に作り変える事が可能。例えば、戦車を引っ張る怪力とスタミナが身に付いたり、読めるはずのない文字が、読めるようになったりする。
雇用主のいいなり――とは、よく言ったもので、この現象を応用すれば、酷い花粉症に耐性をつける事も可能な訳だ。
なので――。やっと集中できる。やっと攻撃に全部の意識を向けられる。
――だから、ちゃんと動いてくれぇ!
その想いが伝わったのか、ようやく巨人の両肩から、ゆっくりと角が伸びる。
――よし、いいぞ!
巨人の攻撃が始まる。その角は、一定の長さに達するとミサイルのように飛び出すはずだ。集中が切れないように、そっと、このまま慎重に……! ロウソクの炎を持ち運ぶみたいに慎重に……! だがマールは、僕を見逃してはくれなかった。
「甘いぞ馬鹿弟子が! ……神木の精霊よ、第十書記マールの名において命ずる。更に小さくだ。どんな網でもすり抜けるように粉を小さくするのじゃ。ついでに色々な花粉を混ぜて、対応出来ないようにしてしまえ! 超、超、強力な精霊の粉で埋め尽くすのじゃ!」
白い竜巻が至る所で起こった。地面に積もった粉を巻き上げている。上からも下からもブリザードのように粉は降り注ぐ。
マールは雪ダルマのように転がりながら、残酷な事実を告げた。
「分からんのか? 契約は契約で勝れば良い。結局は、書記の力の優劣で勝敗は決まるのじゃ! お前に勝ち目はないぞカティア! さっさと降参せんか!」
――あ!!
僕は棍棒で頭を殴られたようにショックを受けた。これは不味い。また始まった。目と鼻から大量の液体が出る感覚。おまけに頭痛がして喉も痛い。さっきまでの症状よりも酷い。
「カティアの契約が負けたのか!?」
僕が、さっそく一発目のくしゃみをかまそうとすると、先生が鼻をすすりながら言った。
「ちょっと待て、なんだ、このスイッチは!!」